プロローグ『男と女』
疫病や大飢饉の不安から魔女狩りが盛んに行われていた時代。この世に無常を感じながらも美しい景色に癒され前を向く魔女と眷属未満の旅物語。※拷問や虐待、胸クソ展開、際どいシーンなどが多数あります。救いのないシーンが多いです。大人向け。
プロローグ『男と女』
鬱蒼と茂った森を抜けると小さな村に到着した。肉の焼けた焦げ臭い匂いが鼻をつき、女は顔をしかめた。
「やれやれ、ようやく休めると思ったのに」
もうすべては終わった後なのだろう。
厚い板で作られた十字架が二つ焼け落ちており、そこに真っ黒い人間の形をした炭がくっついている。
村を見回すとどの家も戸を閉め、まるで悪魔に見つからないようにと息を潜めているようだ。
「こんな小さな村でも魔女狩りが行われているとはな」
女は憐憫の眼差しをその炭の塊に向けた。
「これは、この者たちの私物か」
まるでついでとばかりに服や本が無造作に捨てられ焼け残っている。
女はその中から美しい額縁を拾い上げた。
「ほう、随分ボロボロにされているが、これはお見事──」
「……っ……ぅ、ぁ、あ」
「!」
死んでいると思った塊が急に呻きだす。だが女は怯むどころかまじまじと見つめる。
「驚いた。まだ息があるのか」
「ッツ……メリ、サ……メリッサ、お嬢、様は……」
メリッサ──もう一つの塊の名前だろう。念のため確認してみるが、すでに事切れているようだ。
「残念だが……」
「ぁ……アァッ……」
聞くなりその塊は焼けた喉からしゃがれた嗚咽を漏らし、ガクンガクンと不格好に体を震わせる。
「……お前も長くはないだろう。言い残したことがあれば聞いてやる」
「……たい」
「ん? なんだ?」
「滝が……見たい……彼女が描いた……」
「まさかコレのことか? 実在するのか?」
女は先ほど拾い上げた虹色に光る滝の絵を見せる。目が見えている保証はないが塊は大きく首を縦に振った。
「そうか……ふむ。いい暇潰しになりそうじゃ。場所は分かるか?」
塊は再び首を縦に振った。女は満足げに微笑み、腰に下げている小瓶から白く輝く粉を取り出し塊に振り撒いた。
「──ッツ?」
「白銀の龍の鱗から出来た超回復ポーションだ。激レアだぞ。有難く思え」
真っ白な光に包まれ少しずつだが人間の姿を取り戻し始める。だが女は顎に手をやり、小首を傾げる。
「ふむ。すぐに復活せんところを見ると、さすがに生命力が足りんか」
そして確認するように聞く。
「お前、まだ生きたいか? 例え人間でなくなっても構わんか?」
男は頷く。
「美しい景色が見たい……アナタと一緒に──」
「いいだろう」
女は自分の唇を八重歯で噛み、その血を焼け爛れた男の舌に舐め取らせた。
「ぅっ……」
魔力の力でボロボロの服も再生していく。恰好を見るに男は執事のようだ。
黒髪に碧い瞳──目鼻立ちがハッキリしていて、手足は長く、どこかオリエンタルな色気を感じさせる。
「ほう……なかなかに渋い男前じゃな」
そう言って美術品を嗜む様に男の頬と顎鬚をなぞる。
「道案内は頼んだぞ」
「……? ──ッ……」
まだ完全に回復していない男はその場に崩れるように気絶した。




