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1.日常


 切れかかったネオンにチラホラ明かりがともる頃、私は家を出る。いつもなら人並みに朝出かけるのだが、今日は特別な仕事が入ったのだ。安いアパートの階段を下りれば、目の前のゴミの散らばる汚い道端に、汚らしい人間が幾人も地べたに座り込み、薬か煙草か分からんものをふかしながら酒を飲んでいる。


 道端でそのまま寝こけている者もおり、その服の中から持ち物を盗もうと子供が群がっている。それを露出の激しいきらびやかに着飾った女たちが、煙草片手にあきれ顔で眺めていた。


 そんな汚い街が私の住んでいる町、いわゆるスラム街だ。麻薬、盗み、喧嘩、人殺しまで何でもあり、警察からも見放されているこの無法地帯、世界の掃きだめみたいな場所。そんな場所が私の生きる場所だ。


 足早に道を歩いていると、不意に名前を呼ばれて振り返れば、道の反対側の鉄格子のハマったタバコ屋から中年の男が声を張り上げていた。


「ルイゼ! これからパーズの所に行くのか?」


「そーだけどぉー!」


 聞こえるようにこちらも声を張り上げれば、タバコ屋の親父は日焼けして真っ黒になった腕を上げてさらに叫ぶ


「パーズに伝えてくれ! 先月分のツケ、明日までに払わねーなら、てめぇーの家ごとハチの巣にしてやるってな!」


「あいよー! 伝えとくわー」


 手を上げて気だるげに返事をして、先を急ぐべく足を進める。パーズの野郎、金がないわけじゃないくせにツケで買い物する癖を直しやがれってんだ。やれやれと頭を振りながら、短パンでは肌寒い夜の道を通り抜けていく


「よぉー、ルイゼ!」

「ルイゼじゃねぇーか、金貸してくれよ」

「馬鹿、撃ち殺されるぞ」

「ギャハハハハ」


 道に転がる奴らも顔なじみばかりで、そんな下らない会話を聞き流しながら目的の店へつながる路地へと入る。スラム街の路地などまともな道ではなく、ゴミ溜めと大差ない。


「ルイゼ!」


 再び声をかけられ、今度は「何だよ!!」と苛立たしげに後ろを振り返れば誰もいない……と思い、聞き覚えのある声の主を思い出し下を見る。杖を突き腰の曲がった白髪のばーさんが、こちらを睨み見上げている。


「あっ、雑貨屋のオババ」


「あっ!! じゃないよこのボンクラ!!」


そう言って、私の向こうずねを杖で殴る。


「痛った!!!!! ちょ!! なにすんのさ!!」


「ルイゼ! うちに頼んでたあの大量の本! いつ取りに来るんだい!! さっさと取りに来な!!!」


「うぐっ……」


「毎度毎度小難しそうな本を買うのはいいけどね! 家に置き場がないなら買うんじゃないよ!! うちのありがたい収入源様だけどね! うちは倉庫じゃないんだよ!!」


「スミマセン……仕事から帰ってきたら全部引き取りに行きます……」


「言ったね! 今週中に取りに来なかったら、全部表通りの本屋に売っパラっちまうからね!!」


「はい……スミマセン……」


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