第2話 人は見た目で判断するべからず
「あ、あのリオさん……?」
獲物を目の前にした獣のような目でこちらを見るリオさん、いやリアルだから渋谷先輩と言った方がいいか。
ってか自分の両手を掴まれているんだけど……見た目によらずものすごい力なんだけど?
「はっ……!」
俺の声に反応してからなのか、渋谷先輩は何度も瞬きをしていた。
「え、えっと……碧南璃碧こと渋谷悠香です」
慌てた素振りで勢いよくお辞儀をする渋谷先輩。
俺も釣られるように名乗りながら深々と頭を下げていった。
「それじゃ自己紹介が終わったところで、そろそろ会議室にいきましょうか? 案件の説明をしますので!」
そう言ってマネージャーは話を切り出すと、すぐにフロアの奥へと進んでいく。
その後を追うように俺もついていく。
「あ、えっと……マネちゃんさん! ちょっとお手洗い行ってきます!」
渋谷先輩はマネージャーの返事を待つことなくすぐに扉の外へと向かっていった。
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フロアの奥にある女性用の更衣室に入り大きく息を吸い、ゆっくりと吐き出していく。
生のアオバくん……大塚葵くんを見た途端。心臓が飛び出るんじゃないかってぐらい、ドクドクと音を立てていた。
「仮想空間もだけど、リアルも超ドストライクじゃん! 危うくリアルで昔に戻るところだったぁ」
手洗い場にある鏡にはニヤけている自分の顔が映っていた。
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「すみません、戻りました!」
会議室でマネージャーから渡された資料を見ていると渋谷先輩が戻ってきた。
「おかえりなさい! 空いている席に座ってくださいね〜」
マネージャーはスクリーンの横で小型のノートパソコンを操作しながら告げていた。
「はーい、わかりましたー!」
そして軽快な足取りで向かった先は俺の真隣の席。
「隣、失礼しますねー」
「あ、は……はい」
彼女が座った瞬間、つけている香水だろうか、程よい柑橘系の香りが自分の鼻を掠めていく。
この会議室は10人ぐらいは入れるぐらいの広さだし、椅子も用意されている。
座る場所も決められていないので、どこ席でもいいんだけど……
「……あ、あの渋谷先輩?」
「どうしたの?」
「……1つ隣の席でも大丈夫ですよ?」
俺がそう告げると、一瞬目が泳いでいたがすぐにニコリと微笑む。
「そうなんだ! でも動くの面倒だからここでいいかな」
そしてさらに椅子をこちらに引いていた。
これだけの綺麗な人が間近にいるのは決して悪い気はしないけれども……
「お待たせしましたー! これから案件の説明をしていきますね!」
マネージャーは部屋の照明を落とし、プロジェクターを起動させるとパソコンから動画ファイルを開いた。
動画が再生されると案件先企業のロゴが表示され、すぐに代表だと名乗るスーツ姿の男性が商品の紹介を始めていた。
渡された資料にも乗っているが、今回の案件はベッドに敷くマットレスだ。
「どんな原理か知らないけど、ぐっすり寝れるのかな?」
動画の途中で渋谷先輩が小声で話しかけてきた。
「最近寝ても寝た気がしないから本当なら欲しいですけどね」
「本当に?それじゃ買ってあげようか?」
「え!?」
彼女の言葉に自分でもびっくりするほどの声が出てしまっていた。
「あ、アオバさんどうかしましたか?」
マネージャーは動画を停止してこちらを見ていた。
突然のことで相当驚いたのか、目を大きく開けていた。
「な、何でもないです! 失礼いたしました!」
慌てて謝る俺。
隣では渋谷先輩がクスクスと笑っていた。
「……せ、先輩が変なこと言うからですよ」
再び動画が再生されると小声でそう伝える。
「割と本気なんだけどなあ」
「……むしろ先輩が買って使えばいいじゃないですか?」
「もしかして、遠回しに私の部屋に行きたいって言ってる?」
今の会話でどう聞こえたらそんな風に解釈ができるのだろうか……。
動画再生中、先輩とずっとそんなことを話していたせいで、動画の内容は全くと言っていいほど頭の中に入ってこなかった。
後でいつも使っているチャットツールで資料を送ってくれるとのことだったのでよかったけど……。
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「今日はお忙しいところありがとうございましたー!」
動画が終わると俺と先輩はマネージャーにフロアの入り口で見送られた。
今日のところは案件の説明だけで案件の撮影は後日行われるそうだ。
「それでは失礼いたします」
俺はマネージャーに会釈してその場を後にした。
「アオバ……っと、葵くんはこの後用事とかあるの?」
エレベータの中に入ると先輩が話しかけてきた。
「夜遅くに配信がありますね」
「それまでは時間あったりする?」
ふと、スマホを取り出して画面を見ると夕方を過ぎた時間だった。
いつも日付変更直前から配信しているのでそれまでは空いてはいる。
「色々準備あるので、1時間前ぐらい前に家へ戻れれば大丈夫です」
「ホント! それじゃ一緒にご飯食べにいかない!?」
先輩はこちらに体をグイッと近づけてきた。
狭いエレベーター内だからかものすごく圧迫感が……。
「あ、は……はい!」
「やったー! この前マネちゃんに教えてもらった美味しいお店があるんだよ!」
いいタイミングでエレベータはエントランスフロアに到着した。
ドアが開くと同時に俺は先輩に手を掴まれて引きづられるようにビルから出ていくことに。
それにしても、大学で見た時とは真逆のように見えるんだが……
もしかしてそっくりな別人だったり……?




