四話
結局のところ、どう行動しようにも情報が少なすぎる。トラビス以外の十二領帝がいるのならば、彼を倒しただけでは意味がない。エピスコポスの将軍というのがどれほどの強さかはわからないが、建物の前での戦いを見る限り期待はできないと思われる。
「道は二つ。ゲートまで行って内部から敵を倒していくか。外堀から埋めていくかの二択です。個人的な見解ですが、どちらも似たようなものだと考えています」
「それは、どうしてですかな?」
ここで、今まで黙っていたギュレンダさんが疑問を投げてきた。
僕は一度咳払いをしてから話を続ける。
「内部破壊を狙った場合、相手の主戦力が不明瞭です。トラビスを倒しても、他の十二領帝がいた場合に息切れしてしまえば意味が無い。そして外部から攻める場合、向こうとこちらの戦力差に開きがあることがネックです。第三の道があるとすれば、その両方を同時に行うという方法ですかね」
「第三の道というのは、縁くんから見て現実的なのですか?」
「非現実的、というほどでもありません。その場合は僕ら四人が内側へと潜り込むことになると思いますが、外側であるエピスコポスに負担が行くという部分以外は問題ないかと」
「なるほど。自ら危険な場所に飛び込む、と言うのですか」
「そのために来ました。それに自信はあります。僕は負けないし、負けたくない。戦友たちも強者だ」
「それでは、縁くんの作戦に反対の方は挙手をして代案をお願いします」
ギュレンダさんの発言に手を挙げる者は誰もいなかった。むしろ意見を言わせないためにこういう言い方をしたのかもしれない。普通ならば「賛成の者は挙手をしてください」と言うはずだ。
「それではこの方向でいきましょう。詳細は追って知らせますので、今日は各自部屋で休んでください。リズリナは縁くんたちを部屋に案内するのと、エピスコポスの説明などをお願いします」
「わかりました」
「それでは、解散」
一人、また一人と室内から出て行く。
最後は僕たちで、リズリナさんの後ろをついていくことになった。
会議室から出て右側の最初のドアに入る。予想通り、同じような廊下が続いていた。左右にはいくつものドアが配置され、なんだか不思議な気分になる。こんな構造をしていたら、自分が今どこにいるのかわからなくなりそうだ。
突き当りにある階段をのぼり、そのまま六階へと案内された。六階は将軍クラスの居住くらしい。
階段をのぼっても、また白い廊下が伸びていた。
ある程度歩いてからリズリナさんが止まる。
「縁様はこちらの6523号室を。他の三名様は少し先の6530号室になります。ギュレンダ様から説明をと言われましたがどうなさいますか?」
「そうですね、僕の部屋で全員に説明してもらえるとありがたいです」
「わかりました。そうしましょう」
僕らは鍵を受け取りながら6523号室に入った。
室内は廊下同様に白く、セミダブルのベッドが五つは入るくらいの広さだ。テーブルとイスがワンセット、ベッドが一つ、小さなタンスとクローゼットが配置されていた。構造上窓はないと思っていたが、ここは窓際の部屋らしい。天井には排気口もついていて空調に関しては問題なさそうだ。
「よーいしょっとー!」
そんなことを言いながらルキナスがベッドに飛び込んだ。
「はしたないわよ」
咎めつつ、エルアートがベッドに座った。一応僕の部屋なんだけどな。
リュノアはベッドの横の壁に身体を預け、腕を組んで話しを聴く体勢に入ったようだ。
「じゃあ説明をお願いしようかな」
リズリナにイスに座るようにと促すが、彼女は断るといわんばかりに手の平をこちらに向けた。
僕はイスを引き寄せて自分で座ることにした。
「この建物、というよりもエピスコポスが管理する建物をヴォモスと言います。ここも、ミグラートにある建物もヴォモスです。ただし世界に十棟しか存在しません。それはこの世界に争いが少ないからで、魔獣の数もそこまでではないからなのです。盗賊や荒くれ者なども少ないのであまり必要がないのです」
「それ故に戦力が揃わない、と。諍いが起こらないと戦う必要がありませんしね」
「そういうことです。敵戦力の数が少なくても、あちらが戦い慣れていると手も足も出ません。それにヴォモス同士が離れているため、協力要請をしてもすぐには駆けつけられない」
「そんな状態でよく逃げ出せましたね」
「ギュレンダ様は定期的に視察に出るのですが、その期間とちょうど重なったのです。もしもミグラートにいたのならば、最悪命を落とされていたのではないでしょうか。それに、このように立ち向かうこともできなかったでしょう」
「なるほどね。今日の会議に参加してた人たちはみんなヴォモスの将軍なんですか?」
「はい、一応この世界にも制圧用の軍部があり、そこの将軍たちなどもあそこにいました。他には各地のヴォモスを統率する司祭長、その右腕を担う司祭長補佐、司祭長や司祭長補佐のスケジュール管理なんかをする司祭管理士の方々ですね。戦闘が得意な者、そうでない者と特徴は様々ですが」
「外側から攻める場合は、将軍クラスや戦闘が得意な司祭長に頑張ってもらわないといけないかな。そこはまたギュレンダさんと話をしよう」
そこで一度会話を切った。が、切った傍から口を開いたのはエルアだった。
「気になってたんだけど、中央から離れてるはずのここに第一世界の侵攻が進んでるってことは、もう三分の一程度じゃ済まないんじゃないの?」
僕が懸念していた問題点、それをエルアも気にしているらしい。
四日でこの侵攻速度は異常だ。あの戦闘を見て感じた違和感もまだ解消できていない。
「できれば明日、明後日にでも作戦を実行しないと間に合わないかもしれません。ゲートを使ってこちら側に来たということは、どんどん仲間を引き入れている可能性が高い。ギュレンダさんに伝えてもらえますか?」
「わかりました。とりあえずはこのへんでよろしいでしょうか」
「ええ、ありがとうございました」
「これからお食事が運ばれると思います。食器は外に出しておいてもらえればいいので。それでは失礼します」
リズリナさんはお辞儀をして出て行った。ピンの伸びた状態から、深く頭を下げる姿。しっかりしているんだな、というのが伝わってきた。
ここで一度父さんに連絡を入れようと思った。
「父さん、今大丈夫?」
通信を開始して少し間があり、父さんが『ああ』とつぶやく。
『なにか進展はあったか?』
「結構状態は厳しいね。早めに行動したいという旨は伝えたけど、ギュレンダさん次第なのは否めない」
『エルアート君がゲートになってくれているお陰で、こちらもなんとか連絡は取れるようになった。そちらの状況も少しなら把握している。お前の意見もショーク大司祭なら尊重するだろう。問題はない』
「それならよかった。そう言えば気になってたんだけど、ちゃんと言葉が通じるんだね」
『普通は通じないぞ。お前たちの存在はマクランディ側で再構築されているから言語理解能力が付与されているんだ。こちらはこちらでデータ転送時に自動翻訳されるがな』
「理屈はわからないけど理解はしたよ。それでちょっと聞きたいんだけど――」
僕は今までの疑問や、これからやって欲しいことを父さんに伝えた。何度か間が空き、最初は渋っていた父さんだが、最終的には僕のやりたいことに対して賛成してくれた。はっきり言えば父さんが動いてくれなければ、この世界を救うことは不可能なのだ。
僕の話を聞いていても、女性陣三人はなにも言わなかった。きっと彼女たちも意思を汲み取ってくれたのだろう。
明日ギュレンダさんたちと再度話をすることになるだろう。
僕は三人を部屋に返し、ベッドに腰掛けた。PDを起動させてワードパッドでメモしていく。あまりやりたくないような最終手段を書き込んでから、ベッドに身体を投げ出した。
スーベリアットにいる人たちはどうしているだろうかと考えた。結局エレメンタルセブンを押し付けてきた形になる。が、今ここで深く考えても仕方がないと気がついた。
僕には僕にしかできないことがあると、機能を確認するために再度PDを動かすのだった。




