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天才術師の存在証明《イグジステンス》  作者: 絢野悠
【マクランディ編】
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五話

 次の日、六階の食堂で朝食を摂ってからすぐに会議室に呼ばれた。放送が流れ、僕は三人を連れて向かった。朝食では全員から自己紹介をしてもらっていたので、会議室に向かっている最中にも作戦を練ることができた。


 昨日と同じ席に座り、ギュレンダさんの挨拶から始まる。


 第一世界からの侵攻が激化し始めているため、今日の夜から作戦を開始するとの話だった。


 僕たちが先行しミグラートのヴォモスへと到達。侵入するところから始まり、エピスコポスには外側から攻撃してもらうというものだ。


 ここで問題となるのはエピスコポスの戦力だが、とりあえず耐えてさえくれれば、こちらがゲートを奪取しさえすればなんとでもなる。十二領帝との戦いが長引かなければ、だが。


 話は十数分で終了し、誰も異論を唱えるまま会議室を出ることとなった。


 最低限の食料や野営のための道具は用意してくれるとのことなので、夜までは自由にしていてもいいらしい。この際なので、ヴォモスを案内してもらうことにした。


 リズリナさんの後ろについて歩き、建物の中を見学させてもらった。


 一階は一般兵士たちの居住区であり、兵士用の食堂もあるようだ。司祭服は来ているものの服の生地は薄く、代わりに鉄板が入っている。本当に兵士という感じだった。


 二階はシェフや給仕さんたちの居住区。僕はまだ見たことはないが、メイドさんなんかもいるらしい。


 三階は訓練施設であり、トレーニングジムのような役割を果たしている。魔法の練習などができる場所もあり、毎日人の出入りがある場所だ。


 四階は備品倉庫。五階は外部との通信を行ったりと、電子機器などが置いてある。


 六階は僕らの部屋があり、幹部クラスの居住区。七階はギュレンダさんとリズリナさんの部屋のみがあるとのこと。


 こうして見てはみたものの、ただただ広いだけであまり見どころはなかった。そもそも電子機器の類がほとんどと見当たらなかった。この世界は、他の世界から見てもあまり発展していないのだ。特に魔法が強力というわけでもないので、穏やかというよりも禁欲的という言葉の方が似合うような気がしていた。


 内部を案内してもらった後、兵士たちの訓練に付き合った。僕たちの戦闘を見て、どうしても指南して欲しいという兵士たちがいるらしい。


 僕、エルア、リュノアは兵士たちに戦い方を教えた。が、ルキナスはつまらなそうに端っこで見ていた。武器は錫杖だが、接近戦で使うことは少ない。が、途中から遠距離型の兵士たちに教えを請われ、たじたじになっている場面は微笑ましかった。


 ルキナスはあんな性格だが、妙に几帳面な部分がある。すぐに投げ出そうとするくせに、一度取り組むと自分が納得するまでは折れないという側面を持っていた。


 リュノアは姉御肌で僕よりも年上。教え方も上手で、勝手に下がついてくるという感じだ。


 エルアは元々自力が高くない。けど頑張り屋なので、経験から相手の悪いところをちゃんと指摘できる。あまり教え方は上手くなく、見ていて若干ヒヤヒヤした。


 それが終わると昼食に呼ばれた。朝食は幹部クラスと食事をしたので、昼食は一般兵士たちと一階の食堂で済ませた。朝食とは違い、雑談をしながらの昼食は楽しかった。皆気さくで、それ以上に僕たちを尊敬してくれていた。嫌味がなく、間違いなく居心地のいい空間だった。


 食後は僕の部屋に四人で集まり、これからの作戦会議をした。会議というほどのものでもないが、これからの動きや不測の事態に対しての対処法を確認した。


 そして出発の三時間前になり、大会議室での最終確認が始まった。


 ギュレンダさんが立ち上がり、モニターを差しながら作戦の大筋を説明する。


「これから縁くんたちがミグラートへと向かいます。所要時間は半日。我々ではどうやっても一日以上かかる距離ですが、彼らならば半日以内で充分とのことです。縁くんたちが中央でゲートを占拠すればこちら側に連絡が来ることになっています。その間に我々は用意をし、他のヴォモスと強力してミグラートを取り囲むように兵を配置。敵勢力が外へと出ないようにします。こんな感じでよろしいですかな?」


 と、ギュレンダさんが僕を見た。


「はい、結構です。無理に攻める必要はなく、一番重要なのは敵を特定範囲から逃さないこと。それだけ念頭に置いてもらえればいいかと」

「とのことです。なにか質問がある方はいますか?」


 その時、初めて幹部クラスの一人から挙手があった。その人はギュレンダさんに名前を呼ばれて立ち上がる。


 司祭服ではなく、黒い鎧を着込んだいかにも将軍といった感じの男性だ。アゴヒゲが伸び、見た感じ三十代前半といったところ。たしかバーザルと名乗っていた。


「敵が兵を集めて一点突破を図った場合はどうすれば? こちらの兵力では対抗できないと思うが?」

「それをさせないようにするのが一番ですが、もしもそうなってしまった時は諦めるほかありません。圧倒的に戦力不足なので、捨て置くべき部分はすっぱりと諦めるしかないのが現状ですね」


 僕の話を聞いたバーザルさんは、人差し指と親指でアゴヒゲを触っていた。


「必要経費、か」

「申し訳ありませんが、全てを救うことなどできない。そんな都合のいい世界はどこにも存在しないし、全てを救おうとすれば失敗します。僕もできれば完璧に物事を運びたいけれど、無理な時は切り捨てます」

「……そうか。了解した」


 見た目からは考えられないほど、バーザルさんは静かに着席した。鎧のカチャカチャという音はするが、腰を下ろす時の音はまったくしなかった。


「ということです。他にはなにか?」


 それからは誰の挙手もなかった。


 ギュレンダさんによる兵の動かし方、敵勢力の戦闘傾向などがあり会議は終わった。


 僕たちは背中に隠れるくらいのバックパックを支給された。一応中身を確認したが、二、三日程度の食料、魔導式懐中電灯、魔法回復役、塗り薬や解熱剤などが入っていた。まあ、この状態で具合が悪くなるかどうかはわからないけど。


 外が暗くなり始め、今度は幹部クラスと一緒に食事を摂った。共同作戦の指揮をとる人たちだから、少しでも一緒にいた方がいいと思った。会話がないのは慣れたが、僕は彼らの顔色をずっと伺っていた。


 出発の直前、僕の部屋に四人で集まった。


「ねえ縁、この作戦ってホントにこれでいいの?」


 エルアはベッドに座りながらそんなことを言う。ルキナスは前回と同じように、ベッドにダイブしていた。


「ああ、今回はこうしなければマクランディを救えない。それにコマは揃ってるんだ。巻き返してやるさ」

「アナタのそういうところ、パットに似てるわね」

「そう言われるとなんだか嬉しいな。アイツは僕にとっての恩人だから」

「いい関係ね。それなら、また会えるに頑張らなきゃ」

「今度は人格としてじゃない、友人として再会したいな」


 窓の外を見て、僕は小さくため息をついた。


 暗くなっていく世界が、まるで今の心模様みたいに感じていた。太陽が沈み世界の全てが闇に侵食される。この作戦が本当に正しいのか、と真っ向から言われて「当然だ」と本気で言う自信がなかった。上手くいく確証もなく、心証を最低まで落としかねない。


「自信を持て。私たちの主人だろう?」


 と、リュノアが微笑んでいた。


「エニシならなんとかできるよー」


 枕に頬ずりしながら、リュノアが気だるそうにそう言った。


 PDを見ると出発の十分前になっていて、僕は自分を鼓舞させるように頬を叩く。


「よし、行こう」

「「「おう」」」


 彼女たちの声に元気づけられ、僕は部屋を出た。後ろからついてくる足音が妙に心強いと感じていた。


 ヴォモスを出ると、幹部クラスや一般兵士に関係なく、このヴォモスにいるほぼ全ての人たちが待っていた。


「健闘を祈ります。貴方に神の御加護を」


 ギュレンダさんは小指をくっつけ、深くお辞儀をしてくれた。


「任せてください。ここに来た意味をようやく果たせそうです」


 歩き出すと、兵士たちが敬礼をしながら道を空けてくれた。


 兵士たちの間を歩きながら、バーザルさんと目が合う。が、彼はすぐに目をそらした。


 ヴォモスを離れてすぐ、脚部の強化だけをしてその場を離脱した。半日でミグラートに到達するというのは結構ギリギリで、早めについても三十分残らないだろうと推測される。

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