第2話 ギャルゲーマスターの俺が牢屋生活?
――異世界で第二の人生を歩もうとしていた俺は、気づけば牢屋にぶち込まれていた。
夢にまで見たファンタジー世界、剣と魔法の世界、ハーレムを築くはずの舞台。その第一歩が、まさか石畳の街角ではなく、冷たい鉄格子の向こうから始まるとは。
「おい、静かにしろ!」
荒々しい声とともに、鉄格子の扉がガシャリと鳴った。俺は藁の上に座り込み、思わず肩をすくめる。
広場で美少女を助けようとして――いや、助けようとしただけなのに、彼女から「変質者!」と叫ばれた。次の瞬間、衛兵が駆けつけてきて、俺は取り押さえられ……そのまま牢屋直行。
(なんでだよ! 俺はただ、定石通りに攻略を始めただけなのに!)
悔しさをかみしめる俺に、衛兵の一人が鼻で笑った。
「ブタがブタ小屋に入るなんて、自然なことだろうが」
「ぶ、ブタじゃない! 俺はタイゾウだ! ギャルゲーマスターだ!」
必死に抗議するが、周囲は冷たい視線ばかり。
そんな中、隣の牢から聞き覚えのある笑い声が響いた。
「はっはっは! やっぱり捕まってやがる!」
「……お前!」
鉄格子の隙間から顔を出したのは、昨日、美少女に絡んでいたあの悪漢だった。
「なんでここに!?」
「なんでって、俺の職場だからだよ。俺、新人衛兵な」
「はぁ!?」
「昨日は休暇でナンパしてただけさ。そしたらさぁ、面白ぇ生物に出会っちまってな。……そう、女の子に話しかけただけで“変質者”って叫ばれる珍獣にな!」
新人衛兵は腹を抱えて爆笑する。
「ち、違う! 本当に話しかけただけだ! 助けようとしたんだ!」
「だよなぁ。俺も見てたぜ。お前、確かに手は出してなかった。ただ台詞が……イケメン気取りで気持ち悪かったけどな!」
「気持ち悪くない! あれはギャルゲーなら+5の安心ワードなんだ!」
「現実じゃマイナス百だな!」
笑い転げる新人衛兵。その様子を見ていたベテラン衛兵が、呆れ顔で肩をすくめた。
「まぁ、確かに人を傷つけたわけじゃなさそうだ。ただな……」
彼は俺を頭からつま先まで見下ろし、冷たく言い放つ。
「お前、裸で街を歩いていただろうが」
「っ……!」
しまった。俺が転生してからずっと――服なんて一度も与えられてなかった。
「この街では裸は公然わいせつ罪だ。明日の裁判で判決が下る。それまでここで反省してろ」
「な、なんでだよ! 俺は被害者だぞ! 裸にしたのはこの世界の仕様だ! 俺は……俺はただの被害者なんだよぉぉぉおおお」
鉄格子がバタンと閉まり、俺は冷たい床に突っ伏して泣きじゃくった。
どれくらい泣いていたのか。
気がつけば瞼は重く、俺はいつの間にか眠りに落ちていた。
そこで――再び会った。
「……ふむ。泣き疲れて眠るとは、赤子のようだな」
眩い光の中に、あの女神が立っていた。白い衣、金の髪、完璧なシルエット。背景は相変わらずの柔らかな逆光。
「赤ちゃんだなんて、そりゃ俺は誰もが羨ましベビーフェイスだが、直接言われると照れるぜ///」
タイゾウは目をぱりくりさせて上目遣いで女神を見つめる
それを見た女神の口元がぴくりと引きつる。
「……」
「えー、コホン…転生初日に牢屋とは、哀れなものだな」
「元はと言えば、お前が俺を裸で転生させたせいだろ! あれじゃ公然わいせつで捕まって当たり前じゃねえか!」
「……それは、すまぬ」
「えっ?」
女神はあっさり謝罪をした。
が、あまりにも悪びれもない様子であった。
「確かに、衣を与えるのを失念していた。詫びとして、お主にスキルを授けよう」
「す、スキルだと!?」
俺の胸が高鳴る。ついでに、別のところも高鳴る。
「落ち着け。変な反応をするな」
「ち、違う! 純粋な興奮でだな!」
「……まぁいい」
女神は光を掲げ、俺に告げた。
「授けるのは二つのスキルだ。これは、お前が前世で得意としていたモノをスキル化した。
まず一つ――【フラグ感知術】。大事な場面になると“ここだぞ”と分かるようになる。要するに、物語の転換点に気付ける力だ」
「ほう……俺が得意なギャルゲ脳が強化されたってわけか」
「そして二つ目が【選択肢攻略】だ」
女神は少しだけ言葉を選ぶように、曖昧に笑った。
「これは……発動すると、選択肢で失敗しなくなる。何をしても“いい感じに転ぶ”……そんな力だ」
「おいおい、それ完全にチートじゃねえか! 俺、もう最強ハーレム王確定だろ!」
女神は肩をすくめる。
「ただし、細かいことは自分で試せ。効果はずっと続くわけじゃないし……まあ、期待しすぎるな」
「お、おい! もっと詳しく――」
「説明は終わりだ。豚がスキルをもらえるだけでも幸福と思え」
視界が白く染まり、俺は慌てて叫んだ。
「おい待て! 肝心なところを言えぇぇぇぇぇっ!!」
そのまま夢は途切れ、闇が遠ざかっていった。
朝。
俺は牢屋の中で目を覚ました。
硬い床、冷たい空気、腹の虫の鳴き声。夢だったのか現実なのか――胸の中には確かな感触が残っている。
「……スキル。フラグ感知と、選択肢攻略」
強そうに見えて、使いこなせなければ何の意味もない。
だが俺にはこれしかない。
「これで……なんとか裁判を切り抜けてやる」
拳を握りしめ、決意を固める。厚い雲の切れ間から、一筋の光が差し込んでいた。
新たな人生のスタート――そう思ったその時だった。
ふと、視線を落とす。
藁の上に転がる俺の身体。
「……」
下を見れば――。
「おい! まだ裸じゃねーか!!」
牢屋の石壁に俺の叫びが響き渡った。




