表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦わない召喚士エレノアの異世界記録 ――名を受け取り、世界に触れる  作者: ぷにゅん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

179/260

第163話 削られた跡

嵐は去った。


炉は止まり、

導線は沈黙している。


だが。


静寂は、完全ではない。


エレノアは膝をつき、焼けた導線に触れた。


熱はない。


焦げた匂いも薄い。


だが、何かが残っている。


「……綺麗すぎる」


ラグナが反応する。


「焼き切れたんだろ?」


ネファルが低く返す。


「違う」


「自然の崩壊ではない」


ルミナがそっと光る。


「痛みが、均一なの」


均一。


その言葉に、エレノアは目を細める。


確かに。


地脈の乱れにしては、歪みが整いすぎている。


偶発的な破断ではない。


切断。


設計された停止。



エレノアは導線の接合部を観察する。


錬金的な加工痕。


金属ではない。


石でもない。


地脈を通すための媒介素材。


削り取られている。


「これ……」


ラグナが近づく。


「なんだ?」


エレノアはゆっくりと言う。


「流れを集めるための構造」


「抽出してる」


ネファルの声が落ちる。


「補助ではないな」


「吸い上げている」


ルミナが小さく震える。


「だから、痩せてたんだ」


痩せていた。


削られていた。


自然に、ではない。


意図的に。



エレノアは立ち上がる。


視線を広げる。


炉の奥。


石壁の裏。


床の下。


見えないところに、導線は続いている。


「ここだけじゃない」


ラグナが鼻で笑う。


「当然だろ」


「こんな面倒なもん、一箇所で終わらせるか?」


ネファルは静かだ。


「設計思想がある」


「長期運用前提だ」


短期的な暴走ではない。


計画。


準備。


段階。



エレノアの胸が、わずかに重くなる。


これは、誰かの焦りではない。


覚悟だ。


長く続けるための構造。


止められる前提を含んだ設計。


つまり――


対策もある。


ルミナがそっと言う。


「風は、怒ってなかった」


エレノアは頷く。


「壊しに来たんじゃない」


「止めに来た」


ネファルが小さく笑う。


「均衡は、即断しない」


「だが、続けば……」


言葉は途切れる。


想像は、できる。



エレノアは石壁に手を当てる。


まだ、微かに流れがある。


「第四……」


言いかけて止まる。


番号は刻まれていない。


だが、構造は複数前提だ。


「他にもある」


ラグナが楽しそうに言う。


「燃やす場所が増えたな」


ネファルが即座に否定する。


「壊せば逃げる」


「追う側になる」


ルミナが不安そうに揺れる。


「でも、放っておけない」


エレノアは目を閉じる。


壊すか。


整えるか。


あの時、風の前で選んだ言葉が蘇る。


守る力は、奪う力と同じじゃない。


なら。


どう止める。



地面の奥から、微かな振動が伝わる。


ここではない。


もっと遠く。


同じ設計。


同じ構造。


「……動いてる」


ネファルが即座に反応する。


「他拠点だ」


ラグナの炎が揺れる。


「面倒な規模だな」


ルミナが光を強める。


「世界、広いね」


エレノアは静かに息を吐く。


ここは始まりだ。


中心ではない。


触れただけ。


削られた跡を見ただけ。


だが。


これは自然災害ではない。


誰かの手だ。


誰かの選択だ。


そして。


止めるなら、構造ごと。


「……調べる」


小さな声。


決意は大きくない。


だが、逃げていない。


ネファルが低く言う。


「ようやく“敵”を見たな」


エレノアは首を振る。


「敵じゃない」


「選択を間違えた誰か」


その言葉に、ラグナは何も言わない。


ルミナは静かに光る。


ネファルは、わずかに微笑む。


「なら、難しいぞ」


「正しい悪より、正しい焦りの方が」


風が、わずかに吹く。


嵐ではない。


ただの気流。


だが。


世界は、確実に繋がっている。


エレノアは遠くを見つめる。


ここから先は、冒険ではない。


構造だ。


削られた跡の向こう。


まだ見えない手。


その存在が、初めて輪郭を持った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ