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天才術師の存在証明《イグジステンス》  作者: 絢野悠
【ダルカンシェル編】 クロスオーバー:白き厄災 
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六話

 日が昇る前に宿屋を出て、昨日よりも緩い速度でアンジェイルへと飛び立った。エミリオとナスハのために、クオリアが速度を緩めたのだ。


 澄み渡る空の下、深い蒼の海を渡る。時に鳥のような動物と一緒に飛翔し、時に魚のような魚が顔を出していた。


 マスカードからキュクリオまでよりも時間はかかったが、それでも三時間以内で到着した。なんとか死守しているのだろうと思われる砦の前に背を向けて立つ。


 大我に連絡を入れて魔法力の上限を開放してもらう。これで準備は万全と、三人は顔を見合わせた。


「それじゃあ私は先に行くわね。できるだけ一般兵は倒しておいてあげるわ」

「承知しました。できるのなら、アンジェイル兵なのかミュレストライア兵なのかを教えてくれるとありがたいのですが、そこまでは難しいと思うので城を目指すことを第一に考えてください」

「ええ、それじゃあ」


 宙に浮き、風を切って飛んでいく。


 遠慮することはないと、無理のない程度に魔法力を行使した。


 魔獣を生み出しては兵に攻撃を仕掛ける。ナスハに言われた通り、視力を許可して兵を見下ろす。ナスハへ「アンジェイルが三割、ミュレストライアが七割といったところかしら」とだけ通信を入れた。


 城に近づくにつれ、兵の動きが変わっていく。クオリアの姿を捉えたことで行動を開始したのだ。


 自分が使えるだけの魔法力を行使し城の中を探った。必要なのは魔法力の大きさ。


 アンジェイル城の四階に、一際大きな魔法力の反応を感知した。


 手を振り払い城を破壊、四階へと突貫した。


 軽やかに着地し、土煙の中を闊歩していく。唐突に打ち出される魔導術の球体を避け、視界が晴れる場所まで歩いた。


「ホントに生きてたんだな」


 ターナーよりは小柄であるが、それでも筋肉質で長身の男が立っていた。赤い髪の毛、黒い軍服の上から白いマントを羽織る。武器はなく、ただただ鋭い眼光を放っていた。


「さて、まずは私を謀ったことに関しての釈明をして欲しいわね。十二領帝第四位カーティス=マグナス」

「釈明もなにもない。メロディアやターナーから聞いているだろう。お前が邪魔だった、ただそれだけだ」

「私が自分勝手な行動ばかりしているから、それは建前でしょう。もしも、私をどうにかしたいだけなのなら他の三嶽神と協力すればいい。それをしなかったということは、貴方は自分の手で私を葬りたかった。自分が新しい三嶽神になるために」


 カーティスは口角を上げた。


「ああそうさ。見ろ、このマントを。お前の後を継ぎ、俺が白の名前を受け継いだ。【白き凶弾】が俺の二つ名だ」


 拳を握り、魔法弾を繰り出す。両腕を何度も振りかぶり、突き出し、次々と魔法弾を打ち出した。


 クオリアへと光速で向かっていくそれは、瞬きも許さぬまま着弾。何十、何百、何千という魔法弾が周辺の壁や床も一緒に壊していく。舞い上がる土煙はアーティスのいる場所まで漂っていた。


 ある程度打ち終わったところで、アーティスは手を止めた。


「どうだ! 過去の俺とは格が違うだろう!」


 だが、彼の顔はどんどんと青くなっていく。目の前で、感じたことがない威圧感が膨れ上がっていた。今まで出会ったどの強敵でも持ち得なかった大きな魔法力は徐々に膨張していく。


 一粒の汗が地面を叩いた瞬間、強風が辺りを支配した。


 真空波で頬を切られ、服を切られ、マントを切られても動くことができずにいた。


「誰が名前を継いだって?」


 カツ、カツと。


 穏やかな足取りで姿を現すクオリア。


 服は純白、埃さえも寄せ付けない。


「傷ひとつ、ないのか……!」

「あんなものは虫が舞っているのと一緒だわ。手のひらを返せば散っていく、その程度でしかない」


 爛々と輝く瞳は、肉食獣が獲物を狙うものではない。害虫を執拗に追い回すような、敵を厭うような光が宿っていた。


「なんなんだ。お前は、本当に俺たちと同じ人間なのか」

「失礼ね、どう見ても貴方と同じ人間だわ。ただし、同格であるとは思って欲しくないの」


 純粋な魔法力だけで周囲の瓦解を破壊していく。魔導術として使っているわけでなく、クオリアの身体から漏れだしているだけだというのに。


「ば、化け物め……!」


 カーティスはもう一度右手を前に出し、魔法弾を打ち出そうとした。


 しかし――。


「遅いのよ」


 身体をすり抜けるように、彼の背後に回りこむ。その際に剣を振り、カーティスの右手の肘から先を切り落とした。

「ぐああ!」


 その場で何度か剣を振り、静かに剣を鞘に収めた。


「十二領帝は全員赦すつもりはない」


 四肢をバラバラに切り刻み、次の瞬間にはカーティスは物言わぬ骸と化していた。


 甲高い靴音をさせて、クオリアは城の中を闊歩する。


「あとは女王クルーナをどうするかだけね」


 振り向くことは二度となく、彼女は自分の道を歩いていく。


 それがどういう結果になろうかなどと考えていない。


 惨忍で天真爛漫な白い怪物。それが、第一世界ミュレストライアで彼女に向けられた言葉だった。

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