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天才術師の存在証明《イグジステンス》  作者: 絢野悠
【ファーランガル編 2】
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十五話

「エルファ、そこにナスハもいるな?」

『ええ、控えております』

「そうか」


 正直ここで使っていいものかはわからない。わからないが、そうしなければ俺は死ぬ。


 死ぬわけにはいかないんだ。ミュレストライアの王になり民を救うと誓った。あの時の気持ちに嘘偽りはない。


「お前たちの忌術は理解している。エルファとナスハ、二人が揃わなければ使用できないという面倒な能力。それだけじゃない、一度使えば長い間使えないし他にも条件がある。でも今使ってもらわなきゃ俺が死ぬ」

『まあ、貴方らしくはありますね。エルファ、いいわね?』

『いつでもいけるよ』

『我が右手は全てを貫く』

『我が左手は全てを直す』

『『【頂上に咲く一輪花エクセプションヴォルテックス】』』

「来い。最高のパートナーたち」


 俺の周囲の空間が歪む。それを見たディオーラたちは顔色を変え、目にも留まらぬ速度で接近してくる。


 しかし、それでは遅いのだ。


 ディオーラは空中からメイスを取り出し、一直線に振り下ろす。


「そうは」

「させません」


 キューリット姉妹がそれを受け止めた。


 彼女たちが攻撃を弾き返し、これで三対ニになった。

【頂上に咲く一輪の華】はナスハの【恐怖を知らぬ冒険者(イグノラントジェミニ)】とエルファの【負傷を知らぬ傍観者(オブリビオンジェミニ)】がセットになることで発動する。が、実質二人揃わなければ発動できないので一つの能力として捉えるのが正解だ。


 姉妹同士が近くにいなければ発動できない。しかし一度発動させてしまえば、彼女たちの動きを捉えることなど不可能だろう。


 ナスハが空間に穴を開け、エルファがその穴を塞ぐ。端的に言えば空間移動だが、その力は移動だけに使用するわけではない。攻撃と回避を兼ね備え、プラス空間そのものを歪めることができる。


 開けて閉じる。その刹那に発生する空間の歪みを利用することで、相手は遅く、自分は速く動くことができる。長距離移動も可能であるが、自分が知っている土地か自分が心を許す人間の元へとしか跳躍できないという難点もあった。


「これで状況は五分以上。今の姉妹は、三嶽神にも匹敵するぞ」


 まあ、俺はなにもしないわけだが。


 ディオーラたちは隙あらば俺を攻撃しようとしているようだが、姉妹が常にそれを阻む。移動の際に出現することが少ないため、相手はかなり困惑している様子だ。


 そして、忌術を使わせる間もなく沈めてしまった。手加減はできなかったのだろう、ディオーラたちは地面に落ち、砂になって消えていった。


「よくやった。褒めてやろう」

「よくやったじゃない! 危険だってわかっていたじゃないですか!」


 エルファの顔が目の前に迫ってきた。瞳に映る自分の顔がわかるくらいに近く、少しだけ胸が高鳴ってしまう。


「その、なんだ。申し訳なかった」

「本当にそう思ってるんですか?!」

「思ってる。思ってるから離れてくれないか……」


 両肩に手を当てて力を込めた。


「離れません」


 離れてくれなかった。戦闘力だけでなく純粋な筋力もエルファの方が上なのだ、俺が少し力を込めたくらいでは押し返せないか。


「お前たちには後日正式に謝る。だから、今はライオネルを追うことを優先したい」


 周囲を見渡せばライオネルの姿はない。おそらくポルトス大陸も開放されたと考えてもいいだろう。


「どうなさいますか? 一度エベットに戻りますか?」

「ああ、ナスハもありがとう。そうだな、一度戻るとしよう。イクサードの容態も気になる」

「わかりました。あのモービルギアで帰りましょう」

「いやいやあれは一人用だ」

「私たちは一度能力を使うと長い間使えません。あのモービルギアしかないのです」

「ポルトス基地で借りればいいだろ」

「そうですね。では私はそうします。王子とエルファは先に帰っていてください。私はここでいろいろと交渉をしてから帰りますので」


 そう言い残し、ナスハは俺たちの目の前から姿を消した。単純に走っただけなのだが、あの速度は消えたと言っても間違いはないだろう。飛ぶ鳥跡を濁さずとは言うが、土煙が上がっているこの状況はなんとも形容し難い。


「二人ならなんとかなるか。ほら行くぞ」

「は、はい」


 コクピットに乗り込んだ。が、エルファがいつまでたっても乗り込んでこない。


「おいどうした」

「いや、だって、これ、私がパトリオット様の膝の上に乗るってことですよね?」

「俺は気にしない」

「私が気にするんです!」


 同室というか同じベッドで寝たこともあるのに、なぜこういうところだけしおらしいのか。ぶつけたくてもぶつけられない疑問が俺の中で生まれた。


 まあ同じベッドで寝た時はこいつが勝手に入ってきただけなんだが。


『パトリオット様、少々マズイことになりましたよ』


 エルファの手を取ってモービルギアに乗り込もうとした時、ナスハの声がコクピット内部から聞こえてきた。


 急いで乗り込み応答する。


「もうついたのか、速いな。それはいい、マズイことってなんだ」

『先ほど光の柱が伸びていった海域から巨大な熱源が観測されました。簡易調査ではありますが、大型のアーマードギアだと思われます。アーマードギアと言うのかモービルギアというのか、四足なのでその中間といったところでしょうか』

「俺はアーマードギアでの戦闘ができないんだが、一番近い大陸から援軍を頼めないだろうか」

『援軍申請は全ての大陸にしてあります。しかしどの大陸も奪還直後なので、軍事機関が機能していない状態なのです。それに、あの魔法力は異常です。一般兵ではどうしようもないかと』


 これまでの感じからすれば、おそらくパイロットはディオーラたちの一人だろう。


「わかった。イクサードが動けない以上、アイツに頼むしか方法はなさそうだな」


 MUを取り出し、あるアドレスに連絡を入れた。


「よう、元気してるか。お前に面倒ごとを押し付けたいんだがいいか? いいか、というかお前にやってもらう以外の方法がないんだがな。なあ、正義のヒーロー、安瀬神縁よ」

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