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天才術師の存在証明《イグジステンス》  作者: 絢野悠
【エレメンタルセブン編】
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七話〈ビューポイント:綾部尽〉

 アランの勝利を祝福し、次は自分の番だと喝を入れた。一応この試合の前に清の試合があったのだが、清は黄島土門を瞬殺。ものの数秒で終わらせていた。


「四年、緑屋風音と四年、綾部尽の試合を始める」


 特に会話をすることもないだろうと思っていた。けれど、こうして同じ場所に立つと訊かずにはいられなかった。


「風音、キミはどうしてこんなことをしてるんだ」

「どうしてって、そうしたいからかな」


 糸目の彼女が、ニカッっと笑った。ふわふわとした髪の毛に細い目、豊満な体つきから穏やかそうな雰囲気がある。そんな彼女だが、性格的には人懐っこくあっけらかんとしている。そのギャップがまた、周囲の人間を引き寄せる要素でもあった。


「楽しいから、か」

「それもあるよ。でもさ、私はほっちゃんに借りがあるし、彼女に憧れてる。そんな彼女についていくことに疑問はないんだ」

「退いてはくれないんだな」

「私は風紀委員でも生徒会でもないけど、クラスメイトとして四年間一緒にやってきたね。いろいろ楽しかったよ」

「僕も、楽しかったよ」


 こういう形で対峙したくはなかったとは言わなかった。


 ふと、放課後の教室で一人で佇む風音の姿を思い出した。忘れ物をした尽が教室に入ると、彼女はただただ窓の外を見つめていた。夕日に照らされた横顔には、日常生活では見せない哀愁が漂う。


「それでは、始め!」


 そんな彼女が「よう尽!」と自分に笑いかけてくれたことを今でも忘れてはいなかった。


「ジェレット! 【魔導を宿す傀儡エントラストマリオネット】!」


 身体から湧き出た黒い靄が、彼女の後ろで男性へと変化した。尽よりも少しだけ年上かと思われるその男性は、現れてすぐに空気に溶けた。


 風音は自分が元々契約していた祠徒を召喚。大きな翼を広げる鷲の祠徒だった。


 結界内に暴風が吹き荒れるが、それは彼女の元へと収縮していく。


「さあやろう。私には私の正しさがある。アンタにはアンタの正しさがある」


 風の渦で作られた巨人が風音の後ろに立っていた。見上げるほどに大きく、巨人から繰り出される攻撃がどれだけ強力なのかが想像できなかった。


 尽はガーウェルを召喚し【穢れ無き太陽(イノセントガラティン)】で作られた光の剣を手に取る。


「僕はこの世界が好きだから、この手で守れるものは全て守るよ」

「お坊ちゃんは言うことが違うね。いきなさいジェレット!」


 風音は風の渦でできた巨人、ジェレットに指示を出した。


 大きさからは考えられないほどの速度で飛んできた拳を避け、尽は目一杯剣を振るう。強大な魔導力の塊が巨人の腕を破壊するも、なにごともなかったかのように再生されて攻撃を続ける。


 巨人の拳を避けると、その拳は地面を抉った。掠りでもすれば、そのまま巻き込まれて身体がバラバラになってしまうだろう。


 避け、迎撃しながら思考を巡らせた。


 仕留めるためには、トリステルの【恋しき真の盟約エンゲージクレタナート】を使う必要がある。しかしその祠導術を使うには接近しなければならず、巨人はそれを阻害してくるだろう。近づかずとも使用可能だが、今度は妨害される可能性が出てくる。会話をした相手を追跡するという効果なのだが、全てを貫通して相手に打擲するわけではなかった。


 尽は不得意な魔導術がなく、相手に対策をされることがなかった。逆に得意な魔導術もないため、パターンはめて勝つことも難しい。そんな尽のことを知っている風音だからこそ、更に厳しい戦いになると尽も理解していた。


 狭い閉鎖空間の中で、風属性の魔導術を行使しながら逃げ続けた。巨人の動向をうかがうのと共に、風音が動くのを待っていたのだ。


 そんな尽だが、まだ深淵礼装は使ってはいなかった。


「いつまで逃げまわってるつもりだ!」


 風音が腕を水平に薙ぐと、風の渦が尽に襲いかかる。


「勝機が見えるまでさ!」


 魔導術にも祠導術にも精通し、他人から譲り受けた能力であっても器用に扱う。深淵礼装を少しだけ発動し、風音の魔導術を風属性の魔導術で打ち消した。


「アンタのそういうおちょくったような態度がムカつくんだよ!」


 巨人の動きが早くなり、風音が放つ魔導術も強化される。真空波、風の渦、衝撃波など攻撃方法は様々であったが、尽は光の剣と魔導術を駆使していなしていく。光の剣は強大な魔導力の結晶であり、太陽が出ていれば街一つを簡単に吹き飛ばすほどの威力が内包されている。だが、それをコントロールできるのは尽の技量あってのことだった。


「僕は本気だ! 本気で考えてこうしてる! これが最善の防御法だと思っただけだ!」


 剣を振り、放射線状の魔導術を放つ。レーザーのような攻撃は巨人腹部を抉ったが、またしても元に戻ってしまう。


 導力は削られる一方で、尽の額にも汗が滲んでいた。


 近づくことはかなわない。相手の攻撃が強力というのもあるが、風音は攻撃のパターンを崩そうとはしなかった。感情を露わにしても、巨人の攻撃に便乗して魔導術を行使する。尽が近づこうと空を飛んでも、強風によってはたき落とされる。


「私を倒すための攻撃をしてこい! 避けるためでもない、守るためでもない、隙を作るためでもない。私を貫く攻撃をしてみせろ!」


 尽は「ふー」と、細く息を吐き出す。


 もうやるしかないのだと覚悟を決め、光の剣を両手で握り直した。


「最初で最後の一撃だ! 心して受け取れ!」


 眉間に意識を集中し【恋しき真の盟約】を発動。同時に【深淵礼装】を解き放つ。


 人を囲うように、地面には光の円が出現した。持っている全ての魔導力が溢れだし、巨人の拳を押し返す。


 風音は巨人を宙に浮かせ、人の形からただの風の渦へと変える。それを自身の腕へと集中させた。


 二人の導力により、結界はビリビリと耳障りな音を立てていた。


「アンタの攻撃見せてみろよ!」

「僕はこんなところで負けられないんだ!」


 光の剣が縦に振られると、今までとは比較にならない衝撃波が生まれる。収束し、放射線状になり風音へと一直線に向かう。


 彼女は迎え撃つように、その光の放射線に拳を重ねる。


 二つの攻撃がぶつかり合った瞬間、結界には僅かなヒビが入った。


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 いつもは冷静な尽の叫び。それを聞いて、風音は口元に笑みを浮かべる。


「スカした態度以外もできんじゃん」


 そんな言葉を残し、彼女は光の中へと消えていった。


 その瞬間に暴風が止み、光は空へと飛んで行く。


 一歩動くだけでも軋む身体を無理矢理奮い立たせる。歩くよりも速く歩かねば、走るよりも速く走らねばと、痛みを堪えて走りだす。


 そして、空から落ちてくる風音を受け止めた。しかし彼女の体重を支えきれず、二人一緒に地面に倒れ込んた。


「やりゃーできんじゃん」


 力なく「ははっ」と風音が笑う。


「少しだけ吹っ切れたような気がする。ありがとう」


 尽もまた力なく笑った。


 想う人間は違う、内に秘める正義も違う。それでも、本気でぶつからなければ一生わからないこともあるのだろうと、尽はそう思っていた。

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