第214話 見抜く者
夕方。
空は赤く染まり始めていた。
砂漠の一日は短い。
静かに終わりへ向かっている。
エレノアは外にいた。
一人で。
砂の上に立っている。
風は弱い。
だが。
足元の感覚は消えない。
ネファルが言う。
(安定している)
ラグナが言う。
(向こうも見てるな)
ヴェルナシアが囁く。
(近い)
エレノアは目を閉じる。
ほんの一瞬。
そして開く。
足音がする。
振り返らない。
分かっている。
ヴァルクだった。
隣に立つ。
何も言わない。
しばらく沈黙。
砂が流れる音だけ。
やがて。
ヴァルクが口を開いた。
「入ったな」
短い言葉。
だが。
逃げ場はない。
エレノアは否定しない。
「……はい」
それだけ。
ヴァルクは前を見たまま言う。
「どこまでだ」
問い。
だが責めていない。
確認している。
エレノアは少しだけ考える。
言葉を選ぶ。
「触れました」
それだけ。
余計な説明はしない。
沈黙。
長い。
ヴァルクは目を閉じる。
ほんの一瞬。
そして言う。
「……そうか」
それだけだった。
怒らない。
問い詰めない。
だが。
終わっていない。
ヴァルクは続ける。
「どうだった」
エレノアは視線を落とさない。
「……壊すものではありません」
はっきりと言う。
ヴァルクの目がわずかに動く。
エレノアを見る。
「断言するか」
エレノアは頷く。
「はい」
ネファルが沈黙する。
ラグナが言う。
(言い切るな)
ヴェルナシアが言う。
(揺らがない)
ヴァルクは視線を外す。
再び前へ。
そして言う。
「人は壊す」
低い声。
静かだが、重い。
エレノアは答える。
「知っています」
「ですが」
少しだけ間を置く。
「……あれは違います」
沈黙。
風が止まる。
ヴァルクは言う。
「違わなかった場合は」
短い問い。
逃げられない。
エレノアは少しだけ息を整える。
そして。
「その時は」
言葉を選ぶ。
「私が止めます」
ラグナが小さく笑う。
(言ったな)
ネファルが言う。
(覚悟)
ヴェルナシアが囁く。
(本気)
ヴァルクは何も言わない。
ただ。
ほんの少しだけ。
視線をエレノアに向ける。
そして。
「……そうか」
それだけだった。
だが。
意味は重い。
否定しない。
認めてもいない。
ただ。
受け取った。
ヴァルクは一歩下がる。
「好きにしろ」
背を向ける。
歩き出す。
止めない。
任せた。
それだけだった。
エレノアはその背中を見送る。
何も言わない。
ネファルが言う。
(任された)
ラグナが言う。
(怖ぇなこの人)
ヴェルナシアが囁く。
(見ている)
エレノアは静かに空を見上げる。
夕焼けが広がる。
変わらない。
だが。
確実に。
流れは変わっている。
遠くで。
何かが動いている。
それを感じながら。
エレノアは小さく言った。
「……来ますね」
風が止まる。
その言葉に応えるように。




