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天才術師の存在証明《イグジステンス》  作者: 絢野悠
【ダルカンシェル編】 クロスオーバー:白き厄災 
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一話

 世界防衛機関第八支部の一階エントランスで、クオリアは優雅に紅茶を飲んでいた。


 静かに歩み寄る大我の姿を目視し、ティーカップをテーブルに置いた。


「それで、私はなにをしたらよろしいんですか?」

「まずは表に出ろ。十二領帝が現れた」

「なるほど、わかりました。生かした方がいいんでしょうかねぇ」

「それはお前に任せる。いざという時は、お前のレガールを開放してやってもいい」

「いいんですか? なにをするかわかりませんよ?」

「普通レガールというのは腕輪だ。が、お前のは首輪で、その首輪には特殊な仕掛けがしてある」

「まあ、そうだとは思いました。おおよそは検討がつきます。無理矢理外したり壊そうとしたら爆発、ということなのでしょう? しかもその爆風には魔法力を無効化するような仕掛けもある」

「魔法力を無効化なんてのはできない。が、貫通することならできる。つまりはそういうことだ」


 大我の話をそこまで聞いて、クオリアは淑やかに立ち上がった。


「通信もこの首輪で?」

「察しがいいな。首輪の横に指を添えて魔法力を注げば通信できるようになる」

「了解しました。十二領帝の居場所は自分で探しますので、レガールを少々緩和してもらえますか?」

「いいだろう」


 そう言って、大我は自分の左腕にある腕輪を操作した。


 一瞬、周囲に風が起こる。クオリアが持つ異常なほどに強大な魔法力が空気と反応したのだ。


「三十パーセント、というところでしょうか。それでは行ってきますわ」


 カツカツと、高いヒールを鳴らして歩く。ヒールの音はエントランスに響き渡った。


 白いドレスを靡かせて自動ドアを出た。


「ここから南南西に十キロですか」


 風を身にまとい迷いなく飛び立つ。


 魔導術によって空を飛ぶということは多大な魔法力を消費する。


 自然という命令規式、風という属性に、指向成型の増減型を当てはめて周囲に風を作り出す。それならばただの補助系魔導術であるが、自身の身体に付加型という指向成型を使い、質量がある物を持ち上げる。指向成型、つまり「それをどうするのか」という動きをいくつも取り込む魔導術というのは難しいとされていた。


 魔導術自体が難しいというのに、強い風を巻き起こしながら、その風から身体を守らなければいけない。当然魔法力の消費が激しくなるため、普通の強化で地面を走るのとは技術や魔法力が必要とされるのだ。


 クオリアはいとも簡単にそれをこなすが、自身が使える魔導力が少なくとも関係ない。縁に負けたのも、情報不足と満身が招いた結果でしかないからだ。


 一応だが魔法力は節約し、それでも自身が持てる最高速度で目的地に接近した。その間僅か一三十秒。空中から真空波を飛ばし、破壊行動を行う魔獣たちを倒していく。


 高速道路のど真ん中。ふわりと大地に降り立つ頃には、半径数キロは魔獣の死骸が転がっていた。


 魔獣の群れの中に唯一いる少女の前に降りた。が、その人物はクオリアを見るなり青ざめた表情で、大きく目を見開いていた。


 まだ未熟であると思われる少女は顔つきも幼かった。身長も低く体つきも発育途上で、栗色の髪の毛の後頭部で束ねていた。


「お久しぶりね、メロディア」


 いつしか少女の歯はカタカタと鳴っていた。上下の歯が振動によって、規則正しい音を生み出す。


「白き厄災、クオリア=ランゼルフ……!」


 震える唇で必死に紡いだのはそんな一言だった。


「そう言われても仕方がありませんよね。なにせ、十二領帝全員が私を謀ってゲートに放り込んだのですから」


 メロディアとは対照的に、クオリアは楽しそうに笑っていた。


「あんなに強引なやり方で放り込んだのになぜ生きているんだ。準備もなしに生身で放り込まれたら、普通の人ならバラバラになるはずなのに」

「私を誰だと思っているの? 貴女、自分で言ったじゃない。三嶽神が一人、白き厄災クオリアなのよ? 十二領帝では相手にならないことくらい、貴女がよーくわかっているでしょう。普通じゃないのよ、私は」

「いくら三嶽神でも、生身で生きていられるとは思えない」

「そうね、私もそう思う。運良くこの世界に召喚されなければ、私の命も絶えていたかもしれませんわ」


 クオリアはレガールに触れ、大我との通信を開始した。


「大我様、五分でいいのでレガールの機能を完全に解いてもらってもよろしいですか?」

『五分でいいのか?』

「そう、五分です。それだけあれば充分ですので」

『わかった』


 大我がそう言った瞬間、暴力的なまでの魔法力があふれだす。メロディアは唇だけでなく、全身を震わせていた。周囲に残っていた魔獣でさえ破壊行動を止める。


「……くっ!」


 拳を強く握り、メロディアは全力で駆け出した。クオリアに背を向け、ほぼすべてなのではと思われるほどの魔法力を行使して。


「あらあら」


 穏やかに言いつつも、人差し指で空を切るクオリア。その刹那、少女の膝から下が無残にも投げ出される。


「え……?」


 勢いを殺すことができず、両足を失った少女が地面を何度も転がる。


「逃すと思いますの?」

「あ、あああああ」


 自分の足を見て、また唇を震わせる。


「あああああああああああああああああああああああああ!」


 痛みと悲壮と恐怖と、それらの感情が交じり合っているのか、少女の顔は涙と鼻水と汗でぐちゃぐちゃになった。


 甲高い靴音を響かせて、クオリアは少女に近づいていく。


 少女は両腕の力だけで地を這うが、魔導術を扱うことさえも忘れていた。


「ねえメロディア」

「ひっ!」


 あっという間に、二人の距離は一メートルまで近づいた。


 白い厄災クオリアの魔法力に気圧されたメロディアは、すでに指さえも動かせなくなっていた。自身でも気づかないうちに失禁し、もう逃げる気力さえ残っていない。


「私を追放しようとした首謀者は誰?」

「し、知らない」

「そうですの」


 今度は左腕が宙を舞う。


「うああああああああああ! 痛い! 痛いいいいいいい!」

「だーれ? ねえ、教えてくださる?」


 クオリアは人差し指を唇に当て、笑顔のままでそう言った。


 のたうちまわることもできず、メロディアは仰向けの状態で左腕を抑える。


 彼女の中で何かが切れたのか、瞳に力がこもり始めていた。


「アナタは自分のしたことをわかっていない! 内乱が起きても知らんぷりで、あっちにこっちにと気分でいろんな勢力の手助けをして、国中を引っ掻き回して」

「仕方がないでしょう。私は元々そういう人間なんですから」

「そのせいで国が滅びかけた! 私利私欲のためにだけ力を振るうアナタを、十二領帝も民衆も疎んでいた!」

「どうでもいいんですのよ、そういうのは。それで、誰が主犯なの?」

「言うもんか!」


 少女の発言に鼻を鳴らし、また人差し指で空を切った。


 メロディアの右目が破裂し血液が飛び散った。


 口元に飛んだ赤を、クオリアは舌先で舐めとる。


「ああ、ついクセでやってしまいますわ。これのせいで縁様には負けたのですし、直さないといけませんね」


 と独りごちる傍ら、メロディアは右目を抑えて悶ていた。


「目がああああああああ! 私の目があああああああああああ!」

「さあ、言ってごらんなさい? 次は左目がいいかしら。いやでもそれじゃあ芸がなさそうだし……鼓膜でもいきましょうか?」


 なくなった右目から、少女は涙を流し続けている。いつしか赤くなってしまった涙を、絶えず流していた。


「カー、ティス、だ」

「十二領帝第四位、カーティス=マグナスね。ありがとう。まだ若いし、仕方がないから生かしておいてあげる。けれど、他の十二領帝は返答次第では許さない。私を謀った罪は万死に値するもの。もう第一世界に興味はない。ただ、私は復讐に身を捧げる」


 クオリアは少女の胸ぐらを掴みあげた。右手の親指と中指で輪っかを作り、ゆっくりとその輪っかをメロディアの額へと近づける。


「な、なにを、するの」

「でっこぴーん、です」


 中指を軽快に弾くと、少女の額に当たる。


 なにかが破裂するような高い音が鳴って、少女の身体は何メートルも吹き飛んだ。


 近くの車を巻き込みながら、遠くのガードレールにぶつかって止まった少女。白目を剥き、口からはだらしなくよだれを垂らしていた。


 もう一度レガールに指を当て少女の回収を要請した。


「バイバイ、メロディア」


 レガールの抑制機能が元に戻る前に、周囲の敵を一掃した。剣を抜くまでもなく、手を振るうだけで魔獣たちは散っていく。その様を見ながら、彼女はまた笑っていた。

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