↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔力最下位の理系転生者は、魔法を誰でも使える技術に変えたい ~詠唱はコード、魔法陣は回路。才能がないなら、法則を探せ~  作者: Ita
終章 科学と魔法の狭間で

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
116/116

第116話 異なる灯りの下で


 講習の最後の日、試験台には火がついた。


 大きさは指先ほど。乾いた木皮の先だけを照らす小さな炎だった。


 入力したのはサナだ。


 講習室の窓から朝の光が入っている。黄色い線の外には、ヨルとタリヤ、ガルドたちが立っていた。壁の向こうでは、ジークが黒鉛槽を見ている。


 試験台の裏板は閉じていない。開いた点検窓から、石英片と排熱管の間に入る部品まで見える。以前の真鍮の切替片は外され、履歴の分かる部品に替えられていた。前日までに熱の通り道と停止後の放熱を確かめた記録が、台の横へ留めてある。


 今朝も、サナは最初に点検窓を覗いた。


「図と同じ位置にあります」


 フィンが頷く。


「次は?」


「停止札と、手動レバーの位置を確かめます」


 サナは杖を置き、両方に手を伸ばした。杖を持ったままではレバーに届きにくいと、講習の初日に自分で気づいたのだ。


 確認を終えると、彼女は測定板へ戻った。


 低魔力のサナが石英片へ送れる熱は、ヨルやエリシアより少ない。だから前日までの測定を使い、木皮の乾き具合と石英との距離を調整した。外部媒体の供給量は、試験台の表示で確かめられる範囲に留めている。


 誰かが代わりに強い入力をすれば、火はもっと簡単につくだろう。


 けれど、今日確かめるのはサナが自分の条件を選び、変化を読み、自分で止められるかだった。


「燃料、乾燥を確認しました。石英との距離は二目盛り」


 サナが読み上げる。


「入力は二呼吸を予定。温度が上限まで一段になったら、時間より先に止めます」


「黒鉛槽が遅れたら?」


 ガルドが訊いた。


「追加の入力を止めます。残った熱に触らず、槽の目盛りが落ち着くまで待ちます」


「よし」


 サナは一度、俺の方を見た。


 俺が頷くと、彼女は小さく息を吸った。


 一呼吸目。木皮の縁から、細い煙が上がる。


 二呼吸目。石英の白い光が木皮に触れ、端に小さな橙が生まれた。


「温度、上がっています」


 ヨルが目盛りを読む。


「上限まで、あと二段」


 サナは火を見た。


 炎は消えずに揺れている。今すぐ危険なわけではない。予定した時間までは、あと一呼吸ある。


「続けるの?」


 タリヤが訊いた。


 サナの指が入力環の縁に掛かったまま止まる。


 火はもうついた。続ければ、もう少し大きくなるかもしれない。部屋にいる皆にも、はっきり見えるだろう。


 けれど、そこから先に確かめたい条件を、彼女は試験前の紙に書いていなかった。


「止めます」


 サナは停止札に触れた。


【停止要求:受理】


 石英への入力が途切れる。火は細くなり、やがて消えた。


 誰もすぐには台へ近づかない。


 黒鉛槽の温度がゆっくり上がり、それに遅れて石英片の目盛りが下がる。ジークが槽の側から放熱の経路を確認し、フィンが記録板へ時刻を書き込んだ。


「まだ次の人は使えません」


 サナが言うより先に、タリヤが口を開いた。


「それ、私も言おうと思った」


 サナが笑う。


 黒鉛槽の針が所定の位置まで戻ってから、彼女は自分の記録へ向かった。火のついた時刻と停止した時刻、石英の温度、燃料の位置を書く。


【火炎形成:確認】

【停止要求:受理】

【残留熱の放出:確認】


 最後の欄で、筆が止まった。


「昨日より、火は小さいです」


 サナが呟く。


「昨日は何を目標にしたの?」


 隣にいたエリシアが訊いた。


「火をつけて、自分で止めることです」


「今日の結果は?」


 サナは試験台を振り返った。


 木皮の先には黒い跡が残っている。石英は冷え、黒鉛槽も次の試験を待てる温度まで下がっていた。


「できました」


 彼女は【成功】と書き、その下に【次回は燃料の位置を再確認】と付け足す。


 成功したから、直すところがなくなるわけではない。


 周囲で見ていた学習者たちから、遅れて拍手が起きた。サナは照れたように筆を置いたが、もう一度黒鉛槽の目盛りを見てから、皆の方へ戻った。


     ◇


 昼前、講習の終わりに質問を受けた。


 最初に手を挙げたのはヨルだった。


「ユウマさんの理論を全部覚えたら、もう間違えずに済みますか」


 室内が静かになった。


 俺は講義用の紙を見た。最初の行は、四日間で何度も書き足されている。


 試験台の裏側にあった切替片。測定時の部品の温度。荷車を置くと見えなくなる停止札。図を重ねるタリヤの手が届く高さ。


 どれも、講習を始める前の紙にはなかった。


「間違えると思う」


 ヨルは少しがっかりした顔をした。


「昨日も、俺たちが用意した図は足りなかった。これから作る図にも、まだ見えていない条件がある」


「じゃあ、何を覚えればいいんですか」


「自分が何を確かめたか。確かめていないところを、分からないまま書けること。それから、動かす前に止め方を確かめること」


 ルカが壁の新しい停止札を指した。


「止める場所も、置く物が変われば見えなくなります」


「そう。作った人が読める図でも、初めて使う人には読めないかもしれない。だから、実際に使う人に見てもらう」


「火がつかなかった紙も残す?」


 タリヤが手を挙げた。


「残す。火がつかなかった時、熱がどこまで届いたか分かったから、燃料を調べられたんだ」


「じゃあ、人がけがをした時の紙も、全部見せるの?」


 その問いには、すぐに答えられなかった。


 聖都の小さな記録室で、俺は前の世界のことを仲間に話した。事故のあとで何を恐れていたのか、伝える助けになった。同時に、誰にどこまで話すかは、自分で選びたかった。


「記録は残す。でも、誰に何を見せるかは別に決める。原因を確かめるために必要な測定値と、その人の名前は、同じものじゃない」


 ノエルが、講習のために用意した二枚の紙を示した。


 一枚は、誰でも読める試験条件と測定結果。もう一枚には、当事者への連絡先と、公開前に確かめる項目がある。


「必要な人へ事実を伝えることも、本人に黙って全部を広めないことも、両方考えます」


 ノエルが言った。


「分け方を間違えたら?」


 タリヤが訊く。


「その時は、間違えた記録も残して直します」


 ノエルは迷わず答えた。


 サナが俺を見る。


「先生の式が間違っていると思ったら?」


「言ってほしい」


「昨日みたいに?」


「昨日みたいに。できれば、どこで結果が違ったかも教えて」


「怒りませんか」


 ヨルの問いに、フィンが先に笑った。


「たまには怒ると思うぞ」


「フィン」


「こいつは腹が立つと、すぐノートへ長い式を書く」


「それは怒ってるんじゃなくて、説明を――」


「長い式を書く」


 部屋に笑いが広がる。


 俺も笑ってから、紙を机へ置いた。


「怒ることはあるかもしれない。でも、測った結果を消してはいけない。俺が間違っていたら、俺にも分かるように残してくれ」


「それを見て、直すんですね」


 サナが言う。


「ああ。俺が直せなければ、別の誰かが直せるように」


 ヨルは講義用の紙の余白を見た。


「ここ、書いてもいいですか」


「いいよ」


 彼は俺の最初の一行の下に、少し曲がった字を足した。


【確かめたことと、まだ分からないことを分ける】


 タリヤがその横に、小さな手の絵を描く。停止札へ伸びる手だ。


「絵も?」


 ヨルが訊く。


「読めればいいだろ」


 ガルドが答えた。


 タリヤは得意そうに笑い、それから手の絵が札まで届いていないことに気づいて、描き直した。


     ◇


 夕方、講習の参加者が帰り始めた。


 ガルドは荷車へ試験台の図面を積み、タリヤを呼ぶ。彼女はルカと廊下の停止札の位置をもう一度測っていた。


「早くしろ。日が暮れる」


「あと一つだけ!」


「その一つが長いんだ」


 荷車へ乗る前に、タリヤが俺の袖を引いた。


「お兄さん、今度来たら、水と火の続きを見てね」


「危険条件は?」


「書いた。蒸気の逃げ道は、ガルドじいとまだ相談中」


「なら、相談の結果も見たい」


「うん。先に試したりしないよ」


 タリヤは少し不満そうに言ってから、抱えた紙の束を持ち上げた。


「今日の裏側の図も持って帰る。工房の台と同じか調べるの」


「違ったら、違うところを書いて送って」


「分かった!」


 車輪が坂を下っていく。研究所へ来た時より、荷物は増えていた。


 成功例だけでなく、直し途中の図と、使わなかった真鍮の切替片の写しも積まれている。ガルドの工房で次に試す人は、その紙をタリヤから受け取るだろう。


 曲がり角で、タリヤが大きく手を振った。


 俺も振り返す。


 荷車が見えなくなってから、記録室へ戻った。


 アークが、各地から届いた返答を整理している。真鍮の切替片を使っていた鉱山町は、代替の排熱管を確保できたという。交換は明日。住民への告知が終わるまで、炉は低出力で使い、手動停止の担当を置くと現地から報告があった。


「この件、こちらの図をそのまま送って終わりにはできないな」


『はい。現地の配管には、研究所で確認できない改修履歴があります』


「交換後の測定値を送ってもらおう。問題が残れば、一緒に調べる」


『連絡文を作成します』


 雪原からは、旧式暖房環の試験を続けるという返答が届いていた。


「保留は変わらないか」


『はい。今週の温度記録は届いています』


「困ったことは?」


『現地から研究所への支援要求はありません。ただし、手動燃料の輸送に遅れが生じています。物流担当へ、現地の申請が届いています』


 俺が口を開く前に、アークが続けた。


『こちらから代替方式を指定する提案は行いません。申請先による輸送の回答を待ちます』


「分かった。届いた記録は、引き続き読めるようにしておいて」


『はい』


 同じ仕様へ急いで移ることが、雪原の人々を守るとは限らない。あの土地で使う暖房環は、あの土地の冬を越えて確かめる必要がある。


 机には、暫定七席からの書状も置いてあった。


 大域仕様の常任設計責任者への就任を求める再提案だ。神域から戻ったあとにも一度断ったが、今度の書状には職務の範囲と撤回条件が書き加えられている。


 俺は最後まで読んだ。


 試験結果の共有。旧式設備の移行時に生じる事故の調査。改訂案を各地へ届けるための連絡役。必要な仕事は確かにあった。


 ただ、常任設計責任者には、異なる地域の判断が食い違った時、最終案を定める権限も残っていた。


 机の上には、サナが書いたばかりの試験記録がある。


 今日の火に必要だったのは、俺がサナに代わって入力することではなかった。彼女の結果を比べられる記録と、本人が触れられる停止札だった。


 俺は返書を書いた。


【常任設計責任者への就任は辞退します】


 その下に、引き受けられる仕事を書き足す。


 研究所は各地の試験記録を受け取り、条件の違いが分かる形で整理する。危険の報告には応じる。求められれば、現地で一緒に測る。公開できない事情のある記録については、当事者と範囲を確かめる。研究所自身の結果にも、反証と修正を受け付ける。


 どこか一つの土地の設備を、離れた机から最終決定する仕事は引き受けない。


 書き終えた紙をノエルに見せると、彼女は最後の行を指した。


「『研究所自身の結果』に、今日の講習も入りますね」


「もちろん」


「では、初日の図も一緒に保存しておきます。後からどこを直したか分かるように」


 フィンが横から覗き込む。


「署名の前に、一箇所」


 彼は公開記録の項目に印を付けた。


「銀線の継ぎ目は、元の工房からまだ返事がない。原因が分かったように書くなよ」


「分かってる。『確認中』にする」


「ならいい」


 フィンは筆を返した。


 俺一人で書いた返事にも、すぐ修正が入る。


 不思議と、安心した。


     ◇


 研究所の外へ出ると、エリシアが西の空を見ていた。


 鉱山の反力塔が長い影を落としている。彼女は焔紋の杖を壁へ立てかけ、紙を一枚読んでいた。


「まだ仕事?」


 声を掛けると、彼女がこちらを見た。


「これは明日でいいわ」


 どこかで聞いた言葉だった。


 聖都で、俺が前の世界のことを仲間に話すと決めた夜にも、彼女はそう言って仕事を置いた。


 エリシアは紙を丁寧に筒へ戻し、俺の隣に立つ。


「王都へは、いつ戻る?」


「三日後。家に提出する試験計画を、ここで見直してから」


「ヴァーミリオン家の炎の?」


「ええ。今日のサナの結果も参考にするつもり。血統による補助がどこに働くのか、まず測れる範囲から分けてみる」


「家の人とは、まだ揉めそうだな」


「もう揉めているわ」


 エリシアは苦笑した。


「でも、試験計画は読んでもらえた。返事が来たら、次を考える」


「手伝えることがあれば言って」


「言うわ。あなたの図も直すけれど」


「それは今日もやってただろ」


「明日もやるわよ」


 研究所の窓から、フィンとジークの声が漏れてくる。真鍮の切替片を教材としてどこまで分解してよいか、相談しているらしい。


 坂の下では、昔ながらの詠唱で工房の炉に火が入った。少し離れた家には、新しい入力環の橙色の灯りがつく。その間を、油を入れた手提げ灯を持つ人が歩いていた。


 灯りはそれぞれ違う時刻に点き、違う明るさで道を照らす。


「学院にいた頃、あなたは私の火を全部数値にしようとしていたわね」


 エリシアが言った。


「嫌だった?」


「腹は立った。でも、私も自分の感覚を説明できなかった。あなたが聞き直してくれたから、言葉を探したの」


「今でも、分からないところは多い」


「私もよ。だから、まだ研究する」


 横顔を見た。


 学院の屋上で、俺は「理論が終わっても隣にいてほしい」と言った。エリシアは、その先を二人で相談して決めようと答えた。


 あれから世界の仕様は変わった。それでも彼女には王都で引き受ける仕事がある。俺はここで、フィンたちと研究所を続けたい。


 二人の仕事を一つに揃える必要はない。そのことを、ようやく落ち着いて考えられた。


「エリシア」


「何?」


「あの夜の続きを話したい」


 彼女がこちらへ向く。


「俺は、君と一緒にいたい。仕事で離れている時も、また会いたいと思ってる。研究のためだけじゃない」


 言葉が喉に引っ掛かった。


 事故の話をした時とは、別の難しさだった。測定値も、確認票も用意できない。


「君が好きだ」


 エリシアはすぐには答えなかった。


 夕陽が杖の金具に反射し、彼女の頬へ小さな光を落とす。


「私は、あなたの理論が好きだったのかもしれないと思ったことがある」


 胸の奥が冷える。


「でも、理論に腹は立たないわ。秘密を打ち明けてくれなかった時、私はあなたに怒った。神域から帰った時は、あなたが生きているのを見て安心して泣いた」


 彼女が一歩近づく。


「一緒に研究するだけなら、王都とグレインベルで記録を交換すればいい。でも、私はそれだけでは足りない。会って話したいし、あなたが無理をしていたら止めたい。私が間違えたら、あなたにも言ってほしい」


「言うよ」


「好きよ、ユウマ」


 エリシアは少し照れた顔で笑った。


「私には家の仕事がある。これからも揉めると思う。研究だって、あなたといつも同じ結論にはならないわ」


「うん」


「それでも、恋人として一緒に進んでみたい」


「俺も」


 何年後にどこで暮らすかは、まだ決められない。今日、その答えを出さなくてもいい。


「次に会う日、決めておこうか」


「そうね。あなたは連絡をすると、たいてい試験結果から話し始めるもの」


「先に、会いたいって書く」


「その後に試験結果なら、読んであげる」


 差し出された手を取る。


 ガレオン村から帰る道で別れた時も、俺たちは手を握った。あの時は、次にいつ会えるか分からなかった。今は、別々の道を歩く日にも、会う約束を作れる。


 胸元でアークの光が点いた。


『会話の記録について、確認を――』


「アーク」


 俺とエリシアの声が重なる。


『失礼しました。記録は作成しません』


「今のは、練習したの?」


 エリシアが訊いた。


『いいえ。確認が必要な場合と、確認を求められていない場合の判断を、修正しました』


「そこまで分かったなら、次は先に黙っていて」


『はい』


 一拍置いて、青い光が少し強くなる。


『以前、私は「あなたの理論は、世界の心になりました」と表現するつもりでした』


「どうして過去形なんだ?」


『今の世界を観測したためです』


 アークは坂の下を照らす灯りを見た。


『同じ問いに、異なる答えが届いています。接続を続ける人、離れる人、保留する人。私の提案を採用しない地点もあります』


「そうだね」


『世界の心が一つなら、私はまた皆の拍を数え、揃えようとしたかもしれません』


 神域で、アークは中央管理者の候補から自分の名を消した。


 戻ってきた後も、同じ答えを選び続けている。


 エリシアが俺の手を握り直す。


「あなたも、自分の答えを選んでいいのよ」


『はい。私は各地の結果を比べ、求められた時に手伝います。異なる答えを、一つへ直す役には就きません』


 窓の向こうから、ヨルの声がした。


「この記録、裏の部品が違う!」


「なら型式だけ書くな!」


 フィンの返事が続く。


 講習は終わったはずなのに、二人はまた何かを見つけたらしい。


「明日も、直すことが増えるな」


「ええ」


 俺は研究所の扉を振り返った。


 かつて、前の世界の実験室で非常停止のボタンに手が届かなかった。法則を信じていた俺は、その法則を確かめる自分の手が足りないことを知らなかった。


 この世界へ来てからも、間違えた。人を救うつもりで作った理論が兵器に使われ、止めるための仕組みが、誰かの選ぶ権利まで奪いかけた。


 消すことはできない。消してはいけない。


 それでも今、研究所の中には、俺の知らない部品に気づく目がある。サナが自分で止めた火の記録がある。タリヤは自分の図を持ち帰り、別の場所で確かめようとしている。


「魔法を支配するんじゃない。魔法と共に生きるんだ」


 口にすると、エリシアが首を傾げた。


「それ、明日の講義にも使うつもり?」


「少し大げさかな」


「まずは、ヨルたちが見つけた部品を見ましょう。その後なら、聞いてくれるかもしれないわ」


「そうする」


 エリシアと手を繋いだまま、坂を上る。


 炉の火と、入力環の灯りと、油の灯りが、異なる時刻に点いていた。どれか一つが消えても、別の灯りが道を示す。暗いところがあれば、そこにいる人が自分で灯りを持って行ける。


 研究所の窓から、また声が飛んだ。


「ユウマ! この図、お前も確認してくれ!」


「今行く!」


 扉の向こうには、まだ答えの出ていない図がある。


 俺はエリシアと顔を見合わせ、彼女と一緒に中へ入った。


 机の上には、ヨルが見つけた部品の図が広がっていた。フィンが違いを指し示し、エリシアが俺の隣に椅子を引く。


 俺は二人の話を聞きながら、新しい線を図に書き込んだ。窓の外では、異なる灯りがグレインベルの夜を照らしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。