第54話『検査』
「そろそろ行こうか」
「はい~」
職業適性検査開始まで、あと15分くらいかな。リディアさんもエメリアさんもケーキを食べ終わっており、カラになったカップとお皿をお店のカウンターへと返却している。喫茶店から市役所までは、歩いて10分もかからない。係員の人に言われた時間までには、余裕を持って役所の前へと到着した。
「私、そこの公園で待ってますね~」
「アネットさんが先に来たら、待っていてくれるよう伝えてくれ」
エメリアさんは近くの公園で待っていると言っているが、その足は屋台へと向いている。よく食べるし、よく眠る人である。それなりに歩くし、彼女は健康体に違いない。そんなエメリアさんと別れて、リディアさんは役所の2階へと向かった。木でできた札を係員さんへ手渡すと、二つ折りの紙が差し出された。
「文字の読み書きはよろしいですか?」
「ああ。問題はありません」
「では、こちらの用紙の問題に、答えを記入して提出してください。そちらへどうぞ」
受付の先にある大きなトビラは解放されていて、広い部屋の中に長いテーブルと木でできたイスが並んでいるのが見えた。もう用紙への記入を始めている人もいて、リディアさんも空いている適当な席についてテーブルに用紙を広げた。
「……」
俺も用紙の内容に目を向けてみた。ええと……まず、名前と性別、種族を書く空欄がある。各欄の横には記号やチェックマークをつける場所があり、そちらは文字を書くのが苦手な人のための項目と見られる。リディアさんは文字の読み書きに難がないので、普通に文字で空欄を埋めていく。
「番号か……」
その下には住民番号という欄がある。これは住民証明書に記載されているらしく、バッグからカードを取り出して確認し、間違えないよう慎重に書き写していく。これで個人情報の記入は終了であり、次の項目が質問1となっている。
『質問1 魔法を使えるか答えてください。なるべく詳しく記入を願います』
「……」
やっぱり、魔法が使えるかどうかで、就きやすい仕事が大きく異なるらしい。この質問にリディアさんは考え考え、回答の文字を増やしていく。ここに使用できる魔法を細かく記載できれば、魔法使いに推薦されたりするのかな。リディアさんの回答は……。
『体内保有魔力は多いと推定されるが、魔力の解放が生まれつき苦手である。魔力の特性は白。癒しの波長。装備の増長効果によっては、魔法を使用可能』
ここでいう装備というのは、きっと俺の事だろう。職業適性検査において、装備品が個人の能力として認識されるのかは疑問だが、詳しく書けと言われたら書かざるを得ない。村の人たちを次々と回復した実績からして、リディアさんの魔力保有量は期待できると見られる。
『質問2 希望の職業。または、こころざしを書いてください。特定の職種を希望でない場合、希望している職種の特徴を具体的に書いてください』
「……」
この質問に対して、リディアさんは困った様子もなく、スムーズに筆を動かした。
『体力に自信がある為、前衛として戦線に立ち、人々を守る仕事を希望している。重戦士として2年の活動期間があった』
アーマーが着られなくなったのを機に、今後の参考までにと検査を受けに来たようだが、やはり人を守って動ける仕事がしたいという希望は変わっていないようだ。その役を担うだけの能力があることが検査で証明ができれば、騎士団長の反応も少し変わってくるかもしれない。
『質問3 家族以外の他人から褒められたことのある点を5つ書いてください』
「……褒められた点か」
この質問については、リディアさんも少し考え込んでいる。俺は家族からだって、あんまり褒められた記憶はないな。唯一、母親が俺に感心していたところといえば、『どこにいても何をしても目立たないから、角が立たない』という……いいのか悪いのか判断のつかない能力であった。俺は転生する前から、すでに石みたいな男だったのだろうか。
「……褒められた点」
まだリディアさんは悩んでいる。その内、『勉強』だとか、『忍耐力』などと書き始めたのだが、4個ほど単語を並べたところで、二重線で訂正した。
「……」
今まで書いたものは、他人から褒められたというには自信がなかったようである。やや考え込んだ末、観念したように別の単語を並べ始めた。
『顔・声・におい・胸・性格』
それは……エメリアさんに言われたやつじゃないだろうか。ほぼ内面ではなく、身体に由来しているものである。ほめられたという意味では間違ってはいないが、それで天職が決まるとしたら、重戦士とはかけ離れたものになるのではないかと思われる。
「……」
この答えでリディアさんも納得はしているようだが、これでいいのかというと気がかりではあるらしい。では、先程の無難な答えでいいのではないかと俺は考えたが……そこで、やっと気がついた。
先に書いた『勉強』や『忍耐』というのは、主に家族から言われていたことなのだろう。で、家族以外の人から褒められたことを並べると、基本的に外見についてばかりとなってしまう。それがリディアさん自身としても残念なのかもしれない。
『質問4 戦歴、受賞歴があれば書いてください』
俺はリディアさんの胸の上に乗っているので、ここまでしか紙に書かれている内容は視覚に入らない。何か書いてはいるようだし、賞を取った記録はあると思われる。
「……」
それからも、リディアさんは時間をかけて、1つ1つ質問へと真剣に答えていく。周りにいた人たちはすでに書き終えて用紙を提出しており、大部屋に残っているのはリディアさんが最後であった。リディアさんから用紙を受け取った係員さんが、次の部屋へと進むよう誘導している。
「あちらが、魔力測定と体力測定の会場です。装備品をお預かりします」
「はい」
カギのついた箱が幾つも用意されていて、その中に俺やバッグ、装飾品を収納する。純粋な体の能力を計る為に、能力のアップするものは外さないといけないのだろう。また俺は暗い箱の中で、のんびり待たせてもらうとしよう。
「……?」
暗闇の中で和んでいると……サブウィンドウに人影が見えた。誰が映ったのかと気になり、俺はリンちゃんの家の前にある石へと視点を切り替えた。
「ありがたや……」
この人は……リンちゃんに果物を分けてくれたおばあさんだ。俺の前に立って手をあわせ、むにゃむちゃと小声で感謝を告げている。おばあさんが立ち去ってすぐに、今度はおじいさんがやってきて同じようにして俺へと手をあわせて見せた。
「ありがたやありがたや……」
「……」
なんか、拝まれてしまっている。悪い気はしないけど……何があったのだろう。そこへ、リンちゃんがやってきて、他の人と同じように手をあわせた。
「ヒカリちゃん。今日もいい天気です……」
「リン。石の神様の分身だ。キレイにしといてくれ」
「うん!」
石の神様の分身。なるほど……何かしらの噂が広まって、俺にはご利益があるという設定になったようだな。思い当るところでは、シロガネさんが俺の話をリンちゃんにしていたから、それが伝言で村の人たちにも伝わったと考えられる。
「……?」
今度は職業適性検査の会場にて、誰かが俺の入っている箱を開けたのが見えた。こちらは……リディアさんだ。筆記に比べると、体力・魔力検査は早く終わったようだな。再び、俺はリディアさんの胸元へと戻された。
「ありがとうございました」
「結果は、すぐにお伝えします。席でお待ちください」
用紙に答えを書いていた時と同じ席に座り、検査の結果が出るのを待っている。他の人たちが用紙を受け取って帰っていく中、最後の最後にリディアさんへと封筒が手渡された。
「……あの。こちらが、検査の結果となります」
「……はい」
「それがですね……」
「……?」
すぐに封筒の中を見ようとするリディアさんの手を止めて、係の人が他の係員を手招きし始めた。騎士団の制服を着た人が3人も集ったところで、年長者と思われるお兄さんが告げた。
「検査結果なのですが……やや見慣れない職業が適合いたしまして」
「あ……怪しい仕事ですか?」
「まあ……ええ」
「……」
否定が帰って来るかと思いきや、見慣れない上に怪しい仕事だと言われてしまった。なお、エメリアさんの適性職業である『特殊マッサージ師』より怪しいものは、俺には思いつかない。係員の人たちにつれられ、リディアさんは奥の部屋へと向かった。
「……」
ここは、体力検査を行った部屋だろう。運動に使えそうな道具や、測定器具が並んでいる。係員さん達とリディアさん以外に誰もいないのを確かめた後、封を切るようにとうながされた。
「どうぞ。中をご確認ください」
「……」
怪しい仕事と言われてしまった為、リディアさんも封筒を開けるのをためらっている。とはいえ、これで出てきたものが将来を左右するわけでもなし、思い切って中身を確認していた。
「……」
封筒の中に入っていた紙を開いて、そこにある文字へと視線を落とした。見える角度的に厳しかったが、短い内容だったので俺にも文字が読み取れた。
『職業適性:聖女』
「……聖女?」
聖女?聖女って……どんな仕事なんだ?俺と同じことが脳裏をよぎったらしく、リディアさんも係員の人たちへと尋ねている。
「あの……聖女とは、何をする仕事なのですか?」
「非常に解りません……」
「……」
多分、この人たちが職業適性検査を担当なのだろうが、その人たちから『非常に解らない』と即答された。担当者が非常に解らなかったら、俺もリディアさんも、どうしていいのか解らない……。
第54話へ続く




