表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天才術師の存在証明《イグジステンス》  作者: 絢野悠
【ダルカンシェル編】 クロスオーバー:白き厄災 
46/162

八話〈クロスオーバー:ナスハ=キューリット〉

 クオリアとエミリオを見送り、ナスハは兵たちの指揮をとる。


 そうは言っても、キュクリオやマスカードにも将はいるため、基本的にはその将に対して陣形の指示を出すだけだった。


 城での爆発を遠目に見ながら、やれやれと額に手を当てた。


 突如、強大な魔法力が周囲を包んだ。


 彼女はこの魔法力が誰のものかを知っている。ミュレストライアにいた頃、おそらく一番近くで感じていたのだから。


 隕石のように、上空から衝撃が降ってきた。


 土煙が舞い、風によってすぐに空気に流れていく。晴れた視界の先、抉れた地面の中央に一人の男性が立っていた。


 黒いシャツに黒いズボン。上には黒いコートを羽織った黒髪の男だった。髪の毛は少し耳にかかる程度でそこまで長くない。


「久しいな、ナスハ」

「ええ、お久しゅうございます、ライオネル王子」


 ナスハは両手を腹の前で重ね、浅くお辞儀をした。そしてすぐに身体を戻す。


「第一世界はどうだ、楽しんでるか?」

「それなりに、といったところでしょうか。そちらはどうですか? 今でも勝手気ままにやっている様子ですが」

「第一世界最高位、ライオネル=フィン=アルメイシュだぞ。出来損ないの弟とは違うんだよ」

「『あの方』の悪口はそこまでにしてくださいませ。『あの方』は優しく、貴方とは似ても似つかない。貴方よりも王に相応しく、貴方に葬られた不幸なお方です故」

「俺が葬ったわけではない。結局は父上の意向なのだから仕方なかろう? それより、もう一度こちら側に戻ってくるつもりはないか? あの日、お前が自分からゲートに飛び込んでから不自由で仕方ない」

「申し訳ありませんが、貴方に仕えることは二度とありません。スーベリアットでは良き主に良き待遇で迎えてもらいましたので」

「そうかそうか、それならばいい。お前のようないい女、簡単に戻ってきては面白くない。俺がこの手で迎えに行ってやろう。ただ、今は別の目的があるからな」

「世界統一、ですか」

「第一世界はもう俺の物だ。次は異世界を制圧する。十二領帝だけじゃかなり不安だがな」

「三嶽神は一人も参加していないようですね。それでなんとかできるとは思いません」

「一人だけ参加させてやったぞ? まあ、現存する他の二人やクオリアには到底敵わないが」

「なぜその方を三嶽神に?」

「野心があったからだよ。その野心は強力な武器になる。本人も周りも気付いていない、俺だけが知っている強力な武器にな」

「その武器を得るためにクオリアをゲートに押し込んだ、と」

「おいおい、なんでそういう話になるんだ? クオリアが死んだ話は関与してないぞ?」

「いいえ、貴方はカーティスを傀儡として使ったんです。クオリアを抹殺できれば三嶽神にしてやるぞと。評価し、第一世界での待遇を良くしてやるぞと」

「そんなバカな話を俺がするわけないだろう。なによりもお前は五年前に『アイツ』と一緒にゲートに飛び込んだ。この五年間の出来事など知るはずがない」

「そんなはずがない、そんなわけがないというのは勝手な思い込みなのですよ。貴方の祖父グレアルが行った【世界観測計画】の被験体である私や『あの方』ならば、その能力を使って見ることが可能なのです」

「あのクソジジイ、そんなモン作ってやがったのか。しかも俺には施さずに」

「グレアル様はあの世界を憂いておられた。実の息子や孫の狂気も、少なからず感づいていたようです。しかし自分には発言権はなく、戦闘面でも十二領帝にすら劣る。それならば別の方向からアプローチをしようと、年をとりながらも自身を研鑽なされた」

「そのなんとか計画ってのには興味があるな。帰って調べてみるか。ジジイももう死んじまったしな」

「さすがにもう高齢でしたからね」

「なに言ってんだ? 殺しちまえば年齢なんて関係ねーだろ」


 ナスハはなにを言われているのかがわからなかった。その言葉を噛み砕くことも飲み込むこともできないでいた。


 グレアルと共に過ごした日々を思い出す。捨て子だった自分を広い、侍女として、戦士として育ててくれた恩人。父や祖父のようでもあり、教師や教官のようでもあった。撫でてくれた手の感触や、本を読んでくれた優しい声などが脳裏をよぎれば、自然と涙が溢れてるく。


 ライオネルは狂気の瞳で笑った。ナスハに背を向け、コートをはためかせる。


「悔しけりゃ、第一世界まで追って来いよ。それができるんなら、だけどな」

「ま、待ちなさい!」


 制止なの意味はなく、彼はまた上空へと消えていった。城に向かうでもなく、戦闘を行うでもない。そんなライオネルの思考や行動理念を理解できず、下唇を強く噛んだ。


 だが、ここで立ち止まるわけにもいかなかった。


 自分にはやらねばならないことがあるのだと自分を叱咤する。


 一度大きく深呼吸をした時、エミリオから通信が入った。アイリスを倒したが、エミリオ自身も行動不能だということだ。


 通信を終えて兵に指示を出す。エミリオとアイリスを回収するのは自分の役目だと、全身を強化して走りだす。


 クオリアに通信を入れ、ライオネルの存在を知らせる。気をつけるように、無理に戦わないようにと釘を差した。クオリアは「わかったわ」と、残念そうに小さく言った。


 草原を超えて森の中に入った。倒れている兵の横を疾駆しながら、もう一度グレアルのことを思い出す。


「グレアル様、どうか、安らかに」


 そう一言つぶやいて、流れてくる涙を拭った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ