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心の声が聞こえる地味令嬢~溺愛してくる家族を安心させる為、今日も婚活に勤しみます~  作者: 丸ノ内きみこ


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目隠しをされた暗闇の中で、二ヶ月が過ぎようとしていた。トイレも食事も、寝る時も心が休まる時など一時もない。


カミラは、ウルスが放つ鋭い「残響」を言葉ではなく、単なる「音の波」として受け流す訓練に没頭していた。だが、視覚を奪われ、会話を禁じられ、外界との接触を断たれたことで、カミラの精神は逃げ場を失い、その矛先は自分自身へと向かい始める。


沈黙という名の静寂は、時としてどんな罵声よりも恐ろしい。

他人の声を遮断しようとすればするほど、脳内の静寂を埋めるように、別の「声」が地鳴りのように響き始めた。


それは、カミラ自身の内側から湧き上がる、どろどろとした醜い響きだった。


(……どうして私だけがこんな目に遭わなきゃいけないの? お父様もお母様も、結局は私を厄介払いしたかっただけじゃない。あんなに優しく笑っていたのに、全部嘘だったんだわ。私の力が怖いから、こんな塔に閉じ込めたんだ!)


カミラはハッとして、自分の胸を押さえた。

今、聞こえたのは誰の声? ウルス様? それとも階下で食事の用意をしているアナ?

いいえ、違う。触れてもいないのに脳裏にこびりついて離れないこのおぞましい声は、紛れもなくカミラ自身の「本音」だった。


(……カイルなんて、いなくなればいい。あの子さえいなければ、私はもっと愛されていた。お母様の「綿で包む」なんて言葉、結局は私に我慢を強いるための呪文じゃない。みんな、みんな私を道具だと思ってるんだ。大嫌い。壊れてしまえばいいのに!)


「……違う! 私は、そんなこと、思ってない……っ!」


カミラは闇の中で頭を抱え、石造りの床に爪を立てた。

今まで他人の「黒い本音」を暴いては、自分だけは清廉で、高潔で、すべてを俯瞰している特別な存在だと思い込んでいた。けれど、剥き出しの孤独に置かれた今、自分の心から溢れ出しているのは、かつて軽蔑したオティーリエ夫人たちと何ら変わらない、卑屈で、身勝手で、醜悪な毒だった。


カミラは、自分の内側にある「真実の残響」に初めて触れたのだ。


「あああああ!」


カミラは耐えきれず、目隠しを引き剥がそうとした。しかし、その手はまるで自分の影に縛り付けられたように動かない。

その時、ウルスの冷徹な声が、耳ではなく魂の深淵から響いてきた。


「気づいたか。お前が「汚泥」と呼び蔑んできたものは、他人の中だけにあるのではない。お前自身の底にも、同じ深さの闇があるのだ」


(……己の闇を知らぬ者が、他人の闇を包めるはずがない。カミラ、お前が聴いていた『他人の本音』の半分は、お前自身の悪意が反射した鏡像だ)


「……私の、鏡……?」


カミラは衝撃に打ち震え、床に伏した。

自分が「理解している」と思っていた他人の本音。それは、カミラが「こう思っているに違いない」という傲慢なフィルターを通して色づけされた、歪んだ虚像だったのだ。

他人の心を暴いているつもりで、実際には自分自身の欠乏や醜さを他人に投影し、それを「真実」だと信じ込んでいただけ。


(……お前の恩恵【真実の残響】は、世界を映す鏡だ。鏡が曇っていれば、映る世界もまた濁る。……さあ、その黒い感情を解体しなさい。怒りも、嫉妬も、絶望も、名前を捨てればただの『エネルギーの揺らぎ』だ)


カミラは激しく動悸を打ち、過呼吸になりながら、自分の内側に渦巻く黒い霧を見つめた。

今まではそれを「憎しみ」という言葉で定義し、恐れ、あるいは正当化してきた。

けれど、ウルスに言われた通り、その言葉を剥ぎ取ってみる。


(……これは、憎しみじゃない。ただの、熱い塊。……これは、嫉妬じゃない。ただの、震える冷たさ。……これは、孤独。ただの、空っぽな空洞)


「憎い」と名付ければ刃になるが、ただの「熱い塊」として見れば、それは自分を生かそうとする生命力の一部に過ぎない。

言葉を捨てた瞬間、黒い毒は意味を失い、ただの「重苦しい振動」へと変わった。

カミラは、自分の中にある闇を否定し、切り捨てようとするのをやめた。自分もまた、他人と同じように醜い心を持ち、揺れ動き、迷う一人の不完全な人間であることを認め、その「揺らぎ」を静かに受け入れていく。


「……あぁ、そうか。みんな、こんなに苦しかったのね」


自分の中に同じ毒を見つけたことで、初めてカミラは、他人の「黒い本音」が自分を攻撃する刃ではなく、助けを求める悲鳴であったことを、魂のレベルで理解した。


(……ふむ。傲慢の殻が割れ、ようやく己の根源に触れたか。自分を許せぬ者に、他人を許すことはできぬ。お前は今、本当の意味で『綿』の素材……すなわち、無条件の受容を手に入れたのだ)


カミラの心から、突き刺すような棘が消えていく。

漆黒だと思っていた自分の内側が、言葉という定義の重みから解放され、静かな無色の空間へと溶けていった。


外を吹き抜ける風の音と、自分の中の鼓動、そしてウルスの静かな呼吸が、一つの旋律のように重なり合う。


傲慢だった少女は、自分の闇を抱きしめることで、初めて他人の真実を「聴く」ための、透明な鏡を手に入れたのだった。

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