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100Gのドラゴン  作者: カエル
第四章
31/61

ミステリードラゴン11

「これから、どうする?」

 ネイドがアドに尋ねる。

「この国を出る」

 このまま、この国にいたら殺されてしまう。生き残るには、この国を出るしかない。

「どうやって出るつもりだ?」

「ここから、南へ向かう。そこの海岸で他のメンバーと合流することになっている」


 生き残った調査メンバーは、負傷者を救出する者とヒト型生物を調査する者達に分かれた。

『さて、後はどうやって逃げるかだな』

 ネイド達を助け出そうが、ヒト型生物の写真をたくさん撮ろうが、小説のネタを得ようが、この国を出なければ話にならない。

『やはり、船を使って逃げましょう』

 アドの意見にシオンが反論する。

『船は使えないって、さっき言っただろ?』

『奪います』

 アドは即答する。

『幸いこちらには銃もあります。船を奪うことはそう難しいことではないでしょう』

『相手が反撃してきたら?』

『縛るか、気絶してもらいます。命を奪うことは極力避けたい』

『それしかないか……』

 シオンは頭をポリポリ掻く。

『分かった。船の調達は私達に任せろ』

『出来るのですか?』

『まぁな、多分』

 船を奪うことを提案したアドだが、まさかシオンがやると言い出すとは思わなかった。

『私とおっさんが乗っていた船だが、襲われた時、船自体にも結構ダメージを受けたんで、南の海岸に停泊させて修理することになった。私達はそのまま戻ってきたが、もしかしたら、まだ船があるかもしれない』

『どうして、黙っていた?』

 ムーアがシオンに詰め寄る。

「まだ、そこにあるとは限らないし、あったとしても船内には修理するために憲兵が乗っているはずだ。それに、奪えたとしてもちゃんと動く保証はないからな」

 シオンは視線をムーアからアドに移す。

「船はないかもしれないし、ちゃんと動くのかも分からない。賭けになるが、それでもいいなら、私にやらせてくれ!」

 アドはシオンの目を見る。しかし、それは一秒にも満たなかった。

「よろしくお願いします」

 アドは右手をシオンに差し出す。

『ああ』

 シオンもその手をガッシリと掴んだ。


 地下から、らせん状の階段を登る。一階についたが、憲兵の姿はどこにもない。

「チャンスだ!行こう!」

 アドを先頭に三人は進んでいく。ここまでは順調だ。

「よし、いける!」

 外に出たら、一気走り、馬の所まで行く。


「止まって下さい」


 病院の外にでるのと同時に、大量の銃がアド達を取り囲んだ。・

「くそ!」

 囲いは、蟻の這い出る隙間もない。これを突破するのは無理だろう。

「動かないで下さい」

 周りによく響く声と共に、一人の女性がアド達の前に現れた。

「皆様、お疲れ様です」

 ソフィア=ミランダは、きれいな笑顔で微笑んだ。


「無駄な抵抗はしないで下さいね」

「よく分かりましたね。私達がここに来るって」

 アドの問いにソフィアは微笑んだまま答える。

「もし彼らが失敗した場合、何人かは、必ずここに来るだろうと予想していました」

「……なるほど」

 暗殺が、もし失敗した場合、そのままだと、ターゲット全員に逃げられてしまう。

しかし、ここに負傷者を運んでおけば、生き残りの中から負傷者を助けようと言い出す者が出てくる可能性が高い。後は、ここで待ち伏せしていればいい。

「まんまと騙されたわけか……」

 アド達をここに誘導したのはウズリアだ。しかし、ウズリアの表情には嘘は感じられなかった。彼はおそらく、何も知らない。

 ウズリアは脅されて、自身の判断でここにアド達を連れてきたと思っているはずだ。

おそらく、生き残った者が暗殺を逃れた場合、ウズリアを脅し、ここに道案内させることも予想していたのだろう。

「さぁ、それでは皆さん。あちらへ」

 ソフィアが指差す先には、馬車があった。だが、馬車は普通のものではない。

 鉄のような箱を乗せており、窓は見当たらない。おそらく犯罪者を護送するための者だろう。これに乗せられたら、逃げ出すのは困難だ。

「クロ!」

 アドは、空高く相棒の名前を呼んだ。

 しかし、何も変わらない、何も来ない。声はむなしく夜の闇に響くだけだった。

「ペットのドラゴンでしたら、呼んでも無駄ですよ」

 ソフィアはクスリと笑った。

 すると、大柄の男が五人、何かを引きずってきた。アドは、目を大きく見開く。

「クロ!!」

 アドは、再び相棒の名前を呼んだ。だが、先ほどとは違って、その声は悲痛に溢れている。

「クァ」

 クロはアドを見ると、弱々しく鳴いた。クロの体には、網のようなものが食い込んでおり、血がにじんでいた。明らかに殴打された後もある。捕まった後、憲兵に棍棒か何かで叩かれたのだろう。

「貴様ら!!」

「これを見てください」

 ソフィアは、大型の銃をアド達に見せる。

「これは、ドラゴン捕獲用の銃です。ミステリードラゴン捕獲のために作りました。実際に試すのは初めてでしたが、効果は十分のようですね」

 この銃の弾は、撃つと同時に空中で分解し、中から網が出てくる仕組みになっている。空中で広がった網は対象に触れると、たちまち、相手を包み込み動きを封じる。網は非常に丈夫で、一度からめ取られれば、自力で脱出することは、殆どのドラゴンには無理だろう。

「今は、中型のドラゴンを捕らえるのが限界ですが、改良を重ねればいつか、大型のドラゴンを捕らえることも可能となるでしょう」

 ソフィアは楽しく笑いながら、クロに銃を向けた。捕獲用ではない、殺傷用の銃だ。

「やめろ!」

 アドは、大声で叫ぶ。

「せっかくですので、馬車に乗せる前に聞いておきます。他の生き残りの方々は、どこですか?」

「……」

 教える訳にはいけない。アドが、黙っているとソフィアは引き金を引いた。

 乾いた音が辺りに響く。

「……!」

 銃弾はクロの三センチほど右の地面を抉っていた。

「次は当てます。他の方々はどこですか?」

 ソフィアの顔から、表情が消える。彼女は本気だ。次は確実に当てるだろう。

(くそ!どうすればいい?)

 アドは何とか解決策を探る。しかし、ソフィアはそれを許さない。

「仕方ありませんね」

 ソフィアは引き金を引こうとした。

「待て!」

 叫ぶアドをソフィアがゆっくりと見る。

「言う……だから、クロには手を出すな」

 ソフィアが満足そうに笑う。

「いいでしょう。では、改めて聞きます。他の方々はどこですか?」

(すみません!)

 アドは、心の中で何度も謝る。囮にしてしまったクロに、そして残りのメンバーに。

 黒のスピードなら、まず捕まらないだろうと高を括っていた。クロがこんな目に遭っているのは、間違いなく自分のせいだ。

 自分が喋れば、他のメンバーは確実に捕まるだろう。しかし、ここでクロを失いたくはない。

「……」

 アドが口を開こうとした時、スッと腕が伸びてきて、アドの言葉を制止した。

 腕はネイドのものだった。ネイドはアドを下げるように一歩前出る。

「何ですか?」

 ソフィアが、少しイラついたようにネイドを見る。

「あんた、俺のドラゴンがどこにいるか知らないか?真っ赤なドラゴンだけど」

 ソフィアは眉根を寄せる。

「さぁ、知りません。逃げたのではないのですか?あなたを置き去りにして」

 ソフィアがネイドを挑発する。

「ふっははは、ははっははは!」

 ソフィアの挑発に、ネイドが爆笑する。ソフィア達は勿論、アドとニーナも驚いてネイドを見た。

「まぁ、そうだな。あいつは、いつも危なくなると真っ先に逃げるんだよな」

 ネイドはニヤニヤ笑う。ソフィアはますます眉根を寄せる。

「それが、どうかしたのですか?今、そんな話は、どうでも……」

「だけどな!」

 ネイドは高らかに、大声で叫ぶ。自分のドラゴンを自慢するように。


 ドドド。


 最初に気付いたのは、おそらくネイド、続いてクロ、少しだけ遅れてアドとニーナが気付いた。地鳴りのような音を。


「俺は直接、アイツに助けられたことはない」


 ドドドドドド。


 音はどんどん、大きくなる。やがて、その場にいる全員が音に気付いた。


「だけどな……」


 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド。


「俺は……」


 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド。


 音の正体が分かった。たくさんの何かが近づいてくる。


「いつもアイツに助けられた」


「クアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」


 炎のように赤いドラゴンがソフィアの上を、アド達の上空を通過する。

 その直後、何かが飛んできた。

 

 ドス。ドス。


 ソレは、弓矢だった。弓矢は、アドを取り囲んでいた者達の二人の頭に正確に命中した。弓矢は、どんどん降ってくる。


「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」

 次に現れたのは、牛の様な頭にヒトの様な体を持つ生物だった。

 名前はミノタウロス。

 ミノタウロスは手当たり次第に目の前にいるヒトを持っている棍棒で薙ぎ払う。しかも一匹ではない。一匹、二匹、三匹。まだまだいる。

「うわああああああああ」

 突然の怪物の襲撃に、周りはパニックになる。

 牛のような怪物の後に現れたのは、角の生えた馬の様な生物だ。

 名前はユニコーン。

 体つきは馬だが、顔つきは肉食獣のようだ。ユニコーン達は、手当たり次第にヒトを角で突く。

 最後に現れたのは、上半身がヒト、下半身が馬の様な生物だ。

 名前はケンタウロス。

 ケンタウロス達は弓矢を持っており、それを正確にヒトの頭に命中させる。

 

「はっはっは!やってくれたなメイ!」

 ネイドは、楽しそうに笑う。


「未確認生物達を連れてきやがった!」


「うあああああ」

 日頃から過酷な訓練を受けている憲兵がパニックに陥っている。

 そんな中、一人だけ冷静な者がいた。

「ゴオオオオオオオオ!」

 ミノタウロスが棍棒で、ソフィアに襲い掛かるが、ソフィアはそれを最小限の動きで躱す。そして持っていたドラゴン捕獲用の銃をミノタウロスに向けて撃つ。

 弾から分離した網は、ミノタウロスの体を包み込んだ。

「グガアアアアアア!」

ミノタウロスは暴れるが、網は破けない。それどころか暴れれば暴れる程に体にドンドン食い込んでいく。

 ソフィアはミノタウロスの横を悠然と通る。

 そんな彼女をユニコーンの視線が捕えた。ユニコーンは猛然と突っ込んでくる。ドラゴン捕獲用の銃は、一発しか撃てない。しかも装填に時間が掛かる。

 ソフィアはドラゴン捕獲用の銃を捨て、通常の銃を取り出すと、ユニコーンの目を二つ、正確に撃ち抜いた。

「ヒイイイイイイイイイン」

 ユニコーンはバランスを崩して転倒する。その際、足を骨折したようだ。もう立つことはできないだろう。

 今度は、二本の弓矢がソフィア目掛けて飛んでくる。彼女は正確に飛んでくる矢を銃で撃ち落とした。そして、矢を射ていたケンタウロスの眉間を撃ち抜いた。

 彼女は逃げ惑う憲兵に一喝する。

「貴方達はそれでも、この国の憲兵ですか!」

 混乱していた憲兵達が、その一言で我に返る。

「陣形を立て直して下さい!相手はただの獣です!」

 ソフィアの指示で、憲兵達が未確認生物達を次々倒していく。

「ガアアアアアア!」

 一匹のミノタウロスが叫び声を挙げると、ソフィア達に背を向けて逃げ出した。それに続くように他の未確認生物達も一斉に逃走する。

「やったああああ!」

 憲兵達は、勝利に喜ぶが、ソフィアは無表情のままだ。チラリと周りを見る。

 

 アド、ネイド、ニーナ。そして、クロとメイ、黒と赤のドラゴン。

 三人と二匹は混乱に紛れて、その姿を消していた。


「はっはは!やったぜ!」

 ネイドは、馬に乗りながら、興奮気味に叫ぶ。アドとニーナも馬に乗り、その後に続く。

「クロ、大丈夫か?」

「クア!」

 クロは、何とか飛べている。体からは血が出ているが、幸いなことに傷は深くはないようだ。

 クロに絡まっていた網はメイが外してくれた。どうやら、あの網は外からなら簡単に外せるようになっているらしい。改良の余地がありそうだ。

「ありがとう、メイ!」

 アドはメイに礼を言うが、メイはプイッと視線を外す。

「よーし!このまま突っ走れ!」

 興奮気味なネイドを先頭に、三人と二匹は海岸を目指して馬を走らせる。


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