第3話 ギャルゲーマスターの俺が裁判に!?
――朝。
俺は衛兵に腕を掴まれ、牢屋から引きずり出された。
「さあ、出番だぞ。ブタ」
「待て待て待て! まだ心の準備が……!」
昨夜、女神から授かったスキルのことを思い出す。フラグ感知と選択肢攻略。
それを駆使して無実を証明するつもりだった。だが――。
(……作戦が、何も思いつかねぇ……!)
冷たい石畳の廊下を進む間も、頭の中でシミュレーションを繰り返したが、ひとつとして有効打は浮かばなかった。
「俺は無実だぁぁぁぁぁっ!!」
悲痛な叫びは、廊下に木霊しただけだった。
やがて、法廷に通される。
――だが。
「なぁおい、なんで俺まだ裸なんだよ!」
壇上に立たされて初めて気づく。牢屋を出てからここまで、ずっと裸のままだったのだ。
「静かにしろ。特別にこれをくれてやる」
衛兵が投げつけてきたのは、質素な布切れ一枚。腰に巻くだけの、情けない代物だ。
「ふざけんな! 俺は神聖なる法廷に立ってるんだぞ!?」
怒鳴りながら、渋々布を腰に巻く。……それでも情けないことに変わりはない。
そこへ――重々しい声が響いた。
「裁判長、ご入廷!」
場が静まり返る。次の瞬間、長い黒髪を揺らし、法衣をまとった女性が入ってきた。
豊満すぎる胸が布越しに揺れ、圧倒的な威厳と肉感を同時に放っている。
鋭い眼差しで俺を睨みつけ、言った。
「……汚らわしい」
冷たい視線が俺を射抜いた。刃より鋭い蔑み。
その瞬間――。
「う、うおおおおおっ!?」
俺のタイゾウが、勝手に反応してしまった。
布切れは一瞬で弾け飛び、無残にも宙を舞った。
場内がざわめく。裁判長の眉がぴくりと動き、口元が歪んだ。
「即刻、死刑だ」
「ま、待て待て待て待て! 俺が悪いんじゃない! 本能だ! 勝手に反応しただけだ!」
「言い訳無用。このような場で――」
「おい! 仮にも司法の場で、私情を挟むのはどうなんだ!」
思わず俺は反論していた。
法廷が凍りつく。
変態丸出しの男から、まさか正論が飛び出すとは誰も思ってなかったのだろう。
裁判長の顔が真っ赤に染まる。
「……ぐっ、変態風情に正論を……! 先ほどの発言は取り消す」
悔しげに謝罪する裁判長。
こうして死刑はひとまず回避された。
そして、裁判の本題が始まった。
「被害者を入廷させよ」
扉が開き、あの金髪の美少女が入ってきた。白いドレスに身を包み、気丈な顔つきで壇上に立つ。
「彼女の名は、ヒガイ・モオーソ。この街の貴族の娘である」
「ひ、ヒガイ……モオーソ?」
名前のインパクトに思わず噴き出しそうになる。だが空気は張り詰めている。
ヒガイ嬢は澄んだ声で、昨日の出来事を語り出した。
――路地でナンパされていたところに、全裸で肥満の男が現れ、訳のわからない言葉をかけてきた。
――それが恐ろしく、つい「変質者」と叫んでしまった。
「起訴内容は、公然わいせつ罪および強制わいせつ未遂」
その瞬間――俺の脳裏に声が響いた。
《フラグが立ちました! フラグ名『告訴してきたあの子のホントのキモチ』》
(……は? なんだそのフラグ名)
一瞬、混乱しかける。だが次の瞬間、俺は閃いた。
(ホントのキモチ……ってことは、俺の裸を見て、実は喜んでたに違いない! そういうことだろ!)
確信めいた誤解が、俺の中で花開いた。
「被告人、起訴内容を認めるか否か」
裁判長が問いかける。
その瞬間――俺の視界に、まばゆい光の板がふわりと浮かび上がった。
(……な、なんだこれ!?)
宙に並んだパネルには、くっきりと文字が刻まれている。
【起訴状を容認する】
【起訴状を否認する】
(お、おお……! これが、女神の言ってた“スキル”か!? まるでゲームの選択肢じゃねえか!)
胸の奥が熱くなる。迷う余地などない。
「もちろん――否認だ!」
俺は光のパネルに手を伸ばし、勢いよく叩いた。
瞬間、俺の瞳がギラリと輝き、空気が変わった。
ざわついていた傍聴席が一斉に沈黙し、全員の視線が俺へと釘付けになる。
「俺は無実だ!」
仁王立ちになり、胸を張る。
「俺はただ、この子を助けようとしただけだ! それを“変質者”呼ばわりされる筋合いはない!」
裁判長が眉をひそめる。だが、その視線に迷いが混じる。
ヒガイ・モオーソも赤面しながら視線を逸らせない。
(……すげぇ! 今の俺、何を言っても説得力あるぞ! これが【選択肢攻略】の力か!)
俺は不敵に笑みを浮かべ、さらに畳みかけた。
「裁判長! この子は俺の裸を見て動揺しているだけです! 現に今、俺のわがままボディをいやらしい目で見てるじゃないですか!」
「ち、違っ……!」
ヒガイが必死に否定する。だが視線は確かに俺を捕らえていた。
「裁判長! 私はやんごとなき理由で裸同然になっていました! 見たくなければ見なければいいじゃないですか!」
熱のこもった言葉に、法廷は静まり返る。
裁判長はやがて静かに言った。
「……やんごとなき理由、か。詳しく話せ」
(よし……完全に俺の流れだ! これなら無罪確定!)
だがその時――視界にあった光のパネルが音もなく消えていった。
瞳に宿っていた光も消え、胸の熱がスッと引いていく。
(……あ、あれ!? 切れた!? 女神、説明不足だろこれ!!)
(やばい……異世界転生なんて言えねぇ。研究所送りで実験動物コースだ。どうする……どうする……!)
焦りで頭が真っ白になり、俺は口走ってしまった。
「しゅ、趣味で……」
コン、コン、と木槌が鳴る。
「被告人、死刑」
「ちょ、ちょっと待てぇぇぇぇぇっ!!」
俺の叫びが木造の天井に虚しく反響した。
果たしてタイゾウはこのまま死刑になってしまうのか!?




