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100Gのドラゴン  作者: カエル
第三章
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19/61

ドラゴンフェスタ5

 ジャイルが初めてドラゴンを見たのは、彼がまだ三つの時だった。

 近所の家から逃げ出したドラゴンで、体長は一メートル程だったが、当時の彼にとっては、本で読んだ怪獣そのものだった。そのドラゴンは、家の塀を乗り越えると、庭で遊んでいたジャイルに襲い掛かった。幸い、すぐ両親が気付いたため命に別状はなかったが、腕に深い傷を負ってしまった。それ以来、彼はドラゴンを見ると息ができなくなり、立っていられなくなった。

 少年になる頃には、小さなドラゴンになら、なんとか触れることができるようになったが、幼少期に受けた心の傷はずっと残ったままだった。

「ドラゴンなんて危険な生物、この世からいなくなればいい」

 至る所にいるドラゴンを見るたびに、彼はそう思った。

 その組織の存在を知った時、ジャイルは迷うことなく参加した。

 組織は、彼と同じくドラゴンを忌み嫌う者達で構成されていた。自分と同じ考えのヒトがたくさんいる。それだけで嬉しかった。ジャイルは組織で精力的に働いた。その功績が認められ、彼は幹部クラスに抜擢される。

 だが、次第にジャイルは組織に不満を持ち始めた。組織の主な活動と言ったら大声でドラゴンの排除を訴えるだけ。これでは甘すぎると感じていた。

「今のやり方ではぬる過ぎる。もっと直接行動に示すべきだ」

「直接とは?」

「決まっている。世界中のドラゴンを殺すんだ!」

 世界中のドラゴンを一匹残らず殺すべきだ。会議のたびに、ジャイルはそう主張した。しかし、その主張はことごとく却下される。ジャイルは何度もドラゴンを殺すべと大声で叫んだが、その主張が聞き入れられることはなかった。

 不満が爆発したジャイルは、自分と考えを同じくする部下と共に組織を抜けた。そして、部下と共に新たな組織を立ち上げる。


 彼は、組織の名を『ドラゴンリジェクター』と名付けた。

 

 ドラゴンリジェクターは、表では、ドラゴン排除の抗議活動をしながら、裏ではドラゴンの虐殺やドラゴンを売買している者への暴力、ドラゴンの研究家に対する破壊行動などの犯罪行為を行った。

 ドラゴンリジェクターでは、ドラゴンの研究もしている。

ただし、それはドラゴンベンチャーのものとは違っていた。その研究はドラゴンに対する憎悪に溢れている。ドラゴンの急所やドラゴンにのみ効く毒など、研究はドラゴンを殺すことを目的としていた。

 ある時、ジャイルは実験のために小型のハムドラゴンを大量に取り寄せた。しかし、実際に届いたのはポリアドラゴンだった。間違えて届いたものだったが、ジャイルは特に気にせずに、ポリアドラゴンを実験体にした。

 その日、行われたのは、ドラゴンのみを殺し、ヒトには害のない細菌の実験だった。

ジャイルは他のドラゴンと共にポリアドラゴンにもその細菌を注入した。

結果、他のドラゴンは全滅したがポリアドラゴンだけが、一匹も死ななかった。

 ジャイルは、ポリアドラゴンにはその細菌に対する免疫があるのだろと考えた。生き残ったポリアドラゴン達は、別の実験に使用するために、そのまま飼育されることになる。

 その時は、誰もポリアドラゴンに起きた変化に気が付かなかった。実際、ポリアドラゴンの見た目は、全く変化がなかった。

 変化が起きたのは、次の世代。彼らの子供達だった。

 生まれてきた子供達は、明らかに親とは違っていた。足は太くなり、翼は長距離を飛ぶために適したものとなっていた。そして、一番違っていたのは自爆するという特徴だった。

 衝撃を受けた時や恐怖を感じた時に、直ぐ自爆する。爆発はそれほど大きくなかったが、雇っていたヒトや部下の指が吹き飛ぶということが、何度もあった。

 本来なら、直ぐ処分されるべきものだったが、ジャイルは処分せずに飼育を続けた。新しく生まれたドラゴンには、奇跡的に繁殖力があった。それも、ポリアドラゴンの三倍以上の驚くべきものだった。ジャイルは、新しく生まれたドラゴンを増やすと共に、そのドラゴンを研究した。そして、改良を重ねた結果、ドラゴンのみに反応して爆発するドラゴンを作ることに成功する。


 ジャイルは、そのドラゴンを『ボムドラゴン』と名付けた。


「ははっはは、あはははははは」

 ドラゴンフェスタから遠く離れた建物の屋上でジャイルは、双眼鏡を覗き、ドラゴンフェスタの様子を見ていた。自分の力で、多くのドラゴンが死んでいくことに笑いが止まらない。

 ドラゴンが多く集まるドラゴンフェスタは、ボムドラゴンを使うのに最適だった。一度の爆発で多くのドラゴンを殺すことができるし、ドラゴンを売買するヒトもついでに排除することができる。まさに一石二鳥だ。

 ジャイルは、いずれボムドラゴンを世界中に撒こうと計画していた。

 そうして、ドラゴンの数を減らし、いずれは世界中からドラゴンを消すことを企んでいた。もちろん、そんなことは、限りなく不可能に近い。だが、自分の力に酔いしれるジャイルは本気だった。

 計画の成功を確信して、ジャイルはニヤリと笑った。


 不敵な笑いを浮かべ、双眼鏡を覗くジェイル。その笑顔を消したのは一発の爆発音だった。その爆発は、地上からではない。ジャイルは爆発音がした方向に双眼鏡を向ける。

 まるで、花火のように空に炎が上がっていた。それを見たジャイルは舌打ちをする。

(誤爆か?まぁ、何千匹といるから、誤爆する個体がいても仕方が……)

 ドォン、ドォン、ドォン。

 今度は三回、爆発音がした。

 ドォン、ドォン、ドォン、ドォン、ドォン、ドォン。

 今度は七回。

 ドォン、ドォン、ドォン、ドォン、ドォン、ドォン、ドォン、ドォン、ドォン。

 今度は十回。

 空中で起きる爆発の回数は、どんどん増えていく。ジャイルは立ち上がり叫んだ。

「何が起きている?」


 ボムドラゴンは、度重なる改良によって、すでにポリアドラゴンとは全くの別種となっている。『近くにいる別種のドラゴンに貼りついて自爆する』その行動は、もはや本能として刻み込まれていた。空中で爆発しているボムドラゴンは、その本能から外れた行動はとっていない。彼らの目の前には、別種のドラゴンが飛んでいる。本能に基づいて、そのドラゴンに貼りつき自爆する。

 ただし、そのドラゴンが他のドラゴンと決定的に違っていた。そのドラゴンは、ボムドラゴンの爆発を受けても、決して死ぬことはなかった。


 無数のボムドラゴンが、そのドラゴンに群がり、自爆する。しかし、炎の中から現れる、そのドラゴンの体には傷一つ付いていない。そのドラゴンは悠然と空を飛ぶ。その体に、またボムドラゴンが群がり、自爆する。その繰り返しだ。

 その光景を地上からアドとネイドが見上げる。

「上手くいっているな!」

「ああ!」

 あの小さなドラゴンは、近くのドラゴンに取り付いて爆発する。アドは、その習性を利用することを思い付いた。

 まず、ドラゴンを空に飛ばす。そうすれば、あの小さなドラゴンは、近くに来たドラゴンに取り付き爆発するだろう。空中で爆発させてしまえば、地上に被害が及ぶことはない。そう考えた。

 ただし、この作戦には、普通のドラゴンは、使えない。あっという間に爆発に巻き込まれて死んでしまう。小さなドラゴンを全て空中で爆発させるには、爆発に巻き込まれても、平気なドラゴンが必要だった。

 そんなことが、できるドラゴンは一種類しかいない。


『もし、全てのドラゴンが同じ大きさだとしたら、一番強いドラゴンは何か?』

 と言う疑問の中で、必ず名が上がるドラゴンがいる


 ダイヤモンドドラゴン。

 体長約二メートル。名前の通り、体はとても堅く、名前と違って熱にとても強い。そして、名前の通り、全身が美しく輝いている。その防御力は、ドラゴンの中で一番高く、猛獣の牙を折り、銃弾を弾き飛ばし、何トンもの重さにも耐え抜き、たとえマグマの中に落ちたとしても、マグマが冷えて固まれば、そこから這い出てくる。

 しかも、それだけの堅さを持ちながらも、体はとてもしなやかに動き、飛行も可能である。

 ダイヤモンドドラゴンの体は、様々な分野に応用が可能とされ、期待されているが、現状、彼らの体の仕組みはほとんど解明されていない。

 その理由の一つとして、彼らは個体数がとても少なく、絶滅の心配がある。そのため、捕ることができるは、あくまでも繁殖のために限定されており、実験のために捕ることが禁止されている。個体数が少ない原因としては、繁殖に使うエネルギーを自身の防御に使っているためではないのかと、言われている。

 勿論、売買も禁止されている。もし違反すれば厳しく処罰されるが、その美しさ、希少さから、裏では高値で取引されている。


「くそ!」

 ジャイルは地面に双眼鏡を叩きつけた。

「何で、ダイヤモンドドラゴンがいる!?」

 事前の調査では、ダイヤモンドドラゴンを取引する店はなかったはずだ。そもそもダイヤモンドドラゴンは、売買が禁止されている。フェスタにいるはずがないのだ。

「ど、どうしましょう?」

 ジャイルの部下の一人が不安そうに、意見を求めてくる。

「貸せ!」

 ジャイルは、部下の双眼鏡を奪い取る。爆炎でよく見えないが、ボムドラゴンの数は、もうかなり減っている。全ていなくなるのも時間の問題だろう。

「……撤退する。急げ!」

「は、はい!」

 部下達は、急いで撤退の準備をする。ジャイルは目瞑り、考える。

 まぁいい。今回は失敗したが、次はボムドラゴンをもっと強力に改良してやる。そうして、世界中で行われるドラゴンのイベントを爆破する。全世界にドラゴンは危険な存在だと思い知らせてやる。

「撤退の準備はできたか?」

 ジャイルは部下達に呼び掛けた。しかし、返事はない。

「おい、準備はできたかと聞いて……」

 目を開けて、周りを見渡す。

 五人いた部下が、誰もいない。屋上にいたのはジャイル一人だけだった。


「こんにちは♬」


 呆然としていたジャイルの耳に声が聞こえた。ジャイルは怯えた猫のように、そちらを向く。そこには、二人のヒトが立っていた。

 一人は少女。もう一人はフードを被った男。

(ば、馬鹿な!さっきまで、確かに誰もいなかったのに!)

「あれ、貴方が作ったの?」

 少女は、道でも聞くかのような自然さだった。

「う、動くな!」

 ジャイルは、少女の問いを無視して懐から抜いた拳銃を少女に向けた。銃を向けられた少女に焦りは全くない。むしろ、面白そうに笑っている。

「お、おま、お前らは何だ?ぶ、ぶ、部下を、ど、どこに?」

 恐怖と混乱でうまく舌が回らない。そんなジャイルを見て、少女は、笑った。

 少女の馬鹿にしたような笑いに、ジャイルの頭に血が上った。さっきまでの恐怖が吹き飛ぶ。

「質問に答えろ!お前らは何者だ!部下をどこにやった!」

 少女は笑うのをやめ、人差し指を立てた。

「まず、貴方の部下をどこにやったのか?と言う質問に答えるね♪下を見てみて♬」

 ジャイルは最初、少女が何を言っているのか分からなかったが、あることに思い至る。少女に銃を向けながら、屋上から地面を見る。

 五人全員が、地面に叩きつけられていた。

「邪魔だったから、捨てちゃった♩」

 少女は無邪気に笑う。

「うあああああああああ!」

 一度は消えた恐怖と混乱が再び沸き起こる。ジャイルは絶叫しながら、少女に向かって引き金を引いた。だが、照準が定まっておらず、震える手で放たれた銃弾は、少女ではなく男の方に向かって飛んで行く。銃弾は男の頭上僅か数ミリを掠める。その際に、男がかぶっていたフードを吹き飛ばした。

「お、お前!そ、その顔!?」

 フードの下から現れた男の素顔にジャイルは驚愕する。

「二つ目。私達が何者かという質問に答えるね♪」

 少女は二本目の指を立てる。そして、満面の笑みを作った。


「私達はフラマ。ドラゴンビトだよ♬」


 フードの下から現れた男の素顔。それは、まさしくドラゴンそのものだった。


「あのドラゴンはボムドラゴンと言って、偶然できたもので……」

「フムフム♬」

「ドラゴンの臭いに反応して爆発するように……改良……」

「なるほど♬♬」

 建物の屋上で、ジャイルは少女の質問に答えていた。嘘を付いたと判断されれば、容赦なく骨を砕かれる。もう既にジャイルの手足の骨は砕かれており、満足に動くことも出来ない。

「知りたいことは、大体分かったよ♬♬」

 少女は、満足そうに笑う。ジャイルは、ほっとしたように息を吐く。

「あっ、そうだ!肝心なことを聞いてなかった♪」

 少女は蛇の様な目で、ジャイルの目を覗く。

「そのドラゴンを繁殖させている場所はどこ?」

 その質問に、ジャイルは目を見開く。あそこは、彼にとって、ドラゴンを殺すための大事な場所だ。答える訳にはいかない。

「……」

 何も喋らなくなったジャイルの頭を男が掴む。折れた手足を忘れるほどの激痛が、ジャイルを襲う。

「があああああ、キあああリあああアああああ国、のああああ、なんあああぽあああう……」

「ああ♪あそこか♫」

 男がジャイルを離す。目からは涙が、口からは涎が垂れている。

「色々教えてくれて、ありがとう♩」

 少女は上機嫌に礼を言う。

「た、たす、たのむ、たすけ……」

「お礼に、アドバイスを上げよう♪」

 助けを求めるジャイルを無視して、少女は話し始めた。

「いつまでも現場に残ってちゃあ駄目だよ?犯行後、即撤退♬これは基本♩しかも、ご丁寧にあんな煙まで上げてたらダメ♪あれじゃあ、見つけてくれと言っているようなもんだよ?この国だからよかったけど、憲兵が優秀な他の国だったら、直ぐに捕まっちゃうからね♪いい?」

「……」

「返事は?」

「は、はい!」

「うん、よし!」

 少女は、ジャイルに背を向けて歩き始める。その後ろを男が付いて行く。

(た、助かった)

 安堵するジャイルに少女が話し掛ける。

「じゃあ、今言ったこと、ちゃんと来世で参考にしてね♪」

「え?」

 少女と男は、助走もなしに三十メートル以上離れている建物に飛び移った。

「どういう意味だ?」

 ジャイルは、少女の言葉の意味を理解できなかった。少女たちが去り、安心したからか、急に手足の痛みが襲ってきた。痛みで、動くことができずに助けも呼べない。

 動けないジャイルの近くにボムドラゴンが一匹降りてきた。トコトコとこちらにやって来る。ジャイルが放ったボムドラゴンはほとんど自爆してしまった。こいつは生き残りだろうか?

「なんだ、役立たずには用はない。あっちに行け!」

 ボムドラゴンは、ジャイルの近くにまで来ると、ピタリと止まった。その体の色が変化し始める。

「お、おい。う、嘘だろ?」

 ボムドラゴンの体はどんどん赤く変色していく。炎のように、血のように。

「ど、どうして?」

 ここには、ドラゴンはいない。なのに、なんで、何で赤くなる? 

「うわああああああ!や、やめろ!やめ……」


 ボン。


『新種か?謎のドラゴンの大群がドラゴンフェスタを襲撃!死者、負傷者多数』

 新聞にはドラゴンフェスタで起きた事件が毎日、大きく取り上げられた。謎のドラゴンの正体は、まだ解明されていない。

 新聞には、ドラゴンフェスタから離れた屋上で起きた爆発も取り上げられている。

『建物の下で、五人の死体を発見。また、爆発に巻き込まれたと思われる焼死体も発見された。死体には何故か爆発前に手足の骨を折られている形跡があった。調査の結果、建物の下で死んでいた五人はドラゴンリジェクターのメンバーであることが判明したが、焼死体の身元は未だに不明である』

 

 ドラゴンフェスタの事件が大きく取り上げられる片隅に、小さい記事も載った。

『キリア国の南方の工場で謎の爆発。工場では、大量のドラゴンが飼育されていたかのような形跡が発見されたが、現場でドラゴンは死体も含め、一匹も発見されなかった』


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