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100Gのドラゴン  作者: カエル
第三章
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ドラゴンフェスタ エピローグ

「やっぱり中止か」

「そうらしい」

「まぁ、仕方がないな」

 アドとネイドは、ある病室に向かっていた。ネイドの手には、一本の花が握られている。

 ドラゴンフェスタの中止が正式に決まった。

 被害の大きさ、死傷者の数を考えれば、当然の結論だろう。さらに元々、ドラゴンフェスタでは、裏で違法な取引が行われているという噂はされており、問題視されていた。だが、人気の高さから、その声は黙殺されていた。

 しかし、今回の事件がきっかけで、その声が一気に表に出ることになった。そのことも、ドラゴンフェスタが中止となった原因の一つだろう。

 しかし、違法な取引の結果で、あの場にいたダイヤモンドドラゴンによって、多くの命が救われたのだから皮肉なものだ。

 ドラゴンフェスタを襲ったあの小さなドラゴンについては、ほとんどが、自爆してしまったため、サンプルが少なく、詳しく調べることができなかった。分かった事といえば、今までに発見されたことのない、未知のドラゴンだということだけだった。

「結局、あのドラゴンは何だったんだろうな?」

 ネイドが尋ねると、アドは仮説だが、と前置きした上で自分の考えを述べる。

「あのドラゴンはヒトの手で作られたかもしれない」

 アドの考えを聞いたネイドは、うんと頷く。

「お前もそう思うか」

 どうやら、ネイドも同じことを考えていたらしい。

「別のドラゴンに反応して自爆するなんて、どう考えても、おかしいからな」

 捕食するためでもなく、身を守るためでもない。生物として、全くの無意味な行動だ。

「どうやったかは、分からないが、あの変化はヒトが関与している可能性が高い」

 もし、ヒトの手が加わっているとしたら、その目的はドラゴンを殺すことだろうと考えられる。

「俺は、ドラゴンリジェクターのメンバーが犯人だと思う」

 ネイドの考えにアドも同意する。本当にヒトの手で作られたドラゴンだとしたらだが。

「ところで、その花はなんだ?」

 ネイドは不思議そうな顔をする。

「見舞いと言ったら花だろ?」

「それは分かるけど、どうして一本だけなんだ?」

 ネイドは、なんとも複雑そうな顔をする。

「いや、本当は花束を用意していたのだが……メイに食べられた」

「……なるほど」

 草食性のドラゴンは、肉食性のドラゴンと比べ、食欲が旺盛だ。果物、木の葉、雑草、植物性のものなら何でも食べる。勿論、花も好物の一つだ。

「注意はしていたんだが、気付いた時には、この一本だけになってた」

 落ち込むネイドだが、本来なら一本だけ残ったのだけでも奇跡に近い。だが、それを言ったところで、慰めにはならないだろう。

「まぁ、その、なんだ、その……」

 ネイドを慰めようとするアドだったが、なかなか言葉が思い付かない。

「大事なのは、気持ちだよ!気持ち!」 

「そうかなぁ?」

 ネイドは、首を傾げる。

「そうだな!」

 だが、一秒後には元に戻っていた。この切り替えの早さはネイドの長所だ。アドは羨ましいと思う。

 そうこうしている内に、目的の病室にたどり着く。四人部屋の一番奥に彼女はいた。怪我の影響か、事件のショックからか、なんだか落ち込んでいるように見える。

「こんにちは、具合はどうですか?」

 そんな彼女の様子に気付いているのか、いないのか、ネイドはいつもと同じ調子で彼女に話し掛けた。

 彼女がこちらを見る。ネイドを見ると彼女は安心したように微笑んだ。


「この子とこの子は、いい♪かけ合わせてみよう♪」

 少女は、小さなドラゴンを見て、楽しそうに微笑む。その横では『彼』が試験管を不思議そうに眺めていた。

「触らないほうがいいよ♪危険な薬品もたくさんあるから♬」

 少女は優しく『彼』に話し掛ける。

『彼』と彼女がいる場所は、かつて動物実験が行われていた施設だった。しかし、資金不足から閉鎖に追い込まれた。ここには、以前の設備が処分されることもなく、そのまま放置されている。

『ここで何をするつもりだ?』

 という視線を『彼』は少女に向ける。その視線に少女は微笑みで返す。

「この子達を作り替えようと思ってね♬とりあえず、色々試してみるよ♪」

 玩具で遊ぶ子供のようにウキウキと話す少女を『彼』はしばらく眺めていたが、やがて部屋の隅に行き、腰を下ろした。大きな欠伸をして、ウトウトとし始める。

「ところでさ♪」

 少女は、試験管に入った液体を見ながら『彼』に話し掛ける。

「そろそろ、君にも名前が必要だと思うのだけど、どうかな?私達夫婦なのに、いつまでも『君』じゃあ、なんだか他人行儀だしね♪あ、そういえば、まだ私の名前教えてなかったね♪ごめん♫ごめん♫私の名前はね……」

 少女は笑顔で、名前のない『彼』を見る。『彼』は、純真無垢な顔でスヤスヤと眠っていた。


 とある施設の最上階にある部屋。そこに一人の男が乗り込む。

「クナシ様!」

 部屋の中には、少女が一人で机に向かい仕事をしていた。クナシと呼ばれた少女は、「はい」と答える。

「先日は、どこに行ってらっしゃったのですか?」

 凄まじい剣幕で問いただす男だったが、少女は平然と答える。

「ドラゴンリジェクターに潜入していました」

 あっさりと答えた少女に男は唖然となる。そして、顔が林檎の様に赤く染まった。

「な、何を考えているのですか!貴方は!」

 男は机をドンと叩く。

「何かあったらどうするのですか!貴方は組織のトップなのですよ!」

 凄まじい剣幕で叫ぶ男を少女は、じっと見る。

「ごめんなさい」

 ニコリと笑う。その屈託のない表情に男は毒気を抜かれた。はぁ、と男は溜息を吐く。

「どうやって潜入したのですか?」

 さっきより、若干穏やかに彼は問いただす。

「白い恰好をしたら割と簡単に潜入できました」

 男は頭を抱える。

「もし、貴方だとバレたら、どうしたのですか!」

 よもや殺されはしないだろうが、何らかの暴力を振るわれた可能性は十分にある。

「しかし、彼らは、私達の組織から分離したのですから、私達にも責任があると思うのです。だとしたら、彼らが何をしているのかを知る必要があります」

 少女は強い口調で答える。男は少し気圧されたが、気を取り直す。

「一理ありますが、なにも貴方がしなくても……」

 少女は、真っ直ぐに男の目を見る。

「ヒトから聞くのではなく、自分で見聞きしたかったのです。私は、組織のトップですから」

 少女は再びニコリと微笑むと、男は再び溜息を吐いた。この少女には何を言っても無駄だと悟り、諦める。

「話は分かりました。それで、何か分かりましたか?」

 少女は顎に手をやり、少し考える。

「ドラゴンリジェクターは、想像以上に危険な集まりでした。詳細は今度の会議で話します」

 男は、分かりましたと少女に答え、部屋を後にした。

 一人は屋に残された少女は考える。

 ドラゴンは危険なものだ。だが、ドラゴンリジェクターのやり方では、何も変わらない。その上、ヒトを傷つけては、誰も賛同しなくなる。少しずつ変えていかなければならないのだ。少しずつ、少しずつ。

 それにしても。

「まさか、貴方を見かけるとは思いませんでした」

 クナシは、唇の端を上げて笑う。

「それも、ドラゴンと一緒だなんて」

 クナシの表情から笑顔が消えた。代わりに、その目に暗い色が浮かぶ。

 私と同じ思いをした彼。それなのにどうして。

「貴方は、こちら側のヒトです」

 決して、ドラゴンと一緒にいるべきではない。クナシは、あの時の少年を思い出しながら、彼の目を覚ます方法を考え始めた。


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