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(6)


 花畑の奥の一本道、緊張しながらウィンの後に続く。


「ククルのこと。すまなかったね」

「うん。もういいよ。キアヌの怒りも何とか収まったみたいだしさ」

「あんなに楽しそうなククルを見るのは久方ぶりだ。あの子は、ククルの大切な子にとても似ているからだろうね」

「大切な子?」


 これはもしや、精霊の恋バナというものだろうか?

 ちょっと……というかすごく気になる。


「ククルの……そうだね。人の感覚でいえば、姉ということになるのかな?」


 私の好奇心に満ちた眼差しで察したのか、ウィンはすぐにそう付け加える。


「しっかりした子だった。悪戯ばかりするククルをよく叱っていたけれど、ククルもよくなついていてね。本当に仲よかった」

「そのお姉さんって、今はここにいないの?」


 そういえば、この空間ではククル意外の精霊は見ていない。


「……昔、悲しい戦いがあってね。あの子は一番に飛び出して、そうして消えてしまった。あの子だけじゃない。私に懐いてくれていた、ククル意外の精霊はみな消えてしまったんだ」


 淡々と語られる言葉は、先ほどと同じトーンではあるけれど、悲哀が含まれている。


「ごめんなさい。無神経なことを聞いちゃって」

「いや。この空間に足を踏み入れたこと。それがすでに無神経なんだから、今更気にすることではないよ」

「え」


 サラリと放たれた言葉は明らかな毒を含んでいるはずなのに、その声音は穏やかで、聞き違いなのかと思ってしまう。


「昔、人間に関わって、信じて、裏切られてそうして、たくさんの大切な子たちが消えてしまった。だから、人との関わりを絶つために、精神体でこの空間に留まっていた」

「ウィン?」

「傲慢で愚かな人間の子。君に問おう。もしこの力を手に入れ道を誤れば、私は君の命を奪う。いや、その魂を縛り付け、永遠の責め苦に落とすだろう。君はこの力を受け入れる覚悟があるのかい?」


 私とウィン。

 二人の間に風が強く吹き荒れる。

 向けられる冷たい視線は、私を……ううん。

 人間を拒絶するものだ。

 きっとその言葉は嘘じゃない。

 私がウィンの意に沿わないことに魔力を使えば、きっと本当に実行されるんだろう。

 目の前にいるその綺麗な存在に恐怖を覚える。

 けれど同時に、どうしようもなく悲しくなってしまう。


「ウィンやククルの気持ちを考えずに、ここに来てしまってごめんなさい」


 深々と頭を下げる。

 この空間の目印を壊したククル。

 人との関わりを絶つために精神体だったウィン。

 昔、二人がどれほど傷ついたか、私なんかじゃ想像も出来ない。


「……」

「でも! 私にも大切な友達がいて。どうしても、助けたいの。そのためには、ホープを使えるようにならなくちゃいけなくて」

「……」

「簡単に覚悟がある……なんて言えないけど、少なくとも私は、誰かを傷つけるために力を使ったりはしない。私は守るために力がほしいの! どうか、お願いします」


 頭を下げたままの私に、ウィンが密やかに息を吐く音が聞こえる。


「やっぱり愚かだ……」

「え?」


 頭を上げると、ウィンのひどく悲しそうな瞳とかち合う。


「君はあの子と同じことを言うんだ。容易く堕ちたあの子と同じことを」

「あの子?」

「けれど、どうしてだろうね。もう一度だけ信じたいと思ってしまう。結局、私もどうしようもなく愚かなのだろうね」

「!?」


 その言葉と共に翳された手から、緑の光が放たれる。

 それは私を包み込み、やがて吸い込まれていった。


「今のって……」

「風の魔力を君に授けた」

「え!? でも、試練は……」

「すでに終わっているよ。君が少しでも躊躇えば、私は君を殺していた。けれど、君は強い意志で私と向き合った。……人間を信じたわけではないけれど、約束は約束だから」

「そ、そうだったんだ」


 サラリと物騒な言葉が飛び出して、今更ながら血の気が引く。


「君に、風の加護があらんことを」


 そう言葉を残し、ウィンの姿はその場から掻き消えた。


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