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8☆覚悟を決めろ

SF週間ランキング入ってました!

ブクマと評価、本当に感謝です……!

 鎧道の位置を突き止めた箒は、その方向へ向かって一直線に走り出した。


 アイテムにすら目をくれず、建物の屋根上を駆け抜け川を飛び越え、道無き道を最短ルートで踏破していく。

 要所要所で鎧道の銃弾が襲い掛かるも、パルクールに混ぜ込んだナイフ術で一切の無駄なく斬り捨て進み、少しずつ距離を詰め続けた。


 しかし逃げる鎧道の身体能力も相当なようで、思うように接近しきれない。


「あいつ……この速度で走りながらここまで正確にエイムしてくんのか。……尋常じゃなく上手ぇな」


 逃走における跳躍のタイミングで、一瞬振り向きスコープを覗き込む、という鎧道の姿を想像する。

 自分の身体が安定しない状態――それも空中で、狙いを付けることが如何に難しいかなど、考えるまでもなかった。


 二人の戦闘の様相は、立体機動力を競う熾烈な鬼ごっこに変わりつつある。


 一度目にスコープ越しで箒を見た段階から、鎧道は箒の選択キャラが『コネクト』であることに気付いていた。

 そして『コネクト』が遠距離の攻撃手段を持たぬことを知る鎧道は、すぐさま距離を取りながら戦うことを選んだ。


「いや完璧に正解、なんだけどさ……勝ちに貪欲過ぎんだろ」


 鎧道の臆病なほど合理的過ぎる勝利への執着に、箒は頬に冷や汗が垂れるのを感じた。


「とはいえ、武器重量の違いは露骨に出てんな」


 LoSの仕様として、持ち運ぶ武器によって移動速度は若干変化する。


 武器の重さは基本的に、スナイパーライフル>アサルトライフル>ショットガン>サブマシンガン>ハンドガン>刃物、という順になっており、キャラに及ぼす速度低下もこの並び。


 鎧道は現在スナイパーライフルを所持しており、おそらくは何かしらの武器をもう一つをストレージに仕舞っているため、ナイフとハンドガンという組み合わせで武器を持つ箒は速度の面では幾らか有利だった。


 箒はまだ遠くに見える鎧道の姿を正面に捉えながら、『コネクト』のスキルを発動させる。


「《星見の言伝》。……反応がねぇ、ギリ75m超えてんのか」


 箒は確実に鎧道のもとへと近付いていたが、刃を届かせるにはまだ遠すぎた。


「……?」


 しかし鎧道が唐突に立ち止まる。


 場所はフィールド中央の、極端に木々などの障害物が少なく射線が通り易い地点。

 鎧道は巨大な岩の置かれたすぐ脇の、一瞬で身を隠せる位置を陣取り銃を構えていた。


 箒もまた近くの木を使い、射線を切った位置から鎧道に声を掛ける。

 

「どうした鎧道。諦めたか?」


「は?舐めてるのか?俺が負けるとか有り得ねえ」


 鎧道は心の底からそう思っているらしく、一切の動揺のない堂々たる出で立ちだった。


「――だがそれはそれとして、一つ聞かせろ。何者だお前?弾丸を斬り落とすプレイヤーなど大会でも見たことないぞ」


「んー……?」


 何者か、と問われて箒は答えに困る。


 箒はつい先程教室で、怒りに任せてつい「LoSを作った」だとかと宣言してしまった為、てっきり正体がバレたと思い込んでいた。


 しかし蓋を開けてみれば、箒のその言葉が聞こえなかったのか或いは戯事として聞き流されたのか、鎧道には「LoS運営者」だと気付かれていなかったらしい。


 これは都合が良いと判断した箒は、そのままシラを切ることに決める。


「別に、ただのクラスメイトだよ。何となく弾丸斬れちゃうだけの一般人だ」


「てめぇ巫山戯てんのか?」


「ふざけてねぇよ、超真面目」


 箒は嘲るように肩を持ち上げる。


 それを見た鎧道は、これ以上聞いても無駄だと判断したのか、軽く息を吐くと無言で武器を構え直した。


 箒に向けられた武器、それはLoS最高のDPS(秒間ダメージ)を誇るサブマシンガン―― 『C-88(ダブルエイト)』。


 途端に鎧道の眼光が鋭くなり、箒は圧力が増すのを感じた。


「再開?」


「ああ、ぶっ殺してやるよ」


 鎧道は挨拶代わりだと、箒に向けて『C-88(ダブルエイト)』のワンマガジンをばら撒いた。

 箒は咄嗟に側の木の裏に身体を隠し、その弾丸の嵐を耐え忍ぶ。


「てめぇでもサブマシンガンの弾は斬れないか?」


「さぁな」


 箒は銃声に耳を傾けながら、雑に返事を返す。


 幾らか銃声が続くとマガジンの弾が底をつき、音が止んだ。

 そのタイミングを見計らっていた箒は、木の裏から飛び出し距離を詰めようとする。


 しかしそれを読んでいた鎧道は、リロードを挟みつつ、既に一つ後ろの障害物まで後退を始めていたため、距離が縮まらない。


「……チッ」


 下がる鎧道の姿を見て、『C-88(ダブルエイト)』のリロード完了までに接近しきれないと判断した箒は、即座に左へ方向転換し森へと突っ込むことを決める。


 このまま障害物の無い道を真っ直ぐに近付けば、リロードを終えた『C-88(ダブルエイト)』によって、蜂の巣にされてしまうのは目に見えていた。

 障害物のない平坦な土地での撃ち合いは、ハンドガンでは分が悪い。


「逃がすか」


 だが森までの距離はそう近くはない。

 箒が森に入る前に、リロードを間に合わせた鎧道は、再び箒に向けて射撃を始めた。


「……ッ」


 箒は右側面から向けられた銃口を《空からの警告》で感じ取ると、側宙と宙返りで躱しつつ、それでも避けきれない弾丸のみを『ジャック・リープ』で弾き飛ばした。


 箒はどうにか森まで逃げ切るが、立地と武器の不利は相変わらず歴然だった。


「森に逃げたところで意味ねぇだろうが」

 

「いや、そうでもねぇよ?」


 しかし森の木の裏に隠れる箒は、不敵に笑う。


 一体何をするつもりかと、鎧道が箒の様子を窺っていると――


「喰らえ」


――箒の隠れる大木が、鎧道に向かって倒れ出した。


 その木の幹には滑らかな断面があり、まるで刃物の一閃で切り倒されたかのよう。


「まさか、てめぇ……っ」


「LoSの刃物はオブジェクト破壊性能が高い……ってのは流石に知ってるか?」


 箒の声に被せて、大木と地面の衝突による轟音が響き渡った。

 その威力は絶大で、もし潰されでもしたら200の体力でも一瞬で吹き飛ぶことが想像できた。


 だが木の倒れ込む速度など高々知れている。

 鎧道が、ゆっくりと倒れ込む大木になど潰される筈もなく、危なげなく回避した。


「何のつもりだ……っ!こんなもん食らうわけ」


「いや本命はこっちだから」


 突然に、空から箒の声がした。

 鎧道は慌てて顔を上げる。


「―――ッ」


 そこにはナイフを振り被って構える、箒の姿があった。


 箒は倒れ込む最中の木の上を走ることで、幹に己の姿を隠しながら一気に距離を縮めていたのだ。


 距離10m。


 ここまで近付けば、『C-88(ダブルエイト)』でも体力を削り切るには間に合わない。

 箒は鎧道との距離を確認して、勝ちを確信した。


「行くぞ。イクシード――」


 『コネクト』の超越スキルの発動を宣言する。

 それは使い方を選べば一撃必殺のイクシード。


「さ…せるかッ!」


 しかし鎧道は、箒の動きにギリギリ反応していた。

 鎧道が構えたのはグレネードだ。


 爆発寸前のそれを、空中にいる箒の目の前に放り投げた。

 

「な――」

 

 突如鼻先に現れたグレネードに、箒の顔が驚きに染まる。


 直後。

 爆音と共に、爆風が二人を覆った。


 グレネード一つで体力を全て削り切るのは難しいが、超至近距離であれば話は別。

 それも顔の前で爆発したのであれば、即死は間逃れない。


「…………ってぇ」


 だが箒は、森の中まで吹き飛ばされつつもどうにか生きていた。


 鎧道の顔が固まる。


「箒、てめぇ……。今の一瞬でグレネードをはじき飛ばしたのか?」


 その鎧道の推測は正しかった。


 目の前に投げられたグレネードに気付いた箒は、即座にイクシードをキャンセルし、代わりに左手に持つハンドガン『スフィアシップ』をグレネードに叩きつけた。


 結果爆心は箒の右に逸れ、どうにか即死を回避することに成功した。


「そうだよ悪ぃか……。つかお前も今自爆する気だったろ。……《要塞》か?」


「……そうだ。20%のダメージ減少があれば、俺だけは生き残れると思った」


 負傷覚悟の勝ちへの渇望。

 それは箒の予想とは異なる戦い方だった。


「ははっ、マジか…。痛覚有りにビビってるとかいう俺の予想も的外れじゃねぇか」


 流石、日本トーナメントに辿りつく奴は勝つ為の覚悟が違う、と箒は心の底から称賛の想いを抱いた。


 もしも箒がグレネードの回避に失敗していた場合、箒は即死であるため大した痛みを感じることなく消滅しただろうが、鎧道は違う。


 戦闘終了後、完全にフィールドから帰還するまでの間は、骨が砕け肌が焼け爛れるという、地獄のような苦痛を味わうことになっていた筈だ。


 元々、LoSは痛覚ありでプレイする想定で作っていないのだから、当然その為の配慮など行うわけもない。


「……少し、舐め過ぎてたな」


「てめぇも、ただの雑魚じゃねぇな」


 互いが互いの、見る目を変える。


 同時に箒は鎧道の意思の強さを見て、一つの疑問が生まれていた。

 ここまで勝利の為に我武者羅になれる奴が、果たして本当にイジメなどするのかと。


「お前、なんでイジメなんてしてたんだ?」


「イジメ?何の話だ」


「……いや、なんでもねぇや」


 鎧道は急に出て来たイジメという単語に全くピンと来ないらしく、不審そうな表情を浮かべる。

 それを見た箒の中で、恐らく何かの勘違いだったのだろうなと結論が出た。


「あと、殴って悪かった」


「なんだ気持ちわりぃ。んなの今どうでも良いんだよ」


 そんなことより、と鎧道。


「――こっからは本気で行くから覚悟しろや、箒」


「あ?掛かってこいよ。完封食らわせてやるわ」


 鎧道はニヤリと笑うと、サブマシンガンをストレージにしまい、両手を構えた。


「イクシード―――《固定砲台》」

 

 鎧道の前に、黒い光沢を持つ重機関銃が現れる。


 それは持ち運びこそ出来ないものの、LoS内全武器でダントツのDPSを誇る最強兵器だった。


『Qロッド・セシリア』

 ボルトアクション式のスナイパー武器。桜の木をモチーフにデザインされ、和風な雰囲気を持つ。


・単発ダメージ 90 HS2倍

・マガジン弾薬数 4→6(拡張マガジン)

・初速 920m/s

・弾丸重量 45g


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