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心の声が聞こえる地味令嬢~溺愛してくる家族を安心させる為、今日も婚活に勤しみます~  作者: 丸ノ内きみこ


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01

五歳を迎えたカミラ・ヴェリテ・ド・ローゼンブルクは、期待に胸を膨らませ、鏡に映る自分を見つめていた。


リリカル王国において、五歳という年齢は特別だ。5歳になった子供たちは白亜の教会へと赴き、女神ミューズ・アリアの御前で「恩恵」を授かる。それは一人の人間として認められる、一生に一度の輝かしい儀式だった。


「神様は貴女にどんな素敵な「恩恵」を授けてくださるかしらね」


母イザベルは優しく微笑み、ミッドナイトブルーのドレスの襟元を整えてくれる。カミラは自分にも、きっと素敵な「恩恵」をいただけると浮足立っていた。


「神から一方的に与えられる宿命」としての「恩恵」は様々なものがある。


物の良し悪しやわずかな傷を見抜く【鑑定の眼】。書かれた文字を瞬時に理解し、知識の吸収を助ける【速読の刻印】。雨風や汚れを弾く、透明な膜を身に纏う【加護の衣】など、多種多様なものがあった。


ごく稀に無きに等しい、目の前の人が今「お腹がいっぱいかどうか」が直感でわかる【満腹の察知】のような恩恵を授かるものもいるが、リリカル王国では「恩恵」による差別は恥ずべき事として捉えられていた。


両親に連れられ教会へ向かう。どう見てもルンルンのカミラが期待した「恩恵」ではなかった時の為、父フリードリヒは、優しくカミラに言い聞かせるように言った。


「カミラ、「恩恵」に良いも悪いもないんだぞ。生きる上で有利になり得るものもあるのが、「恩恵」がなくたってこの国では十分生きていける。過度な期待はしないように。」


フリードリヒの言葉は、娘を想う親心ゆえの優しさだった。この国には、努力で習得できる「魔法」がある。特に貴族は魔力量が平民より多いため「恩恵」は最重要視はされていない。たとえ「恩恵」がささやかなものであっても、魔法を学べば不自由なく暮らしていけるのだ。


カミラは「はい、お父様!」と元気よく頷き、教会の高い扉をくぐった。


◇◇◇◇


教会の内部は、外の喧騒が嘘のように静まり返っている。教会の最奥にある円形の部屋は、外の喧騒を一切遮断した、静謐と冷気が支配する空間だった。


見上げれば、息を呑むほど高いドーム状の天井。そこには、王国の夜空を模した深い群青のタイルが敷き詰められ、無数の魔法石が瞬く星々のように淡い光を放っている。その中央、天窓から垂直に降り注ぐ真昼の陽光が、部屋の真ん中に立つ女神ミューズ・アリア像を、この世のものとは思えぬ神々しさで浮き上がらせていた。


女神像は、透き通るような白大理石で彫り上げられていた。女神は優しく目を閉じ、両手を胸の前でわずかに広げ、何かに耳を傾けるような慈愛に満ちた姿で立っている。その足元からは、絶えず清らかな水が湧き出し、床に彫られた精緻な溝を伝って部屋の四隅へと流れていく。水が石を打つ微かな音だけが、この部屋に許された唯一の響きだった。


そのあまりの美しさと静寂、荘厳な空間に先ほどまでの浮足立った心は吹き飛ぶ。


物凄く緊張してきた。なんなら少し泣きそうだ。不安になり手を引いてくれている両親の顔を見ると、優しく微笑み(大丈夫だよ)と口パクで言っているのがわかった。


儀式を執り行うのは、王国内でも信望の厚い高徳な司祭だ。彼は穏やかな笑みを浮かべ、カミラの前に恭しく膝を突いた。


「さあ、カミラ・ヴェリテ・ド・ローゼンブルク嬢。女神様の前へ。貴女の魂に相応しい、唯一無二の「恩恵」を授かるのです」


カミラは緊張しながらも、名残惜しく両親の手を離し、女神像の前まで進む。さんざん自宅で練習させられたお祈りの仕方を頭で何度も反芻し、膝を突き手を胸の前で組み頭を垂れる。


(女神様、私5歳になりました!どうか素敵な恩恵をください!)


目を閉じ一生懸命祈っていると、徐々に体が温かくポカポカしてきた。薄目で女神像を見ると、微かに発光している。直感的に「恩恵」を授けて下さったと、カミラは理解した。


(女神様、本当にありがとうございます!)


心からお礼をし、司祭の方まで慎重に戻る。


両親から受けていた説明では「恩恵」をいただいた後、司祭から祝福の言葉を受けて、儀式は終了のはずだ。司祭の温かな手が、カミラの頭にそっと置かれ祝福の言葉が発されるその瞬間――ガリッ、と不気味な音がした。


磨き上げられた鏡に石を投げつけたような、不快な衝撃がカミラの脳を突き刺す。

司祭の唇は動いていない。しかし、彼の喉の奥から、ヘドロのように濁った「声」が直接流れ込んでくる。


(……やれやれ、次から次へと貴族共のガキ相手は疲れる。ローゼンブルク伯爵家は金払いがいいからまだ良いが。これだけ丁寧に扱っておけば、寄付金も上乗せされるだろうよ)


「え……?」


カミラは目を見開いた。驚きに固まる彼女をよそに、司祭は祝福の言葉を述べる。


「天にまします女神ミューズ・アリアよ。今ここに、貴き御名を継ぐ新たな子が立ちました。どうかその魂の器を、貴女の慈悲で満たしたまえ。その歩みに光を、その瞳に真実を、その生涯に消えることなき加護を。


この子が授かる『恩恵』が、王国の繁栄を支える礎となり、この子の人生を導く揺るぎなきしるべとなりますよう。女神の御名において、ここに祝福を授けます――」


司祭は、何一つ変わらぬ慈愛に満ちた表情でカミラを見つめている。


司祭の声は、聖歌のように美しく響いた。

だがカミラの耳には、同時に彼のさきほどの「声」が脳内にまだ突き刺さっている。


カミラは震える足で、一歩、また一歩と後ずさった。背後からフリードリヒがカミラの横に並び立ち、伯爵にふさわしい非の打ち所のない所作で深く一礼をする。


「偉大なる女神ミューズ・アリアよ。我が娘カミラに『恩恵』を授けてくださったこと、心より感謝申し上げます。ローゼンブルクの名に恥じぬよう、この力を正しき道のために振るうことを誓いましょう」


カミラは先ほどの司祭の「声」が衝撃すぎて、父フリードリヒの言葉が全く頭に入ってこなかった。呆然と立ち尽くしていると、待機していた司祭の従者が歩み寄り


「儀式はこれにて終了となります。別室にてお茶を用意しておりますので、こちらへどうぞ」と微笑みながら促してくれる。


イザベルは嬉しそうに駆け寄り、カミラの手を取った。呆然としていたカミラだが母の温もりを感じた瞬間、今度は物凄い量の「声」が直接流れ込んでくる。


(カミラは少し鈍臭いところがあるから、コケたりしないか凄く心配だったけど…無事に終わって良かったわ!こんなに緊張してるカミラは初めてね。カチコチになっちゃって、可愛いったらありゃしない!…あれ?この感じ、何かデジャブを感じる…?そうだわ!!カミラ、私にプロポーズした時の旦那様のカチコチ具合にそっくりじゃない!?やっぱり親子だわね!!ふふふ、あ~旦那様もあの時は可愛かったなぁ~。そんなことより、いっぱい褒めてあげなきゃ!カミラの成長が早すぎる…感動して泣けちゃう。ダメよイザベラ!ここで泣いては!伯爵夫人として、私は皆の模範になる淑女なの!貴族として教会連中に舐められないように振舞わなければ!でも、……少し涙目になるくらい良いわよね?伯爵夫人である前に私はカミラの母親なのだし。そうよ!子供の成長に感動する母親の気持ちもわからない連中なんて滅びればいいのよ!貴族だって泣くときは泣くんですからね!それにしてもカミラ、どんな「恩恵」をもらったのかしら…どんな恩恵だろうが私の可愛いカミラには変わりないけど、騎士に向いている「恩恵」だったら嫌だわ。カミラが将来、騎士になりたいなんて言い出したら私心配で死んじゃう。母として騎士になるのだけは断固阻止しなくちゃ!私の可愛いカミラには温かくて安全なところで過ごしてもらわなくちゃ、やってられないわ。カッコいい騎士が出てくる絵本は今後禁止にしようかしら…)


「カミラ、よく頑張りましたね。女神様にしっかり感謝するんですよ。ささ、別室でゆっくりお茶でもしましょう?」


いつも淑女の見本のような振る舞いをしている母イザベラのイメージとはかけ離れた「声」に、カミラは更に目を見開き驚きを隠せない。驚愕で何も言えず、母に手を引かれるまま別室へ向かう。


間違えて編集途中で上げてしまったので、5/9に少し編集しました。

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