第九話
昼食中。
「おお~」
周囲の視線、その感想を三人が表していた。
今、サチ姉を加えて昼食中である。
それはつまりギギの食事を見ているのだった。
事の顛末を二人に話していると、自分の母が作った弁当をギギは、このヘルメットの内部で食べていたのだが、ギギから、こう字幕が流れてきた。
「サトル、それは何だ?」
「カレーパン。弁当だけじゃ、足りないからさ」
目のようなライトがじ~と、カレーパンを捕捉しているとサンペイは言う。
「ああ、ここのカレーパン、美味いんだよな」
「そうだよね、アタシなんか、買う時は二つくらい普通だもん」
サチ姉の言うとおり、自分も二個買うほどこのカレーパンは美味かった。
というより、こうやって外食するのも久しぶりなのだ。
「だから、老け込むなよ…」
喜多村の呆れる中、ギギのカメラがキュイーンとロックオンしていた。
どうやらギギも弁当だけじゃ物足りないらしく。
「いる?」
この自分の問いに。
「……」
こんな字幕が流れる始末である。
すると喜多村が身体を傾けている。
それは、そこから見えるのではないのかという期待からなのだろう。
外野もこの通り、身体を『くい~』と曲げていた。
「お前達の言葉で、こういうのを絶対領域という」
周囲が見えているギギは、そんな字幕を流して姿勢を戻すようにと促すが。
「紙ごと食べやがった…」
サンペイは素直に誤解していたが、こう答える。
「や、やっぱり、人間の食べ物は食べるんだな?」
「サンペイ、いくら地底と地上と言っても食べ物は変わりはしない。
このパンだって…、ある程度の味の想像も…」
「食べてから、話そうな。
いや、俺はてっきり…。
頭からガソリンでも詰めるのかと思ってな」
「サトルと同じ事を言うヤツだな」
ギギはさすがに今の図体を自覚はしているのか、言うほど怒りはしなかった。
そう言われてサンペイも自分を見るので、同意するように頷くだけにしておいた。
だが簡単に折りたたんだ包み紙をポイッと口から出して、触手で拾い上げる様を見るとやはり吐き出した感が拭えないが、話せる相手だと理解したのだろう。
「器用な、やっちゃ…」
ようやくギギに対する緊張感が解けたような気がしていた。
周囲が談笑する中、ギギはくるりと回って景色を眺めていた。
「だが、ここはいい景色だな」
「ああ、一応、この高校は、町を全部見下ろせる構造になってるらしいな。
もっとも地底はどうなのか知らないけどな」
「そんなに地上とは変わりはしない。
同じくらいの社会、私だって同じくらいの高校の風景だしな…」
じっとギギは景色を眺めていた。
これは始めての風景じゃなかった。
時折、ギギはこういう風に黙り込むクセがある。
「それであのアリアって子は何なんだよ?」
この機会に、あの転校生の事を聞いてみた。
するとサチ姉が割り込んできた。
「あっ、サトルのトコロにも来たんだ。
でさ、私んトコロでも転校生がやって来たんだよ。
ギギにも負けない、やたら長い名前でさ、カート・フレイ…なんだっけ?」
「フレイアット・バイスだよ。
あれ…?」
聞き慣れた後の名前に、思わず顔をしかめる。
「そうだ、我々は三兄妹だ」
その三兄妹はやってきた。
「隣に住んでいるという女をマークしておけば、いずれお前に接触を図ると踏んでいたが、予想通りだったな」
それはこのカートという男が、自分達を見下しているのがわかった。
「あんたは?」
おかげで思わず年上相手だが嫌味になっていた。
「我等の事は知らんらしいな。
お前ごときでも事前に調べておく事は、礼節だと思わんのか?」