第20話 《HYPER CUBE》の真実
第20話 《HYPER CUBE》の真実
「 よって、『Pure Sublimity White』の正体は、駅前のセンタッキーを経営している渡辺店長、あなたですQ.E.D」
蔵人はピシッと人さし指をホワイトナイトに向けつつ証明終了を告げる。
「お見事だよ。人色蔵人くん。さすが『隻眼の使徒』だ」
ホワイトナイトは、そう言いながら頭部を覆う真っ白な涙滴形のマスクをとる。
マスクの下にあったのは、穏やかで優しげな瞳、高い鷲鼻と引き締まった口元。
それこそは駅前のファーストフード店センタッキーの渡辺店長だった。
「渡辺店長、やはりあなたでしたね……」
蔵人は残念そうに渡辺店長に言う。頭では100%の確証を持ちながらも、心の中では現実であって欲しくないと蔵人は思っていた。それが現実となり蔵人を苦悩が襲う。
「蔵人くん、君には感謝しているよ。病気がちで店に出れない日が多い僕の代わりに、発注やバイトのシフトを管理して、上手く店を回してくれた。君には本当に世話になったと思っている。
僕たちビグースは獣のような戦闘民族。見かけも獣だけど、僕や田所君のように人間に変化できる者も稀にいる。そんな僕の特性と、田所君同様に好戦的でないという奇妙な性格を買われて、僕も地球への偵察を命じられたんだ。そして、ビグース本部から僕に命じられたミッションは人類の軍事力の調査だった。だから、僕はアメリカ政府の住民登録データにハッキングをかけて、データを改変することで日系人の渡辺という人物のデータを作った。そして、その渡辺としてアメリカ陸軍特殊部隊であるグリーンベレーへ紛れ込むことに成功したんだ。グリーンベレーでは、少尉にまで出世したけど、当時の僕は健康だったし、楽しかったよ。いつか君に話したようにサンダース大佐と会ったのも、この頃だった。サンダース大佐は、とても勇敢で人格者でもあり最も尊敬できる上官だった。大佐は料理も得意で、野戦料理と思えないクオリティーの料理を、よく振る舞ってくれたんだ。中でもフライドチキンは格別だった。訓練のあとで、酒を飲みながら、みんなでバカ騒ぎばかりしたけど、あの時間が僕がこの地球に来てから1番の楽しい時間だったんだ。そして、いつからか、僕は残虐で狡猾なビグースより、この優しくて思いやりのある人類というものに肩入れするようになっていた。田所君同様、僕も甘いのかもしれないね」
ホワイトナイトはそう言うと蔵人に微笑みかける。
「渡辺店長……あなた……」
蔵人は次第に自分が誤解していたことに気づいてきていた。
ホワイトナイトは続ける。
「僕が体を壊したことから、僕のビグース本部からのミッションは田所君への監察へと変わった。ビグース本部も田所君のビグースと思えない優しい性格を危惧していたんだろう。まぁそんな僕もその頃には、すっかり人類に肩入れしてたからテキトーな報告しかしなかったけどね。僕の性格まではビグース本部にバレなくてよかったよ」
ホワイトナイトは自嘲気味に笑う。
蔵人は真剣な顔で、ホワイトナイトの話を聞き入る。
「そしてビグース本部は僕に最終ミッションを下したんだ。それは《HYPER CUBE》空間で僕がリザレクションを発動することによる検証実験だった。リザレクションほどの高レベルの特殊能力は、僕たちビグースが発動しても、極度に負荷がかかる。『Darker Than Crimson Red』であった田所くんは、その代償として命を失ったほどだ。
そして、私は検証実験の場として、この《HYPER CUBE》世界大会の場を選んだ。それは、これから新たに出現するビグースの力量というものを、『隻眼の使徒』である蔵人くん、そしてギルド『最前線』の人たちに知ってもらいたかったからね。ビグースにはアメリカ軍やロシア軍の最新兵器なんて全く役に立たない。役に立つのは気に裏付けられた特殊能力だけだからね。君たちに人類の命運が託されている。真剣な場での僕との戦いで君たちに少しでも何かを掴んで欲しかったんだ」
「渡辺店長……そこまで僕たちのことを……人類のことを……」
蔵人は泣きながらホワイトナイトへ呼びかける。
ホワイトナイトは続ける。
「僕たちビグースと人類では戦闘力だけでなく知性も話にならないくらい差異がある。だから、僕は人類滅亡を防ぐための鍵となる蔵人くん、君に僕なりのテストをさせてもらったよ。『Pure Sublimity White』、この文字列に隠されたメッセージを解読できるだけの優れた知性を君が持っているかというテストをね。僕の名誉のために言っておくと京介くんへの記憶操作は、僕のミスではなく君へのヒントだよ。それも僕のテスト問題の一環だったんだ。そのヒントをも利用し、『Pure Sublimity White』という文字列から僕へと辿り着いて欲しかった。
そして君は僕のテストに合格した。僕は確信している。ビグースを倒せる救世主となるのは、『隻眼の使徒』人色蔵人くん、君だと」
ホワイトナイトはさらに続ける。
「そしてギルド『最前線』のメンバーたち、勇敢な彼らはきっと、君と協力しあえる。とくにロックコ君の特殊能力『絶対時間』は見事だったよ。あんなチートじみたエクストラスキルを使える者はビグースでも聞いたことがない。そして、僕は『絶対時間』に対抗するために1ターンめから『リザレクション』を入力した。『絶対時間』の原理は、ロックコ君自身も知らないだろうけど、あれは術者以外のフィールドプレイヤーの時間を凍結させる特殊能力だね。2ターンにわたって、僕は時間を凍結させられ、身動き1つできなかった。そして、ロックコ君の猛攻により2ターン終了間際に僕のHPは0になってたんだよ。
だが、2ターンが終了し、ゲームオーバーとなる直前に、時間が解凍されたことで僕が初っぱなに入力した『リザレクション』が発動したんだ。リザレクションという高レベルの特殊能力は、術者に過度の負荷をかける。その代償として僕は間もなく命を失うだろう」
蔵人は驚きに目を見開く。
「渡辺店長、ちょっと待ってくれ。その1点だけは理解できない。なぜ、あなたが死ぬことになるんだ? 《HYPER CUBE》ってのは、ビグースを殲滅する特殊能力を持つ者を訓練する装置にすぎないはずだ。Darker Than Crimson Redは、『現実世界で』リザレクションを発動したから、その過度の負荷によって、命を失った。だけど、渡辺店長、ホワイトナイトであるあなたは《HYPER CUBE》っていう『ゲームの中で』リザレクションを発動しただけだ。なんら負荷はかからず、命は脅かされないはずじゃないのか?」
蔵人は真剣にホワイトナイトへ尋ねる。
ホワイトナイトは、ゆっくりと首を横に振る。
「それは誤解だよ。この地球の間違った理論物理学を前提に考察すれば、そう誤解するのも無理はない。《HYPER CUBE》開発者の水鏡恭一郎くんも、きっとそんな誤解をしているはずだ。そう誤解していて、ビグースを殲滅する特殊能力を持つ者の訓練装置を作ろうとしか考えてなくても、《HYPER CUBE》を完成するのに支障はなかっただろうからね。
この地球の物理学は、あまりに稚拙なんだ。シュレーディンガーの猫なんていうのは、その最たるものだ。箱の中に入れる猫の数が1匹では、なんの検証もできないんだ。最低でも4匹入れて、4つの次元軸から4匹の猫を相互に比較対象させながら観察し続けないと正当な基礎データは決して得られない。不完全な基礎データから真理に到達できるはずがないんだよ。だが、地球では百年以上にわたって、そう主張する者は1人も現れなかった。誤った考え方が真実とされている忌まわしき例の最たるものといえるだろう。
そして、《HYPER CUBE》空間についても、人類が真実に到達するのは難しいだろう。水鏡くんさえ気づいていない《HYPER CUBE》の真実。
それは《HYPER CUBE》空間こそ、『次元の狭間』ということなんだ。
だから、この《HYPER CUBE》空間でも、特殊能力を発動したビグースは、時に身体に大きな負荷を受ける。そのことは、逆に、水鏡君が開発した人間が特殊能力を現実世界で発動するための出力装置であるルビーのピアス、それの利用により人間が現実世界で特殊能力を発動させた場合、その人間は現実世界で身体に大きな負荷を受け得ることをも、意味することになる」
ホワイトナイトは真剣な眼差しで蔵人を見つめ、そう言った。
「《HYPER CUBE》空間が『次元の狭間』……」
蔵人は、思いも寄らない《HYPER CUBE》の真実を知り驚愕し、そうつぶやいたまま言葉を失う。
「そうだ。君ならその真実からビグースを破る戦略を見つけ出すことができる。僕はそう信じているよ」
ホワイトナイトは蔵人に優しく微笑む。
「『Pure Sublimity White』である僕は、間もなく絶命する。でも、本来のビグースたちは残酷で凶暴だ。そして、そんな新たなビグースが君たちの前に必ず現れるはずだ。その新たなビグース、それこそが『Vivid Edged Black』だ。あとは頼んだよ、蔵人くん」
ホワイトナイトは蔵人を見つめる。
「はい」
蔵人は、両目に涙を浮かべながらも真剣な眼差しでホワイトナイトを見つめ、頷く。
「まだ世界大会は終わっていない。勝負の最中に立ち話をしている僕たちを不審に思う観客も現れるかもしれない。そろそろ決着といこうか」
ホワイトナイトはそう言うと、ゆっくりと白銀の長剣を抜刀する。
「我は汝に全力を尽くさん。この神殺しの特殊能力『ホワイトアウト』により。ゆえに我が命ここに尽きるとも、我に一片の憂いすら残るまい」
ホワイトナイトは白銀の長剣を天へ向け、絶叫する。
「私も、あなたに全力を尽くそう。あなたが安らかに天に召されんように。そして、私は、今、あなたを超える」
蔵人も叫ぶ。
その瞬間、新国立競技場は大きな白い閃光に包まれた。同時に、新国立競技場を大きな青い閃光が支配する。あまりに激しく強い2つの閃光による鬩ぎ合い。その圧倒的な光量は、真夏の昼間の太陽に匹敵するものであり、決して肉眼での直視に耐え得るものではない。観客たちは眩しさの余り誰もが目を開けていられなくなる。
ホワイトナイトの神殺しの特殊能力『ホワイトアウト』。そして《HYPER CUBE》界に君臨せし絶対的序列第1位『隻眼の使徒』人色蔵人の特殊能力『集極の波より来たりし闇』。2つの最強の特殊能力が同時に発動された。
2つの閃光はやがて収束する。観客たちは次第に、視界を回復する。
次の更新は明日です。
タイトルは「世界大会終戦」。




