シルヴィ
月が出てきた。私はそっと、ベッドから抜け出した。隣では結婚を約束した人が静かに寝ている。ベッドに腰かけ、彼の顔を眺める。
白くてきれいな肌。少しあかみがかった髪の毛。閉じられている瞳…一週間前まではときめいていたその顔にも、もう心は動かされない。
「許して ね。カイル」
別れようかと、思っている。シルヴィは彼のふわふわとした髪を、起こさないようにそっと優しくなでた。
プロポーズを受けたときはあんなにうれしかったのに。シルヴィの心はいま、ほかの男に占領されてしまっていた。
少し長めの黒い髪に、優しい笑みを浮かべた顔。綺麗な声。柔らかな言葉遣い。すべてがシルヴィの決心を揺さぶった。
その男は、カイルと結婚を決めたときに、彼の友達として紹介された男だった。名前は知らない。カイルが何か言っていたような気もするが、その時にはもうシルヴィの耳には何も聞こえていなかった。
運命だと思った。カイルとは5年付き合った。楽しいこともたくさんあった。結婚をする前に一度、一緒に住もうというカイルの提案で、3週間、カイルの家の近くの部屋を借りて、生活した。
でも一週間前、彼と出会ってすべてが変わってしまった。あきらめようとも思った。彼にも好きな人はいた。振り向いてはくれないようだったけど、かわいい子だったし、彼からも彼女を大事にしていることは伝わってきた。
でもなにもしないであきらめることができないくらいには、彼のことが好きだった。
「今日で、この生活も終わりかな…」
そう思うと、少し寂しい気もした。ベッドからおり、机の上の紙を探す。
ペンの先にインクをつけ、月明かりの下で別れの手紙を書いた。
静かな夜だった。
書き終わるとペンを置き、窓のそばまで歩く。シルヴィが体に魔力をこめると、手が蝙蝠のような形の翼に変わり、耳がとがってきた。もう片方の翼を器用に使い、羽を一本抜き取ると、少しピリッと痛みが走った後、すぐに新しい羽が生えてきた。
抜いた羽を手紙の隣にそっと置く。
これを添えておけば、カイルもこれを書いたのは私だと、認めざるをえないだろう。
窓を開け、翼を広げる。窓枠に足をかけると、満月に向かって一直線に飛び出していった。一瞬の落下のあと、すぐにふわっと体が浮き上がり、強い風がシルヴィの長い髪をかき混ぜた。
邪魔な髪の毛を振り払い、ふと下をみると愛しい彼とカイルが住んでいる家が見えた。
氷華です
新キャラ登場!シルヴィさんです
愛しい彼…誰でしょうねぇ




