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【番外編7】コンティニューは続くよどこまでも(後編)

「……またお前か王子。しつこいな」

 真央兄が心底うざったそうに呟く。

 開けた闘技場のような場所へ行けば、そこにゆきと怜司がいた。


「怜司、それにゆきも!」

「はる!」

「春斗!?」

 俺を見て、二人が目を見開く。

 再開をひとしきり味わってから、これまでどうしていたのかを尋ねた。


 ゆきと怜司は真王兄たちと同じく、今から十年前の異世界に飛ばされた。

 それで勇者として魔族と戦ってきたらしい。

 それでいてゆきの方は、この世界の大国シアラントの王子とうり二つだったため、色々あってその王子として暮らしているらしかった。


「じゃあ、名前の通り王子様になったってわけか」

「うん。異世界に来た衝撃で記憶喪失になってた俺は、死んだシアラントの王子の代わりとして育てられてしまったんだ」

 俺の問いにゆきが答える。


 ゆきが記憶を取り戻したのは、ここ五年くらいのことらしい。

 十年経つのに姿が変わらないなと今更に思って尋ねたら、異世界人の勇者は歳を取らないらしかった。

 怜司の方はというと、ゆきの国の神官として活躍しており。

 ゆきが記憶を取り戻してからは、何度か一緒に魔王の城へと挑戦しにきているようだった。


「……記憶取り戻したなら、魔王が真央兄だって気づいてたんだろ? なのにどうして倒しにきてたんだ? 勇者として、やっぱり魔王は倒さなくちゃ駄目なのか?」

「まぁ、国から言われたのもあるけど、いい機会だから排除しておこうと思って」

 不安から尋ねた俺に、ゆきはいい笑顔で剣を抜いて答える。


「しかしこの世界が乙女ゲームねぇ。まぁそれはどうでもいいんだけど。つまりはさっさとアイツを封印しちゃえば全て解決ってことだよね?」

「お前も懲りないな王子。また可愛がられたいのか。よっぽど俺様にいたぶられるのが好きらしいな?」

 ゆきと真央兄が視線を交わし、殺気が広場に満ちる。

 ヘタな小動物なら、その威圧感だけで心臓発作を起こしてしまいそうな空気を二人は放っていた。


 二人が戦いを始める。

 喧嘩を止めなきゃと思うのに、気迫に飲まれて足が動かない。

 レベルの違いというのをまざまざと見せ付けられる異次元の戦闘が、目の前で繰り広げられていた。


「はる先輩、UN○やりましょうよ。そろそろ一条も来ると思いますし」

 ヨシキののん気な声がして横をみれば、テーブルがいつの間にかセッティングされていて、そこには怜司も一緒に座っていた。


「……二人は戦わなくていいのか?」

「もちろん戦うさ。最近は負け続きなんだ。意外と面白いぞこのUN○というカードゲームは。ルールを知らないなら、ぼくが教えよう」

 和気藹々とした雰囲気にあっけに取られる俺に、怜司が目を輝かせる。

 遊びで俺に何かを教えるという事がなかったから、嬉しいんだろう。

 こっちは物凄く平和的かつ、楽しそうな戦いだ。


 我に返れば、真央兄とゆきが戦っている広間に、ぞくぞくと人が集まり始めていた。

 この広場は闘技場のような形をしていて、二階席に人がどんどん入ってくる。

 ぱっと見る限り、右が魔族で左が人間たちのようだ。

 そこではポップコーンを売る者や、泡の出る麦茶を販売している者もいた。


『おーっと魔王のレッドハリケーンがでましたわ! 圧倒的な火力! 王子大ピンチ! いえ、あっさりと水魔法で防ぎました! そこから風の剣技が炸裂しています。まるで舞いを見ているかのようです!!』

 いつの間にか、実況中継が聞こえる。

 しかもこの声どこかで聞いたことがあるんだが。

 俺の記憶の中にある、学院の女王だった一条桜子の声にそっくりだ。


 ふいに、ちょんと背中を叩かれふりかえる。

「竜馬……?」

「先輩、久しぶり。抱きしめていい?」

 俺に笑いかけて、了承を得る前に竜馬が抱き付いてくる。


 今までどうしていたのか聞けば、竜馬も十年前に姉である桜子と一緒に、異世界に飛ばされたらしい。拾ってくれたのが裕福で優しい商人で、ふたりはそこでずっと生活していたという事だ。


「人間だけじゃなく、魔族側にも商売の手を伸ばそうとしたら、相川元生徒会長がいたんだ。それで手を組んだんだよ」

 今や王子バーサス魔王の試合は娯楽の一つとして、この辺りの国では定着しているらしい。

 ……俺が思っていたより、異世界は平和なようだ。



『おっとぉ! 空から乱入者が! ……って、あのエンジェルは何ですの! 私の愛しいユメに瓜二つじゃありませんの!』

 桜子の実況中継が興奮気味なものになり、まさかと思って俺は空を見上げた。


「はるっ! 待たせたな!」

 王子と魔王の戦いの場にやってきたのは、タカだった。

 どうやったのかは知らないが、白いドラゴンを連れ戻すことに成功したらしい。

 ドラゴンの背から戦場に降り立つタカの背には、赤ん坊のユメの姿があった。


「はるを返してもらお……って、王子と魔王様じゃねーか。何でこんなところで戦ってるんだ?」

 混乱した様子のタカに、魔王とゆきの二人が戦いの手を止める。


「どうする、魔王様?」

「そうだな……こいつからやっとくか。前の世界でも、前の前の世界でも、今回の世界でも。はるとずっと一緒ってところが、苛立つ」

 ゆきの言葉に、真央兄が応えて。

「そこだけは意見が合うね?」

 そのゆきの言葉を合図にするかのように、二人してタカに向き直った。


「えっ……? ちょっと待て。何だよそれ。この続編には魔王と王子の共闘モードでもあるのか!?」

「知ってた? 勇者って魔王を倒すと、どんな無茶な願いでも一つ叶えてもらえるんだ。だから魔王を倒して、はるとこの世界で俺は式をあげるよ。大国の王になる俺だから、どちらにしろ願いは何だって叶うんだけどね。君はちょっと邪魔かなぁ?」

 うろたえるタカにゆきが爽やかな笑みを浮かべ、聖剣を突きつける。


「悪いがはるには魔王たる俺様の側で、ずっと癒しであり続けてもらう。伝説の巫女がユメである以上、俺様を封印するなんて不可能なんだから、それが一番平和的かつ、理想的だろ? ついでにこの世も俺様が管理してやるよ」

 だから安心して消えていいと、真央兄が冷たい笑いを浮かべタカに魔剣を突きつける。


「ちょっと待て! 何で仲間同士で喧嘩しなくちゃいけないんだ!」

「別に仲間じゃないよ。春斗以外は皆邪魔」

「別に仲間じゃない。はる以外はいらない」

 俺の言葉に、ゆきと真央兄の言葉がかぶさる。

 ……実はこの二人、息ぴったりなんじゃないだろうか。


「やっぱりこいつの前に王子、お前を始末しておかなくちゃな」

「魔王なんてこの世界に不必要だよね。封印なんて生ぬるいし、消してあげるよ」

 そして、また真央兄とゆきの戦いが再開される。


「先輩、おれのところにおいでよ。中立だからさ」

「……お願いしていいか?」

 そうして俺は、タカとユメと一緒に、竜馬と桜子の家でお世話になることにした。

 


●●●●●●●●●●●●●●●●●●


 あれから少し時が過ぎて。

 現在この世界には、いままでにない平和が訪れていた。

 喧嘩するなら俺は真央兄とも、ゆきとももう会わないと言えば、ふたりとも争いをやめてくれたのだ。


 とはいっても、やめたのは人間と魔族の争いの方。

 二人のバトルは以前続いていて、定期的な見世物として名物と化している。

 バトルは一ヶ月に一度、勝った方のところに俺が一ヶ月滞在する。

 引き分けの時は竜馬たちの家で過ごす。

 時折、怜司やヨシキ、タカや竜馬が参戦してくることもあった。


 かなり賑やかで、騒がしい日々。

 でも、皆がいるこの世界は、俺にとって居心地は悪くなくて。

 それなりにうまく回っていた。



 今回のバトルは真央兄が勝ったので、現在表彰式と俺の身柄の受け渡しが広場で行われている。

 俺はいつもの見慣れた顔の中に、ユメがいないことに気づいた。


 ちなみにユメは、俺が皆と仲良くしているからか五歳程度まで成長している。

 サイズが小さいだけで大人のユメと精神年齢は変わらない。五歳からユメは成長が止まってたんじゃないか……いや、考えるのはよそう。

 最近では、このままでもいいかなと思い始めている俺がいる。


「タカ、ユメ見なかったか?」

「そう言えばいないな」

 気付けば横にいたはずのユメの姿がない。二人してキョロキョロと辺りを見渡す。


「ユメちゃんなら、さっきモゴッホ・フモッフ・三世見つけた! とか言って、白い髭のおじいさんを追い掛け回してたよ?」

「モゴッホ・フモッフ・三世……どこかで聞いたような?」

 竜馬の言葉に、タカが眉を寄せる。


「はるたん見て見て! いせかいの大けんじゃ、モゴッホ・フモッフ・三世から、この世界に連れてきたおわびにって、宝石もらった!」

 とてとてと走るユメの頭には、顔と同じでかさの宝石のような見た目をした卵。

 その表面にはひびが入り始めていて、どこかでこの光景見たなぁと脳内で嫌な記憶が蘇る。

 そうあれは、エステリア学院の卒業式で……。



「待てユメ! 今すぐそれを返してこい! 絶対ロクなことにならない!」

「ちょっと何するのはるたん! いせかいの大けんじゃモゴッホ・フモッフ・三世が、世界が変わるような素晴らしいプレゼントをって、ユメにくれたんだよ!」

 タカと一緒にユメの頭の上にある卵を排除しようとしたが、うまくいかない。


「世界が変わるようなって、それ絶対危ないフラグだから!」

 俺の叫びも虚しく、卵にヒビが大きく入って、割れて。


 中から生まれたのは虹色の羽を持つ、鳳凰ほうおうをおもわせる鳥だった。

 俺たちは光に包まれてそして――。



●●●●●●●●●●●●●●●●●●


 ――目が覚めたら、そこは異世界でした(二度目)。

 うん、何でこうなったんだろうな。


 中華風の城の中には甲冑を着込んだ騎士。

 贅を尽くしたような調度品の数々に、細かい細工が施された外壁。

 外に出れば、水底のような空の奥に逆さまの大きな木が見える。

 そこから、ひらひらと雨のように降ってくるのは花びら。


 青白く発光する花びらが降っていれば朝で、白なら昼、赤が混じってそこから闇色が混じり夜となる。

 ここが日本どころか地球じゃなくて、さっきまでいた世界とも違うんだよと教えられているようだった。


 どうか異世界からの勇者をあつめて、この朽ちていく世界を救ってください。

 城の中で接待され、目の前の王様っぽい人が頭を下げてくる。

 どこかで似たような状況見ましたよ? と、心底言いたくなった。


「タカ、これはどういうことだ」

「はるも気づいてるんだろ……ハーレムルート(二度目)からの、続々編だ」

 尋ねれば、力なく側にいたタカが答える。


「おそらく続編の続編がニホンでは発売されたんだな。人気で何よりなことだ。そしてそれもハーレムルートからの派生だったと、そういうわけだな」

「いやおかしいだろ! 何でこうなった!」

 もはやタカの目は悟っている。

 俺は答えがわかっていても、叫ばずにはいられなかった。


「そうだ! ユメはっ!?」

 俺の言葉に、タカがはっとしたような顔をしてまわりを見渡す。

 ここに俺とタカ以外には、ユメがいたはずだ。

 前のような失敗を繰り返すわけにはいかなかった。


「うきゅきゅ?」

 俺の声に返事するように、虹色に輝く怪しいバナナを頬張った謎の小猿が、ぺちぺちと俺の脚を叩いてくる。

「……」

 俺は無言でそいつの体を持ち上げ、尻の部分を確認した。

 ハート型の痣がある。


「タカ、これユメだわ」

「……そうか。もはや人間ですらないな。ところでユメの頭の卵から出てきた、伝説の鳳凰はどこ行った?」

 タカは答えながら、窓へと自然と歩みを進める。

 俺に聞くまでもなく、タカはこの後の展開がわかってる。

 けど、そうで無ければいいという微かな希望が捨てられないんだろう。

 窓には使用人たちが集まっていて、俺は激しくデジャヴを感じていた。


「すいません、ユメ様が鳳凰様のエサを横取りして、機嫌を損ねたみたいで! お止めしたんですが力及ばず……!」

 泣きそうな使用人を、いいですもういつもの事ですからと宥める。


「……タカ、このゲームってさ。ユメがヒロインな時点で詰んでる」

「知ってた」

 友達と、確信を持って空を見上げる。

 鳳凰の姿が遠くに小さく見えた。


 気がついたらゲームの世界にいた俺。

 元の世界に戻るためあがいて、気づけば攻略対象たちと友情を築いて。

 ようやくここで生きていく決心がついたところで、何故か異世界の勇者になっていた。


 そこでもどうにかこうにか平和を手に入れて。

 ――そしたら今度は別の異世界の勇者になっていました。


「うきゅ、うきゅきゅ!」

 俺の頭の上で、ヒロイン様はのんきに飛び跳ねている。

 昔からこいつといると、ロクな目に合わない。

 しかしもう、慣れた。


「何でこうなったんだァァ!」

 でも、叫ばずにはいられない。

 これから先もまだまだ、俺の苦労は続く。

 波乱万丈で、退屈する暇のない日々がこの先にもずっと続いているのだと、そんな予感がひしひしとした。

俺たちの明日はこれからだエンドレスEND。

こんなのもありかなぁ……なんて。きっと毎日退屈しません。

ヒロイン? なにそれオイシイノ?

何はともあれ、読んでくれてありがとうございました!

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