序章
20XX年 日本
某国の日本への侵略が実しやかに囁かれていた。
国民は「質の悪い冗談だ」と笑い飛ばす。しかし、時すでに遅し。某国の人間は日本内に数多潜伏していた。政府と癒着関係にあったのだ。
日本国民がその現状を目の当たりにした頃には、某国の支配下にあったと言っても良い。
――笑い飛ばさず何か手を打っていれば……
――もっとなにかできることがあったのではないか。
――いや、もう手遅れだ。
――できることはなにもない。
足搔く者はごく一部。抵抗の手段を持たない者は諦めの境地に至った。ただ母国が侵略されていく様を、指を咥えて眺める他なかったのだ。
そして、『日本』は終わりを迎えた。
――かに思われた。
突如日本内すべての電波がジャックされ、わずか5秒の音声が流れる。
「只今より、日本の鎖国を宣言する!」
突拍子もない宣言に日本国民は嘲笑った。しかし、その胸中にはおぼろげな期待があったことだろう。愛する母国を守りたいという思いは失われることはないのだから。
立ち上がったのは組織なのか、個人なのか、その実態は不明なまま。名もなく、顔を見た者もいない。人間ではないなにかだと提唱した者もいたのだとか。
残されたものは功績のみ。
一夜にして某国関係者の一斉掃討が完了した。
以降、日本と諸外国は海上で隔たれ、互いに干渉することができなくなる。
そして『日本』は存続の危機を脱し、長い年月をかけて鎖国国家として世界に受け入れられたのだった。
◇
日本 長野県
2229年 12月
「あ、ああ……ぅああああ!!」
日が昇っているにもかかわらずカーテンを閉じ切った薄暗い部屋の中。こども用の帽子を胸に抱えて蹲り、若い女性が慟哭を上げていた。
おぼつかない足取りで近づいた男性は、女性の肩を優しく抱く。
「どうして……」
彼の目からも涙がとめどなく溢れた。
「これから公園で野球やろーぜ!」
「えー、俺サッカーがいい」
「どっちでもいいからランドセル置いたら公園集合な!」
雪の訪れを感じさせる住宅街。学校帰りの小学生たちが走って帰宅をしている。
そんな中、買い物袋を下げた中年の女性二人が声を潜めて話していた。
「ちょっと聞いた? 長谷川さん宅の息子さんが神隠しにあったらしいのよ。なんでも手を繋いでいた時に帽子を残して消えちゃったらしくって……」
「いやぁね、まったく。まだ3歳でしょう?」
『神隠し』
それは、人間が忽然と消える現象。
こと日本において、その言葉を知らない者はいない。目の前で霧に包まれたように消え、そして、二度と帰ってはこないのだ。
この現象は五百年以上前から記録に残っているが、未だに解明されていない。故に、自然災害扱いとなっている。
目の前で人が消えてしまうという、この異様な現象は誰からともなく、
《神の気まぐれな遊び『神隠し』》
と称されるようになった。
よろしくお願いいたします。




