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100Gのドラゴン  作者: カエル
第五章
49/61

ドラゴンラーキング エピローグ

 ギレ国の山奥に、とある施設が建っている。この施設は表向き、山の地質を調査するものとされているが、その割には規模が大きく、警備も厳重なことから、何か別の目的に使用されているのではないのかと噂されていた。

「誰か来る?」

 施設の前に立っていた警備員はヒトが近づいて来るのに気が付く。今までも、この施設が本当に地質調査のための建物なのか暴こうとする記者は何人も来ていた。その度に追い返していたため、警備員は今回もどこかの記者が来たのかと思っていた。

 しかし、すぐにその考えは間違っていることに気付く。なぜなら、向こうからやって来るのが、少女だったからだ。どう見ても、記者には見えない。

「ふん♪ふん♪」

 少女はご機嫌で近づいて来る。

「止まって!」

 警備員は少女を止める。

「こんにちは♫」

 少女は警備員を見ると、屈託のない顔で微笑む。少しの間、警備員はその笑顔に見入っていたが、気を取り直し、少女に警告する。

「ここから先は入れません!戻って下さい!」

 警備員は大声で少女にこれ以上近づかないように警告する。しかし、少女は警備員の忠告を聞くことなく、どんどん近づいて来る。

「止まれ!」

 警備員は小型の銃を取り出し、少女に向けた。獣を狩るためではない。ヒトを撃つために作られた銃だ。警告を聞かない相手でも銃を見せれば、大帝は諦めて帰っていく。しかし、少女は銃を向けられても平気な顔で近づいて来る。

 警備員は迷う。彼には、ここに近づいて来る相手が警告を聞き入れなかった場合、発砲が許可されている。

 しかし、こんな少女を撃ってもいいのか?警備員が迷っている間にも少女は近づいて来る。

(仕方がない)。

 警備員は少女の足を狙い、引き金を引こうとした。その時、凄まじい頭痛が警備員を襲った。

「ぐああああああ」

 あまりの激痛に警備員は頭を押さえ、座り混む。いつの間にか、警備員の目の前には少女が立っていた。少女は座り混む警備員の肩に手を置くと、首筋にガブリと噛みついた。

「が……がっ……」

 警備員の体から、血の気が失われていく。やがて、真っ青になり完全に動かなくなった警備員を少女はゴミのように捨てる。


「マズイ♩」

 少女は呟く。やはり、ヒトの血はおいしくない。

「でも、仕方ないか♩」

 少女は自分の両腕を見る。そこには、消えかけの傷がついていた。

 同類に付けられた傷は深く、なかなか治らなかった。傷はだいぶ回復したが、まだ腕にはダメージが残っている。

「もっと、もっと食べなくちゃ♩」

 ヒトの血は不味いが、栄養価は高い。早く治すためにはヒトの血をたくさん吸う必要がある。

 そんなことを考えていると、施設の中から大勢の警備員が出てきた。

「動くな!」

 警備員は少女を取り囲むと一斉に銃を向ける。少女は警備員をぐるりと見渡す。


 ニヤリ。


 少女は楽しそうに笑った。


「ふん♪ふん♪」

 少女は長い廊下を歩く。その姿は、街中にいるような普通の少女にしか見えない。ただ、その少女が普通と決定的に違っていたのは、その口が血で真っ赤に染まっていることだ。

「止まれ!」

 十人以上の警備員がこちらに銃を向ける。

「……はぁ」

 少女は、つまらなそうに溜息を吐く。いちいち警告などせずに撃てばいいのにと思う。少女は銃を持っている男の前に一瞬で現れた。そして、そのまま男の喉を掻っ切る。

「がっ」

喉から血を流しながら、男は地面に倒れた。

他の警備員が少女に銃を向ける。しかし、すでに少女はいなかった。

「こっち♪こっち♪」

 上から少女の声がした。警備員が驚き、視線を上に向ける。少女は、まるで地面に立っているような自然さで、天井に逆さまに張り付いていた。 

 その手には、さっき警備員から奪った銃が握られている。

「あはっ♪」

 少女は無邪気に笑うと、警護員に銃弾を降らせる。

 パン、パン、パン、パン、パン、パンと六発の銃弾は、正確に警備員の額に埋め込まれた。

「うわああああ」

 警備員も応戦するが、天井いた少女は壁に貼りついている。今度はそちらに銃を向けるが、壁にはいない。次は床に立っていた。

 重力を無視した動きに警備員たちは、ただ翻弄される。

 少女は弾切れになった銃を捨てると、別の警備員から銃を奪い、正確な射撃で警備員を確実に仕留めていく。

 一分にも満たない時間で、警備員は一人を除いて全滅した。

「あはっ♪」

「ひっ」

 すでに戦意を喪失している警備員に少女は、ゆっくりと近づく。

 警備員は逃げることも忘れ、ただ震えていた。少女の手が警備員の肩を掴み、先程と同じように、首筋に鋭く尖った牙を突き立てた。

「あがががががががががが」

 警備員はガクガクと痙攣すると、白目をむいた。

 少女は警備員の首から牙を外すと、全身が紫色に変色した警備員を投げ捨てた。

「マズイ」

 顔をしかめながら、少女は目的の場所に向かう。




 少女の名はリリースという。少女はヒトではない。ドラゴンとは別の進化をしたフマラという生物だ。

 リリースは同類を探すためここに来た。

 彼女はある目的のために同類を探していた。ヒトの世界に潜り込み、名前を変え、様々な仕事に潜り込んで仲間の情報を探した。最近までしていた雑誌の記者も仲間の情報を探すためだ。

 ある日、リリースは自分の仲間を見つける。

 彼女はリリースと同じくヒトに育てられ、ヒトの世界で生きていた。しかし、彼女はリリースとは違いヒトに対して好意的で、なんとヒトのオスと結婚までしていた。

 彼女は仲間になりそうにない。それに彼女はリリースと同じヒトの姿をしているフラマでメスだ。リリースの探しているフマラではない。

 しかし、せっかく見つけた同類だ。どれほどの力を持っているのか興味があったので、彼女の力を試すことにした。

 リリースはまず、自身が潜り込んでいる出版社に『カルシ村という村で青光病が流行っている』という内容の手紙を書いた。そして、出版社がその手紙に興味を持つと、その調査に志願する。同時に小説を書いている彼女に取材をする手筈も進めておく。

 自分一人だけでは警戒されるかもしれないので、同伴者も一名選んでおいた。

 選んだのは同伴者には真っ直ぐで、どことなく、彼女の夫に似ている雰囲気を持ったオスだ。後は取材中に彼女をそれとなく、カルシ村まで誘えばいい。

 目論見は上手くいき、彼女はリリース達と共にカルシ村に向かうことになった。


 彼女の力はリリースが想像していた以上の物だった。『青光病』の正体も看破しただけでなく、リリースの正体がフマラであることやリリースが自分で出版社に手紙を書いたことも見抜いたようだった。

 リリースは自分の出版社に手紙を出す時、差出人を『ムラファ』と偽名で書いておいた。『ムラファ』とはフマラをローマ字で書いて、それを並び替えたアナグラムだ。彼女は『ムラファ』がアナグラムであることをすぐに理解し、手紙を出したのがフマラであるリリースだと見抜いた。

 彼女の頭脳の高さは分かった。後は戦闘力がどれほどのものか試すことにした。

 リリースはドラゴンを操作して、カルシ村を焼いた。ユークロプラムシの治療薬を破壊するのと、ドラゴンが好きな彼女を怒らせるためだ。。

 リリースの目論見はまたしても成功した。そして、彼女の力はまたしてもリリースの想像を凌駕していた。

 リリースは両手の肉を削がれ、危うく命を落としかけた。

 戦いの最中は余裕があるように見せていたリリースだが、実はギリギリだった。あの時、彼女がもし、負傷したリリースを追ってきていたとしたら、命はなかったかもしれない。


 リリースは確信した。彼女はいずれ、倒さなければならない敵であると。




 迷路のような施設だったが、リリースは迷いなく歩いていく。

 リリースはフマラの中だけでなく、他の生物と比べても格段に聴覚に優れている。耳を澄ませば、ヒトとは違う呼吸音や心拍音が聞こえてくる。リリースはそこに迷いなく進んだ。

 やがて、彼女はあるドアの前に到着した。リリースはそのドアを強引に蹴破る。中には小さな部屋があり、奥には頑丈そうな扉があった。リリースはその扉も蹴るが、今度はビクともしなかった。

「困ったな♪どうしよう♪」

 リリースの声は言葉とは裏腹に、とても弾んでいる。すでにここを開ける手立ては見つけていた。耳を澄ますまでもなく、必死に息を殺している音が聞こえる。エリアは部屋の隅にある机の下を覗き込む。机の下には白衣を着ている太った男がいた。

「ばぁ♪」

「ひっひいいいいいいいい」

 リリースを見るや否や男は悲鳴を上げた。ここに隠れてやり過ごすつもりだったのだろうが、リリースの聴覚の前では隠れたことにはならない。

「や、やめ、ああああああ」

 リリースは男を机の下から引きずり出す。

「ここ、開けて♪」

 リリースは親に物をねだる子供のような声で頼む。だが、男は首を横に振る。当然だ。ここにいる生物を外に出すわけにはいかない。

「で、できな……」

 男が声に出して断ろうとした時、凄まじい頭痛が男を襲った。

「があああああ」

 男は頭を押さえ、のた打ち回る。

 リリースの武器は聴力や鋭い爪、ヒトより遥かに優れた身体能力だけではない。それよりも強力な武器を彼女は持っている。

 それは、リリースが出す特殊な音波だ。

 彼女は自身から出る特殊な音波を生物に向けることによって相手の脳に干渉することができる。干渉は特にドラゴン相手に強い効果を発揮する。

 この音波は相手の感覚を狂わせたり、錯覚を起こさせたりすることができる。

 好きなものを嫌いに、嫌いなものを好きに感じさせたり、そこにいない物をあたかもあるように錯覚させることも出来る。

 だだし、この力は相手の知能に大きく左右される。

 知能の低い相手であれば、かなり複雑な錯覚を起こさせ、『命令』に近い操作を複数の個体にすることも出来るが、知能の高い相手。例えば、ヒトを相手にする場合には頭が痛くなる錯覚を起こすことぐらいしかできない。

 しかも知能が高い相手に、この音波を使用している間は、その個体に音波を集中させる必要があるため、他の個体に音波を当てることはできなくなる。

 だが、この頭痛は凄まじく、常人なら痛みのあまり立つことすらできない。

「あああああああああああ」

 のた打ち回る男をリリースは黙って見ている。実はリリースが出す音波は耳を塞げば、簡単に防ぐことができる。だが、この音波はヒトの耳には聞こえないため、仕組みを知らない者はどうすれば防げるのか分からない。

 リリースは音波を出すのをやめ、男に微笑みかける。

「ここ、開けて♪」

「だ、だめだ。でき、ぎゃああああああ!」

 再び、男を頭痛が襲う。地面に這いつくばり、頭を押さえる。

「ここ、開けて♪」

 リリースがまた頼むと、男の頭痛は嘘のように収まる。男は気が付く、この頭痛はこの少女が起こしていると。

 男が何も答えないと、再び頭痛が襲う。

「わ、分かった。分かったから、も、もう、やめて、くれ」

 リリースは音波を止める。男は頭痛が消えると、慌てて部屋の隅にある金庫を開けた。そこには一本の鍵がおいてあった。男は鍵を頑丈な扉の鍵穴に差し込んだ。

 部屋の扉からガチャンと音がした。ギィィィィィィと鈍い音を立て、扉はゆっくりと開いていく。

 リリースは中を覗き込んだが、暗くてよく見えない。

「い、言う通りにした。だから、命だけは……」

「うるさい♩」

 リリースは爪を伸ばし、男に振るう。男の着ていた白衣はあっという間に紅く染まった。

「がああ」

 悲鳴を上げ、男は倒れた。リリースは倒れた男のことなど見もせずに、中を覗く。


 ジャランと鎖の音がした。そして、暗闇の中からゆっくりとその生物は現れた。




 リリースは自分の顔が嫌いだった。目の形とか、鼻の高さとか、そういう部分的なことではない。まるで自分に別の生物の顔が張り付いているような違和感があった。初めはどうして、そう感じるのか分からなった。しかし自分がヒトではないと知って、その疑問が解けた。リリースはフマラだ。しかし、その顔はヒトのものだった。

 フマラには二種類いる。ドラゴンのようなドラゴンのような頭とヒトの様な体格をしたフマラ。そして、ヒトと見分けがつかないフマラ。


 何故、ヒトと似ているフマラとそうでないフマラがいるのか?


 ヒトによって絶滅寸前まで追い詰められたフマラだったが、生き残ることができた者もいた。ひとつはヒトが入り込めない場所で暮らしていたフマラ。密林の奥の奥、険しい山脈の頂上など、てヒトが入り込まなかった数少ない場所にかろうじて生息していたフマラだ。

 もうひとつはヒトに似ていたフマラだ。

 突然変異によって、頭に髪の毛のような毛が生えている者、顔つきが前に突き出していない者、耳の形がヒトの様になっている者など、どことなくヒトと似ている特徴がある者は生き残ることができた。

 ヒトは同種を殺す場合も少なくはないが、同時にできるだけ同種との争いを避ける本能も持っていた。そうした本能が、ヒトと似ているフマラを攻撃するのを躊躇させた。

 生き残ることができたヒトに似ているフマラ同士は子供を作る。

その子供の中から、さらにヒトに似ているフマラが生き残る。それを繰り返すうちに彼女やリリースの祖先であるフマラは顔だけでなく体つきまでヒトの姿に近づいていった。

 彼らはヒトに似る進化をしたことでなんとか、生き延びることができたのだ。


 しかし、彼らの進化は彼ら自身に、恩恵ばかりを残してはいない。


 ヒトに似る様になったフマラは身体能力が大きく衰えた。

力や脚力は元の三分の一以下となってしまい。武器である鋭い爪も元に比べると脆くなった。

 フマラは今もなお、ヒトの姿に近づいている。このままでは、鋭い爪も牙もなくしたフマラとは全く別の生物に進化してしまうだろう。

 ヒトによって、『可愛い』姿へと進化してしまったキューリィティアドラゴンのように。


『お前は、ヒトではないフマラという生物だ』


 リリースを育てたヒトは生物学者で新種の生物を見付けるために、よくヒトの入らない森の中などを探索していた。リリースを見つけたのもそんな森の中だった。

 本来なら世紀の大発見になるはずだったが、彼らはリリースを世間に発表することせずに、自分の娘として育てることにした。彼らが何故そうしようと思ったのかは分からない。 

 彼らには子供がいなかったので、そのこともリリースを育てると思った原因かもしれない。

 リリースを育てたヒトは、リリースが物心つくようになった頃に自分が何者であるのかを教えた。

 自分の正体を聞いた時。リリースは「ああ、やっぱり」と思った。前から自分がヒトであることに違和感を感じていたため、その事実はすんなりと受け入れることができた。

 しかし、その次に言われたことは納得できなかった。


『フマラは今、いないとされている生物だ。お前はとても貴重な生物なんだよ』


 リリースを育てたヒトの目はまるで、宝石を見るようだった。


 いないとされている生物?でも、自分はここにいる。


 リリースは本を読みフマラのことを調べた。どの本にもフマラはある古生物学者が生み出した空想の生物とされていた。

 リリースは納得できなかった。自分はここにいる。なのに何故、いない生物とされなければいけないのか?その想いは日に日に強くなっていった。

 リリースを育てたヒトはリリースを拾ってから、フマラの研究を続けていた。リリースが質問すると、彼らはなんでも答えてくれた。

 フマラがいつ生まれたのか、フマラはどんな生物なのか、フマラは何故ヒトに似ているのか。リリースに、彼らは自分たちの仮説を余すことなく語った。

 リリースは考えた。

 何故、フマラはいない生物とされているのか?それは、フマラの数がヒトやドラゴンに比べて圧倒的に少ないからだ。数が少なければ少ないほど、その生物が発見される確率は低くなる。数の少ない生物はいないものとされるのだ。

 では、どうすればフマラの数は増えるのだろうか?リリースは一つの結論を出す。


『ヒトとドラゴンがいなくなれば、フマラの数は増える』


 フマラの数がここまで、減ったのはヒトのせいだ。とすれば、ヒトの数が減れば反比例してフマラの数も増えるだろう。

 ドラゴンはフマラと同時期に誕生した生物だ。にも関わらず、ドラゴンは世界中に広がっている。例え、ヒトがいなくなったとしても次はドラゴンがヒトの様な進化を遂げるかもしれない。


 ヒトとドラゴン。この二種は滅ぼさなければならない。リリースはそう結論を出した。


 結論を出したリリースは迷いなく行動を起こす。彼女は自分を育てたヒトを躊躇なく喰った。


 感想は特になかった。まるで、ヒトが肉や魚を食べる様に、リリースは自然と食事をした。もう十分成長したし、知りたいことは全て聞いた。これからは、ヒトではなくフマラとして生きていく。

 そのために、リリースは一番身近なヒトを喰った。


 リリースはフマラとしての目標を立てる。

 最終目標は『フマラを現在のヒトと同じぐらいの数まで繁殖させる』。

 そのために、まず『ヒトとドラゴンを根絶する』ことを目指すことにした。


『ヒトとドラゴンを根絶させる』ためにリリースは自分と同じフマラを探した。 それもただのフマラではない。ヒトの姿をしていない。昔のままの姿をしているフマラのオスを探していた。

 リリースの目標は彼女が生きている間に成し遂げられる可能性は低い。そのため、リリースは自分の夢を引き継いでくれる。子供を欲していた。

 しかし、相手がヒトの姿をしているフマラだと、子供はもっとヒトに近づいてしまう可能性が高い。それを防ぐため、昔のままの姿をしたフマラとの間に子供を作ろうと考えていた。

 もちろん、そのフマラとの間に子供ができるのは分からない。だが、自分の子供がヒトに近づくよりは、ましだった。

 

 その情報を聞いたのは全くの偶然だった。

 リリースと同類である彼女を試すために訪れたカルシ村で、フマラの情報を手に入れた。しかも、彼女が探していた昔のままの姿をしているフマラのオスに関する情報だ。

 同類との戦いによる負傷が回復するとリリースは早速、その施設に向かう。

 そして、現在リリースはフマラのオスがいるという施設の中にいた。




 そのフマラは手足を鎖で繋がれていた。

繋がれている手足は細く、わき腹から肋骨が浮かび上がる程、やせ細っていた。

しかし、リリースはそんな所は見ていなかった。彼女は真っ直ぐに『彼』の顔を見る。


 その顔はまるで、ドラゴンの様だった。そして、その眼はやせ細った体つきからは想像できない程、鋭かった。


 その姿を見た瞬間、リリースの体に電流のようなものが走った。


 体は熱くなり、心臓の鼓動が早くなる。自然と頬は赤くなっていた。


「やっと会えた♪」

 リリースは嬉しそうに笑った。


『お前は、何者だ?』

『彼』はそういう視線をリリースに向ける。リリースはその視線の意味を完全に理解できた。

「私?私はね……」

 リリースは、再び笑う。さっきよりも嬉しそうに、さっきよりも無邪気に、さっきよりも邪悪に。


「君の花嫁だよ♪」


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