ドラゴンラーキング12
『クリスリア国の真実』という本が発売され、大きな話題となっている。クリスリア国といえばクーデターによって、政権が交代したばかりの国だ。本の内容は、そんな現クリスリア国の根本を揺るがすものだった。
現クリスリア政府は前政権を打倒する大義名分の一つとして、前政権が生物兵器を開発していたことを理由に挙げている。現政権は以前より、クリスリア国で目撃されていた未確認生物は、これらの生物兵器が逃げ出したものであると発表した。そらから懸賞金を掛け、国中で未確認生物狩りを促した。
しかし、発売された本には未確認生物達は生物兵器などではなく、全て『ミステリードラゴン』と呼ばれるドラゴンから生まれた生物だと書かれている。
巷ではこの本の審議を巡り、様々な憶測が入り混じっている。
現クリスリア政権は、本の内容を真っ向から否定。最高権力者であるウズリア氏自らが会見を開き、本の内容をは事実無根であるとした。
しかし、ウズリア氏の会見はそれまでの彼とは打って変わって、しどろもどろで、挙動がおかしかった。そのため、会見を聞いていた多くの記者に『本の内容は真実なのではないか?』という印象を抱かせた。というのも、本には現クリスリア国の最高権力者のウズリア氏は傀儡に過ぎず、実際はソフィア=ミランダという女性が裏で操っていると書かれていたからだ。
ソフィア=ミランダは現在、行方不明。どこにいるのかまったく手掛かりがつかめていない。
記者達は会見でのウズリア氏の態度がおかしかったのは、裏で政権を操っていたソフィア=ミランダがいなくなったためではないのか?と考えた。クリスリア国に対する疑念はより一層深まることになる。
『クリスリア国の真実』は実際に著者とその仲間達が体験したこととして、書かれている。
著者の名はセイル=ドル。仲間の名前は仮名で書かれているため不明だが、ドラゴンベンチャーが二人、写真家が一人、古生物学者が一人となっている。
この本の内容は本当なのか?それとも嘘なのか?真実が明らかにされる日は近いのかもしれない。
そこまで読むと、エリアはその記事を切り取り、一冊のノートに張り付けた。
エリアはノートをパラパラとめくる。ノートにはエリアが新聞を見て、気になった記事が他にも張り付けられている。そして、一枚の記事に目を止めた。
『カルシ村で大規模な火災、原因はドラゴン』
先日、カルシ村という場所で大規模な火災があった。この火災により村は壊滅、死者、行方不明者の数は数百人にもなるとされている。村長のカール氏も行方不明だ。この火災の原因は村で信仰されていたセイルドラゴンによるもので、村には死んだセイルドラゴンが合わせて六匹確認されている。
何故、セイルドラゴンは村を燃やしたのか?専門家はセイルドラゴンが『エンドレス・ファイアー・シンドローム』を起こしたのではないかと考えている『エンドレス・ファイアー・シンドローム』とはドラゴンがストレスを感じ、火を吐き続けるという症状で……。
それから、記事はエンドレス・ファイアー・シンドロームの説明とその危険性について書かれ、最後に被害者に対する哀悼で終わっている。
カルシ村で行われていたこともヒトに寄生するようになった『ユークロプラムシ』のことも記事には書かれていない。
「何も変わらないな……」
エリアはポツリと呟く。
カールが開発に成功していたという、ユークロプラムシに対する薬。エリアはカールの家から、それらしい薬の瓶を発見することはできたが、瓶は割れ、中身は全て火事による熱で蒸発してしまっていた。これではカールが開発していた薬が、どのようなものであったのか分からない。
薬がない以上、カルシ村以外で発生している『青光病』は収まることはないだろう。それどころか、ヒトが農薬を使い続けていけば、いつ他の地域からも『青光病』が発生しても不思議ではない。
エリアと共に村を訪れた雑誌記者のライル=ニケイルは生きている。ただし、彼はカルシ村に訪れてからの記憶を一切、失っていた。リリースに何かされたからなのか、それとも眠らされた時に飲んだ薬の影響からかは分からない。
エリアは彼に何が起きたかを語ったが、彼に話したのは、『青光病』の原因がユークロプラムシという寄生虫が原因で起こった事だけだ。
カルシ村の村人が自分達をドラゴンに喰わせようとしたことや彼の友人であるイーヤ=グラインツがあの村にいて、自分達を裏切った事は話していない。もちろん、エリアとリリースがフマラであることも話していない。
リリースは依然行方不明のままだ。憲兵は、彼女は火事に巻き込まれたか、セイルドラゴンに喰われたという結論を出した。しかし、ライルはこの結論に納得していない様子だった。
「これから、どうするつもりですか?」とエリアが訪ねると、ライルは答えた。
「彼女を探します。それにカルシ村でのこと自分なりに調査して、いずれ記事にしたいと考えています」
最初は落ち込んでいたライルだったが、その瞳には力強い炎が宿っていた。
リリース=ジック。彼女とはまた、どこかで会うだろうとエリアは感じている、ドラゴンもヒトも滅ぼすと言っていた彼女が、どのような行動をとるのかは予測できない。しかし、その時が来れば必ず決着をつける。エリアはそう決意していた。
「遅い。全く何をしているのやら……」
エリアは時計を見る。約束の時間まではまだ三十分以上あった。
「……気持ちがはやり過ぎたな」
無表情で呟くエリアだったが、その頬は少し赤く染まっている。
エリアが、ヒトでなくフマラだということは結婚を申し込んだ時に、すでに彼に伝えてある。
自分の正体を伝えるのは、リスクにしかならない。しかし、エリアはどうしても伝えたかった。両親以外で初めて好きになった相手。その相手に、隠し事はしておきたくなかった。その結果、彼が誰かに秘密を話してしまい、エリアがヒトに捕えられることになったとしても、構わないと彼女は思っていた。
最初は彼も、もちろん驚いていた。しかし、すぐに笑顔になり、エリアがフマラであることは誰にも話さないと約束した。そして、彼はこう言った。
「これから、よろしくお願いします」
それが、エリアがした結婚に対する返事だと気付くのに、エリアは少し時間が掛かった。
(あいつには、感謝してもしきれないな……)
エリアの正体を知りながら、結婚を受け入れてくれたこと。そして、ドラゴンベンチャーになってくれたこと。
フマラであるエリアはドラゴンに恐れられる。そのため、彼女自身はドラゴンベンチャーになることができなかった。だが、彼女は両親が残した遺産をこのままにしておきたくはなかった。そこで、エリアは優しく、ドラゴンに好かれる彼にその願いを託した。彼は快く、エリアの願いを引き受けてくれた。
彼はドラゴンに親を殺されたにも関わらず、ドラゴンを憎むこともなくドラゴンベンチャーの仕事を続けている。その彼に、エリアは前以上の愛情を感じていた。
そんなことを考えていると、家のドアがコンコンとなった。エリアは時計を見る。ちょうど約束の時間になっていた。今日は彼とその相棒が久しぶりに帰ってくる。
赤い眼と黒い姿をしたドラゴン、名前はクロ。その恐ろしき姿とは裏腹に、とても優しき心を持っている彼の相棒。最初に会った日、クロはエリアに襲い掛かってきた。
それはエリアから、後の相棒を守るためだった。
あの時、彼の呼び掛けに対してクロは「ピー」という泣き声を返していた。あれはクロウドラゴンが仲間に危険を知らせる時に出す警戒音だ。クロはあの時から既に彼を仲間だと認めていたのだ。
クロはエリアを見える前から、臭いでエリアの存在を察知していた。そして、エリアを見た瞬間に彼を守るため、エリアに襲い掛かった。
エリアはドラゴンに恐れられる。クロもエリアが怖かったことだろう。しかし、クロは彼を守るために戦うことを決意した。
それに気付いたエリアは、クロに「優しい子だ」と呟いた。
エリアがドアを開けると、そこには優しい顔をしたエリアの夫と黒いドラゴンが立っていた。
「ただいま」
「キー」
エリアは夫と、その相棒にほほ笑む。
「おかえり」
エリアはドアを大きく開け、夫とその相棒を招き入れた。
ヒトとドラゴンとフマラ。
それぞれ違う種である三匹だが、そんなことは彼らには関係なかった。例え、種は違っていても彼らは紛れもない家族だった。




