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100Gのドラゴン  作者: カエル
第四章
33/61

ミステリードラゴン13

「やっぱり、おかしい」

 ニンギョの胃を全て調べてみたが、全てに魚がぎっしりと詰まっていた。中には自分の体の半分はある大物を飲み込んでいる者もいた。

「ニンギョは、魚を十分に食べていた。だったら……」

 シオンは首を傾げる。


「どうして、こいつらは私達を襲ったんだ?」


「食料を奪うためじゃないか?」

 ネイドが手を挙げて意見を言う。最初の目撃例では、ニンギョは船員を殺した後、食料と備品を奪っていったらしい。

 しかし、シオンはネイドの意見に反論する

「それなら、もっと早く逃げ出していても良かったんじゃないか?」

 アド達が仕留めたニンギョの殆どは、海に落ちてしまったため、正確な数は不明だ。

だが、その数は、確実に五十体を超えている。

「確かに、食料を奪うだけにしては、この襲撃は割に合わない気がする」

 仮に船にいる者全員を倒せたとしても、得られる食料と犠牲が釣り合っていない。

「損得を考えられるほどの知能がなかった?」

「いや、そうは思えない」

 ニンギョは、一匹の鳴き声で撤退した。あの一匹が司令塔だった可能性は高い。統率はかなりとれている。とても知能が低いとは思えない。


 思い返してみれば何故、ヒト型生物達は、襲ってきたのだろう?


 アドが、目撃した首が七つあるドラゴン。呼び方が長いので、アドはあのドラゴンのことを『ヒドラ』と名付けることにした。

 ヒドラは、カリアを捕食目的で襲ったとアドは思っていた。なので、てっきりミステリードラゴンから生まれた他の生物も捕食目的で、ヒトを襲うのだろうと思っていた。

だが、それは正しかったのだろうか?

 たしかに、ヒドラはカリアを捕食した。しかし、捕食したからといって最初から捕食目的で襲ってきたとは限らない。

 ニンギョも食料や備品を奪うために船を襲ったのではないのかもしてない。

 捕食や強奪は、ついでだったのではないだろうか?

「目的は殺害だったと?」

 ニーナの問いかけにアドは頷いた。

 つまり、ヒドラは捕食のためにカリアを襲ったのではなく、殺害するために襲った。

そして、ちょうど空腹だったのでカリアを捕食した。

 ニンギョは、ヒトを殺害するために船を襲った。そして、ついでに食料を備品を奪った。

「それって、何か違いがあるのか?」

「全く違う」

 喰うためや食糧の強奪のためなら、彼らが満腹の間はヒトが襲われることはないだろう。しかし、殺害が目的なら、彼らは常にヒトを襲い続けることになる。

「ミノタウロスやケンタウロス、ユニコーンが私達を襲った理由も捕食のためではなく、殺害が目的であったのではないでしょうか?」

 アドの考えを聞いて、ニーナが顎に手を当て考える。

「ミステリードラゴンがヒト型生物達を産んだ理由はそれでしょうか?」

「どういうこと?」

ニーナの発言に、ネイドが首を捻る。

「つまり、ヒト型生物の目的はヒトの排除ではないのでしょうか?」

「いや、ヒトだけじゃないかもしれません。ヒト型生物はクロやメイにも反応していました」

 アドはニーナの意見に補足する。

「ミステリードラゴンから生まれた生物の目的。それはミステリードラゴン以外の生物の排除ではないでしょうか?」


 アドが考えるミステリードラゴンの生態はこうだ。

 通常のミステリードラゴンは、他のドラゴンと同じようにオスとメスが交わり卵を産む。卵から生まれるのは、当然、親と同じミステリードラゴンだ。

しかし、異常な状態が続くと、何らかのスイッチが入り、ミステリードラゴンのメスは自身とは別種の生物の卵を産むのではないだろうか?

「異常な状態って?」

「自分の他にミステリードラゴンはおらず、自分の周りに自分以外の生物が大勢いる状態です」

 捕えられたミステリードラゴンは一匹だけだった。そして、彼女の周りにはヒトという名の生物が大勢いた。一年以上の長きに渡って、彼女はそんな環境で暮らしていた。

 自然界に例えると、ミステリードラゴンの数は一匹だけで、別の生物が異常繁殖していることと同じ状況だ。

「そして、ヒト型生物達は、他の生物を殺害しながら爆発的に繁殖していく……ってことか。その間、肝心のミステリードラゴンは自体は、どうしているんだ?ヒト型生物達が数を増やしていけば、ミステリードラゴン自体も危ないだろ?もしかしたら、ヒト型生物達はミステリードラゴンを襲うことはないかもしれないが、必ず食糧不足になる」

 それは、アドも考えていた。そして一つの考えが浮かんだ。

「その間、ミステリードラゴンは冬眠するように、長く眠るのだと思います」

「……なるほど。そして、他の生物がいなくなり環境が整ってきた時に目を覚ます……」

 シオンが納得するように頷いた。

 

「まとめると、こうなります」


 一、ミステリードラゴンが一匹で長い間、他のミステリードラゴンとの交流がなくなる。

 二、ミステリードラゴンの周りに他の生物が大勢いる。

 三、ミステリードラゴンがヒト型生物など別種の卵を産む。

 四、ヒト型生物が、他の生物を排除しながら、爆発的に増える。その間ミステリードラゴンは、長い眠りにつく。

 五、ヒト型生物達によって、他の生物の数が激変する。増えすぎたヒト型生物達も食料不足で死に絶える。もしくは、自ら命を絶つ。

 六、それから、さらに長い時間が経過し、ミステリードラゴンが暮らせる環境が復活する頃に目を覚ます。


「あくまで、私の仮説です。検証したわけではないですし、穴もいくつもあります」

「確かにそうだ。でも、仮にあんたが言ったこと本当なら、凄まじいドラゴンだな!はっはっは!」

 シオンは子供のように笑う。

「こんな生物がいるとはな……この世にいる生物は、どんな小説よりも奇妙だ」

 セイルは、懐からメモを取り出すと、一心不乱に小説のネタを書きなぐっている。


「もうすぐ着くぞ!」

 なんとか気絶から復活し、船を操縦していたムーアが叫ぶ。五人は船首の方へ移動した。

「おお!」

 海の向こうに陸地が見える。最悪、漂流する可能性も考えたが、何とか無事に到着することができた。クリスリア国にいたのは、一週間も経たなかったが、もうずいぶん長く感じる。

 船から降りると、シオンはうーんと背伸びをした。

「さてと、これから忙しくなるな」

「やはり、クリスリア国のことを?」

「ああ、あの国で起きたことを告発するつもりだ。そのために写真もたくさん撮ったからな」

 シオンはカメラを大切そうに撫でる。

「私も……あの国のことを本にまとめるつもりだ……」

 セイルは小さいが、強い意志を感じさせる声でそう言った。

「お、いいね!あっ、そうだ。いいこと考えた!」

 シオンは子供のように笑う。

「私の写真をあんたの本に使ってくれよ!そうすれば、皆に理解してもらいやすくなる!な、いいアイデアだろ?」

 セイルは、五秒ほど考え口を開いた。

「……ああ、確かに」

「よし、決まり!あんた達も手伝ってくれよ!」

 アドは頷く。

「もちろん、できることがあれば」

「はい」

 ニーナも同意した。

「俺もか?」

 ムーアは困惑している。

「嫌ならいいが、できれば手伝ってほしい」

 ムーアは頭を掻く。

「正直、俺は何もしてない。みっともなく喚いていただけだし……」

「そんなことない!」

 シオンはムーアの肩を掴む。

「私達が助かったのは、あんたが船を操縦できたおかげだ。でなきゃ、あの国を出ることはできなかった。それに、あんた言ってただろ?」

 何を?と言う顔でムーアはシオンを見る。

「自分とペアになった奴が、自分の目の前で殺されたって……」


『俺のペアになった奴は、俺の目の前で殺されたんだぞ!』

『俺は、逃げた!奴を見捨てて、逃げ……逃げたんだ!』


 ムーアとペアになった男性はケンタウロスに殺されている。ムーアは彼を置いて逃げ出してしまったことを強く後悔しているようだった。

「このまま、この事件が闇に葬られれば、そいつは何故死んだのか誰にも分からなくなる。それでいいのか?そいつの死を無駄にしていいのか?」

「……」

 シオンの熱意にムーアが一瞬黙るが、やがて、ゆっくりと口を開いた

「……分かった。協力しよう!」

 シオンは嬉しそうに笑うと、がっちりムーアと握手を交わした。

 その様子を皆、ほほえましく見ている。

 ふと、アドは気になった。そういえば、ネイドがまだ何も言っていない。こういう時は、真っ先に協力を申し出るような奴なのに。

 アドは、ネイを見る。ネイドは頭を押さえて、フラフラしていた。

「おい、大丈夫か?」

 アドがネイドに近づく。

「ああ……だい……じょう……」

 ネイドの瞼がストンと落ちる。

「ネイド!」

 彼は、そのまま膝から崩れ落ちるように倒れた。


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