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七話

 アンドゥが使う擬体が乗る潜水艇は、海中を航行していた。

 その潜水艇は流線形を上下に伸ばしたような形に、全長は大人二人分程しかないものだった。

 ロボット一体での運用前提建造された高速航行潜水艇だ。


 そんな潜水艇が海中を進んでいる頃、アンドゥはというと机に向かって手を動かしていた。


「いいですかオプトレアさん。今書いているのは、タスピモウスとコーリカム国両国で使われている文字です。生まれ故郷で少しだけ習ったという文字とは、筆跡では説明がつかない箇所があります。ですので、それはそれこれはこれと、区別をつけて覚えてください」


 フィアの指導がアンドゥに飛ぶ。

 潜水艇は自動操縦で海中を進んでいるのだ。ゆえに潜水艇の移動時間分は、他の事に充てられていた。


「……はーい」

「よろしい。ではあと十分で終わりにしましょうか。それから準備をすれば、丁度潜水艇が目標地点に到着する頃です」



 定刻通りに潜水艇は目標地点、タスピモウス第二の島の南海岸沿岸に到着した。

 その頃、アンドゥはぴったり張り付くスーツを着て、あとは頭部の機器を被るだけの状態で、広いドーム状の部屋の中心に立っていた。


「オプトレアさん。潜水艇が目標地点に到着しました」


 アンドゥは頷くと、頭部の機器を被った。


「では今から接続シークエンスを開始します」


 被りもの中は真っ暗だった。今度はモニターではなく耳元からフィアの声が聞こえて来た。


「擬体連動率上昇中。初期姿勢へ強制修正します」


 そうフィアが言うと同時に、アンドゥの体が、潜水艇に乗る擬体の姿勢、腹這い姿勢へと変化していった。


「連動率九十九.七四五パーセント。センサ調整、しばらくお待ちください。……完了。連動率九十九.九六一パーセントまで上昇。規定値到達により次段階へ移行します。同調開始。完了まであと七秒。――それではオプトレアさん、いってらっしゃいませ」



 アンドゥは潜水艇の中にいた。いや、もちろん正確にはアンドゥが操作している擬体だが。


「接続シークエンスは終了しました。オプトレアさん、調子はどうですか?」

「問題ありません」

「分かりました。では今から潜水艇コックピットへの注水を開始しますが、よろしいですか?」

「はい」


 アンドゥが返事をすると、コックピットに海水が浸入し始めた。

 コックピット内が海水に満たされると、再び耳元にフィアの声が聞こえて来た。


「注水完了。ハッチを開きます。オプトレアさん出発後、潜水艇は遠海移動後、発電装置を起動し待機します。直接的サポートはもうできませんので、くれぐれも気をつけて行動してください」


 その声に胸をとんとんと二回叩いて答えるのであった。




「ふー。上陸完了」


 潜水艇を出て、少し海底を歩き島に上陸した。


「ふんふん。今回はこんな容姿か」


 今回の擬体の容姿は、背こそ変わらないが、前回の茶髪平凡顔から黒髪浅黒肌に外装が換装されていた。それに声も微妙に変わっていた。


「海賊アンドゥは、前の。じゃあ今回は、日焼け少年アンドゥだ」


 いや、名前変えろよ。


「えーと、確か。音声入力、生体反応機能起動」


――よし、ちゃんと起動できた。視界の右上に半透明な四角い空間が出て。それで真ん中の青い点が俺で、赤い点が生き物だったな。


「うーん、綺麗に俺以外映ってないな。――音声入力、生体反応機能設定、広域へ一」


――おっ、端の方に赤い点が映った。でも一、二、……まあ両手くらいか。もう少し広くしようか。


「音声入力、生体反応機能設定、広域へ二」


――あかっ! やりすぎた。


 設定を一つ狭く設定すると、それが気に入ったらしく、人がいない南海岸を日焼け少年アンドゥは歩き始めた。



 日焼け少年アンドゥは、人里が近くなったので生体反応機能、所謂ミニマップの表示範囲を狭めた。


「ここまで来れば変な言い訳する必要はないだろう」


 海岸沿いにある小さな町に到着し、ひとまず潜入成功と息を吐いた。


――確認確認。目的は海軍の偵察。第二の島だから規模は小さいだろうけど、軍の基地位あるだろう。あとはこの国の各地の地名とか仕入れたら目標達成かな。


 偵察任務の達成目標を確認すると、街外れから人がいる方へ歩き始めた。


 小さな町はのんびりとした港町といった具合で、砂浜では数人の男たちが漁に使う網の繕いものをしていたり、遠くの方に漁をしている漁師たちが見えた。

 通りには木造建築物が立ち並び、少し遅い朝食を屋台で摂る者たちがいた。


――久々の人里だ。ただ、初めて足を踏み入れる国。変な習慣がありませんように。


 挙動不審気なアンドゥが通りを歩く。


――皆がこっちを見ている気がする。


 日焼け少年を注視する者などいない。ただのアンドゥの被害妄想だった。



「おじちゃん、これちょうだい」


 市場広場に足を踏み入れたアンドゥは、とりあえず手に何か持っとこうと、店先吊るされていた袋を指差した。


「おう、それは三シーズ四メイオンだ」


 アンドゥは鹵獲した船にあったこの国のお金を持って来ていた。

 四シーズ払い、八メイオンのお釣りを貰い、手提げ袋を手に入れたのであった。


――フィアさんがこの国の硬貨の価値が分かってよかった。


 この国の硬貨には額面がなかった。だが、フィアが硬貨が本位貨幣だと気づき、船にあった帳簿と付き合わせて硬貨の価値を算出したのだ。それによると、このタスピモウスは十進数と十二進数が入り混じった貨幣単位を使っている事が分かったのだ。


「おじちゃん、この町に来たの初めてなんだけど、何か名物ってある?」

「名物か~。それなら鹿肉のビール煮だな。このノーエで作られたビールが肉に合うんだこれが。ただ、外から来たってんなら表通りにある店がお薦めだ。癖が少ないし間違いねぇ」

「ふむふむ。ありがとうおじちゃん」


 店主に礼を言って店を離れた。


――この町はノーエと言うのか。


 買い物ついでにこの町の名前を知る事ができたアンドゥは、こんな調子で情報を集めて回った。



 最初の店で買った袋に他の店で買った物を詰め、アンドゥは家の壁に背に座っていた。


「この島はロワン島、本島はデランフレン島。ビール。この町(ノーエ)から北西に本島との連絡船が出る町ラフバンがある。ビール。ラフバンにこの島で一番大きな海軍基地がある。ビール。……うん、半分ビールの話しだったな」


 この町のビール推しに少し気圧されるのであった。


――ビール、もといノーエでの収穫はこんなもんだろう。明日は移動しよう。この体、夜間でも見える機能が付いてるらしいけど、夜になると俺が眠くなるから意味あまりないんだよなあ。


 アンドゥはノーエでの情報収集を切り上げ、海岸沿いを南へ、上陸地点へと帰り始めた。


 上陸地点まで帰って来ると、周囲を確認すると潜水艇を呼んだ。そしてその足で海へ歩き始めた。


――擬体って凄いけど、泳ぐ事はできないんだよなあ。はあ、腹減った。


 せっかく買ったものも何もかも海水に濡らしながら海底を歩くのであった。



 潜水艇コックピット内の排水が終わった。


「音声入力、通信、通信先フィア・オーシーク」


 アンドゥがそう言うと、耳元からフィアの返事が聞こえて来た。


「フィアさん、今日の活動は終わりました」

「承知しました。では、切断シークエンスを始めます」


 偵察初日はこうして終わった。



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