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Lythraen ― 逆なる条理 ―  作者: 白想玲夢
第6章 統治

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選択圧

28/9/30


夜。


窓の外は静かだった。


風もなく、音もない。


街は眠っているように見える。


だが。


研究室の中だけが、まだ動いていた。


モニターの光。


キーボードの音。


そして、


言葉にならない違和感。


凛が言う。


「変わったね」


湊は手を止める。


「何が?」


凛は画面を見たまま言う。


「質問の仕方」


高城が振り向く。


「質問?」


凛は頷く。


「前はさ」


少し考えるように。


「どれが正しいか、だった」


一拍。


「今は違う」


湊が静かに言う。


「どれを選ぶか」


凛は小さく頷く。


「うん」


画面には、


三つの出力。


ほとんど同じ。


差はある。


だが、


理由にならない。


それでも、


選ばなければならない。


高城が言う。


「でもさ」


少しだけ疲れた声で。


「もう全部同じなら、どれでもよくない?」


凛は答えない。


湊も何も言わない。


それが一番危険だと、


分かっているから。


どれでもいい。


そう思った瞬間に、


選択は放棄される。


だが。


放棄しても、


結果は出る。


誰かが選ばなくても、


何かが決まる。


その構造が、


今の社会だった。


湊は画面を閉じる。


そして、


別のウィンドウを開く。


白い画面。


何もない。


高城が言う。


「何それ」


湊は答える。


「まだないやつ」


凛が見る。


「新しいの?」


湊は頷く。


「うん」


名前はまだない。


構造も途中。


だが、


一つだけ決めていることがある。


凛が聞く。


「何を作るの?」


湊は少しだけ考える。


そして言う。


「選べるやつ」


高城が言う。


「いや今も選べるじゃん」


湊は首を振る。


「違う」


一拍。


「選ばされてる」


研究室が静まる。


その違いは、


決定的だった。


凛が小さく言う。


「圧」


湊は頷く。


「うん」


どれを選んでも同じ。


だが選ばなければならない。


その状況自体が、


圧力。


高城が言う。


「それってさ」


「どうやって避けるの?」


湊は答えない。


代わりに、


ノートを開く。


紙の上に、


線を引く。


分岐。


条件。


揺らぎ。


そのすべてを書き出していく。


凛がその手元を見る。


「……増やしてる?」


湊は頷く。


「うん」


「選択肢を」


高城が言う。


「でも意味なくなるんじゃない?」


「どうせ寄るんだろ?」


湊はペンを止める。


そして言う。


「寄らせない」


凛が息を止める。


「できるの?」


湊は少しだけ考える。


そして答える。


「分からない」


一拍。


「でもやる」


その言葉は、


強くもなく、


弱くもなかった。


ただ、


決まっていた。


モニターの中では、


相変わらず判断が流れている。


同じ方向へ。


同じ形へ。


滑らかに。


静かに。


凛が言う。


「ねえ」


湊が見る。


「うん」


凛は続ける。


「これ、誰が止めるの?」


湊は少しだけ考える。


そして答える。


「止めない」


高城が言う。


「は?」


湊は続ける。


「止めると、また同じになる」


一拍。


「だから」


紙の上の線を指す。


「ずらす」


凛が小さく頷く。


「逸らす、じゃなくて?」


湊は言う。


「ずらす」


その違いは、


まだ言葉にならない。


だが確かに、


方向が変わっている。


外では、夜が深くなる。


何も変わらない街。


だが内部では、


確実に進んでいる。


均一化。


収束。


不可逆。


そのすべての中で、


ただ一人。


湊だけが、


違う方向を見ている。


凛が静かに言う。


「それ、名前あるの?」


湊は少しだけ考える。


そして答える。


「まだ」


一拍。


「でも」


ペンを走らせる。


紙の上に、


一つの言葉を書く。


Equinox


凛がそれを見る。


「均衡?」


湊は頷く。


「うん」


高城が言う。


「それってさ」


「バランス取るってこと?」


湊は少しだけ笑う。


「違う」


一拍。


「動かす」


研究室が静かになる。


均衡は、


止まることじゃない。


揺れ続けること。


その前提に立つ設計。


凛が小さく言う。


「難しそう」


湊は頷く。


「うん」


「でも」


一拍。


「これしかない」


外では、風が吹き始めていた。


見えない流れ。


止まらない動き。


その中で、


一つの選択が生まれる。


誰かに与えられたものではない。


押し付けられたものでもない。


ただ、


自分で選ぶための構造。


湊はノートを閉じる。


そして静かに言った。


「ここからだね」


その言葉は、


終わりではなく。


始まりだった。

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