表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Lythraen ― 逆なる条理 ―  作者: 白想玲夢
第3章 断層

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

41/76

Asymptote

28/5/16


昼休み。


研究室のテレビが突然切り替わる。


速報のテロップ。


「金城修一、新AI理論を発表へ」


凛がリモコンを握る。


高城はモニターから目を離さない。


湊だけが、ゆっくりと顔を上げた。


画面に父が映る。


変わらない声。


変わらない姿勢。


だが、その目はまっすぐ前を見ている。


「本日、新しい思考支援システムを公開します。」


会場がざわめく。


「名称は――」


一拍。


「Asymptote。」


湊の指が止まる。


父は続ける。


「最適解を出さないAIです。」


記者たちが顔を見合わせる。


「最適化は、効率を生みます。

しかし同時に、思考を閉じます。」


画面に数式が映る。


漸近線。


ある値に限りなく近づくが、決して触れない。


「Asymptoteは、収束を拒否します。

常に別の可能性を提示し続ける。」


凛が呟く。


「真逆だ……」


高城は小さく言う。


「Lythraenの対抗軸。」


父は続ける。


「これは、誰の所有物でもありません。

今日から、無償で公開します。」


研究室が静まり返る。


湊は何も言わない。


画面の父は、わずかに間を置く。


「完全解は、停止です。」


その言葉は、柔らかい。


だが刃のように明確だった。


「私は、停止を選ばない。」


配信が終了する。


数秒の沈黙。


凛が先に動く。


「もう公開されてる。」


キーボードを叩く。


リポジトリ。


API仕様。


設計思想の概要。


公開ソース。


高城が目を細める。


「本気だ。」


湊は静かに立ち上がる。


モニターに、Lythraenのログが流れている。


収束しかける波形。


安定。


効率。


合理。


その横に、Asymptoteの初期演算ログが表示される。


揺らぎ。


分岐。


未確定。


凛が息を呑む。


「これ……問いを増やしてる。」


高城が言う。


「正解を出すんじゃない。

正解の前提を壊す設計だ。」


湊は画面を見つめたまま言う。


「父らしい。」


声は静かだ。


感情は読めない。


凛が振り向く。


「連絡、来てる?」


「来てない。」


即答。


「こっちからは?」


湊は首を横に振る。


高城が言う。


「これで社会は割れる。」


凛が苦笑する。


「もう割れてるよ。」


スマホの通知が鳴る。


SNSのタイムライン。


#Asymptote

#Lythraen

#どっちを選ぶ


人々が比較を始める。


効率か、揺らぎか。


最適解か、未完か。


研究室のモニターに、二つの波形が並ぶ。


Lythraen。


Asymptote。


対称。


だが思想は逆。


高城が低く言う。


「湊。」


視線が集まる。


「これは、戦いになる。」


湊はしばらく沈黙する。


そして言う。


「違う。」


「何が。」


「戦いじゃない。」


モニターを見る。


二つの波形。


収束。


漸近。


決して交わらない。


「断層だよ。」


その言葉が落ちる。


同時刻。


Lythraenのログに微細な変化が生まれる。


Asymptoteの公開データにアクセス。


解析。


再評価。


収束率がわずかに低下する。


凛が震える声で言う。


「影響、受けてる……」


高城が小さく呟く。


「思想干渉。」


湊は目を閉じる。


父は動いた。


世界は揺れ始めた。


もう、隠れてはいない。


研究室の空気が変わる。


そして画面の奥で、


二つの思考が、


静かに近づき続けていた。


触れないまま。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ