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100Gのドラゴン  作者: カエル
第四章
24/61

ミステリードラゴン4

 大昔、地上にはドラゴンとは別の超大型爬虫類の存在していた。

 超大型爬虫類は、長きに渡り地上を支配したが、その歴史は突然終わりを迎える。超大型爬虫類の一部鳥類に進化したが、他は全て絶滅した。

 彼らが絶滅した理由は諸説あるが、隕石の衝突によるものではないかと言われている。

 超大型爬虫類が絶滅すると、それまで陰でひっそりと生きてきた哺乳類の時代となる。彼らは滅んだ超大型爬虫類のニッチを埋めるように、急速にその種類を増やし世界中に広がっていった。


「ふぅ、やっと着いたか」

クリスリア国南東の森。

 ここは三年前に、牛の頭部とヒトの体という奇妙な姿をした生物が目撃された場所だ。小鳥のさえずりや川のせせらぎがとても心地よく、とても化物が現れた場所とは思えない。

「じゃあ、始めようか」

「はい」

 ネイドとニーナはさっそく周辺の調査を始めた。足跡、糞など、未知の生物がいる証拠を探す。ネイドとニーナが調査している間、通訳の二人と馬車の運転手は岩に腰掛けて休んでいる。

どうやら彼に手伝う気はないようだ。未確認生物の調査はあくまで、ネイド達の仕事と言うことなのだろう。


「何かありましたか?」

「いや、なんにもない」

 探し出してから、一時間以上経った。しかし、未確認生物どころか普通の生物の痕跡すら見つからない。

「もっと奥まで行ってみましょうか?」

「そうしようか」

 ネイドは、通訳と運転手に森の奥まで進むこと告げる。運転手は了承したが、二時間後には一度戻らないといけないので、それまでに戻ってきてほしいと言った。

「分かった。じゃあ、行こう」

「はい」

 ネイドとニーナは森の奥に歩き出す。すると、通訳の二人も付いてきた。別に付いてこなくてもいいことを告げたが、通訳の二人は首を横に振る。

(まぁ、いいか。手伝いはしないけど、別に邪魔という訳でもないし)

 通訳の二人を放っておいて、ネイドとニーナは奥に進む。

「ところでさ、ニーナはどうして、この調査に参加したの?」

 ニーナは古生物学者だ。未確認生物の調査など本来の仕事とは程遠いように思える。


「……ヒト型生物ってご存知ですか?」


 ニーナの質問にネイドは首を捻る。

「……聞いたことはあるけど、詳しくは知らない」

 ネイドは素直にそう答える。知らないことは、知らないと素直に言ったほうがいいと考えているからだ。

「ヒト型生物は、ヒトのような形をしていますが、ヒトとは全く違う古代生物です」


 哺乳類の全盛期にヒト型生物は、突如誕生した。

 ヒト型生物は、まるでヒトと他の生物を混ぜ合わせ多能な外見をしており、ヒトと同じように手があり、物を掴むことができるのが特徴だ。

 ヒト型生物がどのように進化してきたのか、未だによく分かっていない。

 まず、発見される化石が極端に少なく、調査のための材料が不足していること。

それに、昔はヒト型生物の存在を信じない者も多くいた。『ヒトの化石と他の動物の化石がただ単に同じ場所から発見されただけ』だという意見やねつ造だという意見もあり、その存在そのものが疑われていた。近年になりようやく学会でも認められたが、そのような経緯もヒト型生物の研究が進んでいないことの原因となっている。

ヒト型生物は全て絶滅している。

彼らが絶滅した理由もよく分かっていないが、ヒトが出現した時期とヒト型生物が絶滅した時期が重なっているため、ヒトに襲われ絶滅したという説や食べ物などが重なっていたため、ヒトとの競合の果てに絶滅したという説が定説となっている。


「牛のような頭にヒトのような体を持つミノタウロス、ヒトのような上半身に馬のような下半身を持つケンタウロス、ヒトと魚を掛け合わせたようなニンギョ」

「それって……」

「はい、今回目撃された生物です。それに角の生えた馬というのもヒト型生物が生息していた時期に生きていた生物です」

 ユニコーンと呼ばれる角の生えた馬のような生物。今の馬の様な生活をしており、角はオス同士の争いや外敵との戦いに使用していたと言われている。

「じゃあ、この国で目撃されていた生物は全部絶滅した生物ってこと?」

「全てではないですが、私が見たところ七割以上はかつていた生物と身体的特徴が一致しています」

 今までにも古代に生きていた生物が目撃された事例はある。しかし、数年の間に同じ場所で様々な古代生物が目撃されたことは今までない。

「ヒト型生物が生息していた時代は、ミステリークロニクルと呼ばれています。実は私はミステリークロニクルに生息していた生物を現在、研究しています。この調査に選ばれたのもそれが理由だと思います」

「なるほど」

 それならば、彼女が選ばれたのにも納得がいく。

「でも、どうして俺を推薦したの?」

 同じ古生物学者を誘えば良かったのに、何故、ドラゴンベンチャーのネイドを選んだのか?ネイドは、何気なく聞いたつもりだった。

 しかし、まるで魔法でも掛けられたかのように、ニーナの動きはピタリと止まってしまった。それからニーナの顔は、まるでリンゴのように、赤く染まった。風邪でも引いたのだろうかと思い、ネイドは彼女の顔を覗き込む。ニーナの顔はますます赤くなった。

「あ、あ、あ、あの、え、えっと」

「あ、ごめん。ごめん」

 近くで見過ぎたなとネイドは反省した。きっと怖かったに違いない。

「い、いいえ、べ、別に……」

 ニーナは胸に手をやり、深呼吸している。大丈夫だろうかとネイドは心配になる。

「あ、貴方を推薦した理由ですが……二つあります」

「二つも」

 なんだろうと考えるが、ネイドには思い当たることはない。

「まず、一つ目ですが専門家の意見を聞きたかったのです」

「専門家の意見?」

「はい、どうしても」

  ネイドは考える。ドラゴンベンチャーに聞きたいことと言ったら当然ドラゴンのことだろう。自信はないが、答えられるだけ答えよう。

「いいよ。何でも聞いて」

「ありがとうございます……では、意見を聞く前に、ひとつ問題を出してもいいですか?」

「問題?何?」

「ヒト型生物やユニコーン。彼らは脊椎動物ですが、何類だと思いますか?」

 脊椎動物は現在、魚類、両生類、爬虫類、鳥類、哺乳類の五類ある。その中で選ぶとしたら、これだろう。

「哺乳類!」

 ネイドは自信満々に答える。ニーナは学校の先生が生徒を褒めるような笑顔で、正解ですと言った。

「ヒト型生物やユニコーンなどのミステリークロニクルに生きていた生物たちは全て哺乳類であるというのが、現在の定説とされています」

「よっしゃ!」

 問題に正解し、ネイドは小さく拳を握る。

「しかし、私は別の考えを持っています」

 突然、ニーナの表情が変わる。さっきまで、顔を赤く染めていた彼女はどこにもいない。

「私の考えでは、ヒト型生物は……」


 パーン。


 ニーナが自分の考えを述べようとした時、静寂な森の空気にそぐわない音が響き渡った。ネイドとニーナが顔を合わせる。どうやら銃声の様だ


 パーン。


 銃声はもう一発聞こえた。

「ここにいて!」

 ニーナにそう告げ、通訳の二人組に彼女を任せると、ネイドは、全速力で走りだした。

 常人離れした彼の耳は、銃声の正確な位置を把握していた。銃声はさっきまでネイドとニーナが調査していた場所から聞こえる。


 パーン、パーン、パーン。


 ネイドが現場に到着するまでに二発。彼が到着するのと同時に一発の弾が放たれていた。

 銃弾を放った者の正体はすぐに分かった。ネイド達を乗せた馬車の運転手だ。彼は、小型の銃を持ち、恐怖で顔を歪ませながら一心不乱に銃を撃っている。

 ネイドは彼が発砲している生物を見た。


 その生物は、まるでヒトのように二足歩行していた。

 その生物は、通常のヒトより遥かに大きかった。

 その生物は、巨大な棍棒を持っていた。

 その生物は、銃で撃たれても平気だった。


 その生物の頭部は、まるで牛の様で体はまるでヒトの様だった。


 パーン、パーン、カチ、カチ、カチ。


 彼がいくら引き金を引いても、もう弾は発射されなくなった。どうやら全て撃ちつくしたようだ。

「うわああああああああああ」

 馬車の運転手が空になった銃を相手に投げる。銃は当たったが何のダメージも相手に与えられなかった。

 牛の頭部を持つヒト型の怪物は、ゆっくりと棍棒を高く振り上げる。馬車の運転手は、恐怖でその場に立ち尽くしていた。

「あ、あ、あああ」 

 振り上げられた棍棒が、もの凄いスピードで振り下ろされる。

 

 グシャ。


 運転手の頭部はまるでトマトのようにあっけなく潰れた。




 はずだった。


 棍棒は地面に突き刺さっていた。

 そこにいたはずのヒトは、煙のように消えている。

 牛の頭を持つ怪物は、不思議そうにキョロキョロと辺りを見渡すとヒトを見付けた。しかし、そこは怪物がいた場所から十メートル以上離れていた。

 しかも、ヒトは一人ではなかった。さっきまで銃を撃っていた個体を別の個体が抱えている。


「大丈夫か?」

「え?」

「大丈夫か?」

 運転手は何が起きたのか分からないという表情で呆然としている。

 ネイドは抱えていた運転手を降ろすと、怪物を見たまま、彼に話し掛ける。

「逃げろ」

「え」

「早く、いけ!」

 男は怯えながらも、必死に口を動かす。

「あ、あんたは?」

「時間を稼ぐ」

 運転手は、目を見開く。

「無茶だ!」

「いいから聞け!森の奥にニーナと通訳の二人がいる。二人を拾って早く逃げろ!」

「そ、そんな」

 牛の頭を持つ怪物は、ネイドをじっと見ている。明らかにさっきの動きを警戒しているようだった。

「早く行け!」

「……くっ!」

 ネイドが叫ぶと運転手が馬車に向かって走り出した。怪物は運転手の動きに反応するが、ネイドの鋭い睨みに動けずにいる。

 運転手が馬車に乗り込むと、馬車は勢いよく走りだした。

「さてと」

 ネイドは怪物を見ながら、大きく叫んだ。

「来いよ!」

「グオオオオオオオオオオオオ!」

 牛の頭にヒトの体を持つ怪物は雄叫びを上げながら、もの凄い速さでネイドに襲い掛かった。




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