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第53話『待機』

 「検査ですか。わぁ……私、緊張してきた」

 「なんで、お前が緊張するんだ……私が検査を受けるのに」


 職業適性試験を受ける前に着替えを済ませようとしたものの、やはり着られるサイズの服は一般的な服屋では見つからなかった。リディアさんとエメリアさんは買い物を後回しにして、入国検問所の近くにある広場へとやってきた。門から真っ直ぐに続く大通りを見据えれば、その先には天を突きささんばかりの大きな城がうかがえる。


 「それで……検査では、どんなことをするんだ?」


 「ん~。別に楽しいことはしなかったですよ?たくさん質問に答えるとか。魔力測定とか。そんなに時間もかからなかったので、お昼までには終わると思いますし」


 きっと、職業適性試験の結果で仕事が決まるという訳ではなく、職業の適性を見ることだけが本当に目的なのだろう。とすれば、これ自体には厳しい面接やテストもないはず。それを承知の上なのか、リディアさんも特に気負うでもなく、歩きながら街の活気をながめている。


 「だが……私に適した職業など、あるのだろうか。」

 「もしなかったら、私がリディアと結婚して食べさせます……」

 「悲しいことを言うなよ……」


 リディアさんは魔法が使えるし、体力だって人並み以上にあると思われる。その上、家事全般をこなせて、好奇心も強い。この人にいい仕事がないとなれば、俺みたいな凡人以下だった人間は絶望するしかない訳で、いい結果が出ることを願うばかりである。


 「……いつ見ても大きいですね~」


 エメリアさんが橋の入り口から、城のてっぺんをあおぎ見ている。街と城の境目には跳ね橋があり、その下には広い川が流れていた。政府関係者や騎士団員以外は川を境に通行できないようになっているらしく、がたいのいい門番さんたちが橋の入り口に立っている。


 「リディアは、お城に入ったことあるんですか?」

 「ない……いや、あるな。昔、一度だけ」

 「あるんだ!」


 入ったことはあるらしい。騎士団長の身内だから、お弁当を届けるとか適当な理由をつければ、中に入れてもらえる……わけはないか。どのような用件で入れてもらえたのだろうか。


 「職業適性検査の受付を見てくる。すぐに受けられるようならば、そのまま検査を受けてくる。エメリアは自由にしていてくれ」


 「は~い」


 城へと続く橋の手前には四角い建物があって、そこには騎士団の制服を着た人だけでなく、一般市民の人たちも出入りしているのがうかがえる。エメリアさんには外で待っていてもらい、リディアさんは開けっ放しとなっている建物の入り口をくぐった。


 「……」


 建物内にはたくさんの窓口が設置されていて、様々な人種の人たちが書類を持って並んでいた。受付窓口についているプレートに書かれた文字は、『住民登録』、『住所変更』、『各種免許手続き』などなど。建物内は外見から想像した以上に広い作りとなっていて、いわゆる役所のような場所として機能していると思われる。職業適性検査と書かれた矢印は、階段を上がった先の2階へと向いている。


 「……こちらだな」


 他の人たちについていく形で、リディアさんも2階へと向かう。階段を上がった先には小さめの受付カウンターと、強い存在感を放っている大きなトビラがあった。上り階段も見えるから、役所には更に上の階もあるみたいだな。先に受付に並んでいた人が立ち去ったところで、リディアさんも受付の係員へと声をかけた。


 「職業適性検査を受けに来ました」

 「お次の検査は、10時から開始します」

 「解りました」


 係員の人は木でできた番号札を取り出し、それを手渡しながらも掛け時計を手で指し示した。掛け時計は丸い形をしていて、中央には針がついている。数字も書かれているし、地球で使われているものに似ているが……微妙に数字が多い。1から50まであるぞ。今は9のところに針がきているから、9時でいいのかな。すると、検査開始まで1時間はあるのだろう。


 「ここで待っていた方がいいかな」

 「いえ、外へ出ていただいても構いませんよ」


 係員の人に外出の許可をもらえた。リディアさんは腰に下げているバッグから時計を取り出し、役所の時計とあっているか確認している。検査会場はドアの向こうにあるらしく、受付からでは中が見えない。ここで待っていてもやることがなさそうと見て、リディアさんは役所を出てエメリアさんの元へと戻った。


 「あれ~。今日はお休みでしたか~?」

 「いや、次は10時からなんだ。何か軽く食べようか」

 「食べます食べます~」


 まだ検査開始までは1時間もあるので、2人は軽い食事をとりつつ待とうと決めたようだ。川沿いの道にはテラス席のある喫茶店が何件も並んでいて、飲み物を片手にくつろいでいる人や、仕事をしている人の姿もうかがえる。オシャレな店だ。


 「紅茶でいいか?」

 「あと、ケーキもください~」

 「買ってくる。適当な席で待っていてくれ」


 エメリアさんに席をとっておいてもらって、リディアさんは2人分の飲み物とケーキを買って来るらしい。そんなに混雑はしていないので、席がなくて困ることはなさそうだな。昼食前ということもあって、レジ周りにもお客さんは少ない。


 「ララケーキと……ブライングをください。あと、紅茶を2つ」


 大体、エメリアさんの好みは把握しているらしい。リディアさんは悩む様子もなく、ケーキと飲み物を選んで店員さんに伝えた。店員さんはガラスケースの中にあるケーキをお皿に乗せ、お代と引き換えに手渡してくれた。


 「お飲み物は、お席へお運びします」

 「はい」


 飲み物は作るのに少し時間がかかるらしい。リディアさんはケーキを持って店内を見回しているが、エメリアさんの姿は見当たらない。どこに行ったのかな。


 「……あっ。リディア~。こっちですよ~」


 エメリアさんがお店の中にいないので、リディアさんはテラスへと出てみた。花の植えてある場所があり、そちらに近い席からエメリアさんが手を振っている。


 「ララケーキあったんですか?」

 「これ、エメリアは好きなんだよな」


 ララケーキというのは、スポンジケーキにピンク色のゼリーが乗っているケーキだ。ちょっと酸っぱそうだな。ゼリーに使われている果物が、ララという名前なのだろうか。それとも、考案された国や発案した人の名前がララなのか。それは不明である。これはエメリアさんがいただくらしい。


 「ブライングですか?」

 「ああ。検査の前に、糖分をとっておこうと思う」

 

 リディアさんが選んだブライングという食べ物は、白いクリームまみれの何かである。丸っこい形をしているが、見た目はクリームのカタマリであり、中に何が入っているのかは全く見えない。コーヒー豆に似たものが、ちらほらとクリームに散りばめてある。


 「エメリア……ところで、なんでテラス席なんだ?」

 「天気がいいので。イヤですか?」

 「イヤじゃないが……」


 フォークを手に取りながら、リディアさんは落ち着かない様子で周囲に注意を向けている。エメリアさんの言う通り、今日は天気もいいし、喫茶店の時計を見る限りでは時間もある。どうしたのだろうか。


 「……」


 あ……解った。喫茶店の前を流れる川をへだてた先にある城、そこには騎士団の人たちが出入りしている。とすれば、城が騎士団の本部を担っているのであろう。リディアさんのお兄さんが働いている可能性が高い。こんなところを見られたら、何を言われるかも想像に容易い。


 「……騎士団長が来たら、すぐに教えてくれ。テーブルの下に隠れる」


 「クリスちゃんたちも忙しそうだったですし、騎士団長も喫茶店に来てるヒマないんじゃないですか?」


 エメリアさんの言う通り、クリスさんは地下組織がどうとか口にしていたからな。大きな犯罪のにおいがしたとなれば、騎士団のトップもケーキと紅茶を楽しんでいる場合ではない。騎士団の人たちも、ギンカちゃんやキンコちゃんも、みんな無事だといいな。


 「お待たせいたしました。ホットティーです」

 「ありがとう」

 

 店員さんがポットやカップを持ってきてくれた。ぬれたように輝く白いカップへ、真っ赤なお茶が注がれる。紅茶といえば赤みがかった茶色のイメージだが、これは真紅だ。宝石を溶かしたかと見間違うほどの鮮やかな色合いである。赤いものって、なんか酸っぱそうだけど、ミルクを入れた紅茶は、ほどよいベージュ色へと変わった。


 「ごゆっくりどうぞ」

 

 紅茶の湯気が、ふんわりと空に昇って雲に変わる。川沿いの道には、忙しそうに走る人や、のんびり散歩を楽しむ人がいる。大きなネズミが荷車を引いている。あれは、リンちゃんの家にいたものと同じ生き物だろうか。少しだけ毛色が違い、ハムスターみたいな模様がある。


 「リディア~。ちょっとちょうだい」

 「いいぞ」


 リディアさんは紅茶の香りを楽しんでおり、エメリアさんはケーキを食べ終わってしまった。なかなかリディアさんがケーキに手をつけないでいるので、先にエメリアさんがブライングにフォークを入れる。


 ブライングの白いクリームの中には、焦がした木の実が埋め込まれていた。プリンらしきものをしき、その上に焼いた木の実を乗せ、その周りをクリームで包んだ食べ物と見られる。さすがに木の実を取ってしまうと台無しなので、エメリアさんは外側のクリームをフォークの1すくいもらっている。


 「……あ、リディアさん!」

 「……!」


 お店の外、街道の方から呼びかけがあった。その声が聞こえたか聞こえないかという早さで、リディアさんはテーブルの下に身を隠した。


 「リディア……アネットちゃんですよ」

 「……なんだ。アネットか」

 「なになに?どしたの?」


 テラスと街道を仕切っている手すりに乗りかかって、アネットさんが2人を見つめている。大きなカバンを肩から下げており、何かを運んでいる途中なのだと思われる。リディアさんはテーブルの下から身を出すと、店の中へ来ないかとアネットさんを誘っている。


 「一時間後、職業適性検査なんだ。時間があれば、こちらへ来て話さないか?」

 「いいなー。でも、なんかよく解んない書類を運ばないとダメなんだー」


 なんかよく解んない書類を運んでいる途中らしい。まあ、アネットさんは騎士団の中でも若手だから、まだ重要な情報は頭に入っていないのだろう。カバンには鍵穴があるから、よく解んないけど大切な書類が入っているだとは思われる。


 「……そーだ!今日、午後から休みなんだけど、装備とか買いに行かない?」

 「ああ、職業の適性が解れば、装備も必要になるだろうが……」

 「決まり!13時に城門前の公園にいるからね!」


 約束を取り付け、アネットさんは手を振りながら走っていく。その後、何か思い出した様子で戻って来て、リディアさんに1枚の紙を手渡した。


 「これ、うちのお店なんだ。安くするから、よろしくねー!」

 

 それだけ渡すと、アネットさんは再びパタパタと走り去っていった。リディアさんがもらった紙にはお店の名前や、宣伝らしき文字が書き記してあった。そうか。アネットさんの実家は武器屋さんなのか。娘さんと一緒に行けば、それなりに安くしてもらえるかもしれないな。


 「なにをもらったんですか?」

 「割引券だ。あの子、武器屋の娘だったんだな」


 アネットさんがくれた割引券には、『1割引~10割引』と書いてあった。


 「……リディア~。10割引って、いくらですか?」

 「タダだぞ」

 「ですよね~。一応、確認しただけ~」


 10割引ともなると、そのコーナーには何が並んでいるのか想像がつかず、それは気になるといえば気になる。これ目当てで行ってみようかとも思ってしまう辺り、なかなか客の心理が解っているお店なのかも解らない……。


第54話へ続く

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