八話
任務二日目は、ラフバンからずっと東の浜辺に上陸した。
「ふう。この辺が限界か。これ以上西に行くと、上陸した瞬間を誰かに見つかるかもしれないし」
――ノーエからラフバンまで歩いて四日らしいが、やっぱりあの潜水艇、滅茶苦茶速いな。でもまだラフバンの港まで、地図上で半日程度掛かるらしい。だから本番は明日から。
「それにしても半日歩き詰めか。人が全くいない海岸は意外と少ないんだなあ」
ここも切り立ってるしといった顔で崖を眺めるのであった。
西へ進み始めると早くも人里に着いた。この先増えたり減ったりするが、無人な場所はなく、そのままラフバンまで一直線だ。
アンドゥは農耕風景を眺めながら道を進んで行く。
――あー皆暑そうに畑仕事してるなあ。俺は擬体の設定ちょっと弄って貰って、俺自身は空気調和というのが利いた部屋にいるから、暑くもなんともないんだよなあ。
優越感に浸るのであった。……ただし。アンドゥも動物だ、避けられない欲求はすぐそこまで迫っていた。
身軽な格好で道を西へ延々と進んでいると、生理的欲求の一つが目を覚ました。
――オシッコ行きたい。
アンドゥは草陰を求めて、道を外れ、野ションのためズボンに手を掛けようとした瞬間思い出した。
「あっ」
トイレに行きたいのは自分自身だと。恐ろしきは、本物の体と擬体との感覚の違いのなさ。ズボンに手を伸ばし時にその浅黒い肌を見て漸く思い出した程だ。
――やばい。益々オシッコ行きたくなって来た。
擬体との接続を切るためには、こんな道沿いじゃ駄目だとばかりにより深い茂みを探しに歩き回るが、尿意の波が迫っていた。
――初めてじゃないとは言え、フィアさんにオシッコって言うの恥ずかしい。でも、漏らしたくはない。
茂みを探しまわりながらも、はたち手前程の見た目のフィアに、その事を告げるのは恥ずかしがるアンドゥであった。
ちなみに、前は漏らしても通気性と速乾性を備えるスーツと、床も自動で掃除されるため問題はない。問題は後ろだ。後ろこそスーツの大敵なのだ。一応腸内洗浄すれば連続活動時間はそこそこ延びる。延びるが、アンドゥが後ろの門を捧げたわけではない。今回は前だったが後ろが危機に陥るのもそう遠い未来ではないだろう。
何だかばつ悪気なアンドゥは道を歩いていた。
漏らす漏らさない問題は、深い茂みを見つけ接続を切り事なきを得たが、代わりに精神的に疲弊していた。
――あの声、精神をガリガリ削るんだよなあ。
場所はラフバンのほぼ中心にある鐘桜を視界に収め、既に行政区分上はラフバンに入っていると思われる場所まで到達していた。
――町に着けば、宿を取って部屋で接続を解除。明日の朝から本番。宿は素泊まりの方が不審に思われないだろう。島一番の港町に一番の海軍基地という話だから、人に聞いて回らなくても多分分かるだろう。
これからの手順を確認し、頭に浮き出た事をメモりながら大筋の行動指針を定めて行くあった。
ラフバンの街中に到着したアンドゥは、港と傍の海軍基地らしき建物群を少し眺めると宿を取る。
「この廊下の突き当たりの部屋だ」
受付のおっさんから言われた通りに突き当たりの部屋に入り、扉を閉めた。
「ふー。ここまでは順調だな。途中詰め所を見掛けたけど、あれは陸軍のだよな。陸軍は対象じゃないけど、あんまり変な動きしてたら声を掛けられるかも。気をつけなくちゃ」
アンドゥは扉にかんぬきをかけると、明日に向けて早々に床に着くのであった。




