表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18番人気の奇跡から始まった、俺と隆平の探偵事務所 ~ざまぁもチートもない、探偵事務所のリアルな日常と裏稼業~  作者: 風風風


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
17/17

第16話 【白金台の邸、雌雄(しゆう)を決する交渉】

りゅうのじじいも、まさか俺たちが

そのデータを手に入れ、本人を直接

保護して逃げ出すとは思っていまい。

……さて、東京に戻ったら、この

カードをどうやってあの老人に突き

つけるかだ」

滝野川のタワマンへと向かう。

ハイブリッドカーは、茨城の冷たい

やみを切りき、再び首都圏へと

疾走しっそうしていた。

りゅう洪貴ごうきとの最終決戦のピースが、

いま完全にそろった瞬間だった。

北区滝野川のタワーマンションの一室。

窓の外には、朝の冷たい光を浴びた

東京の街並みがどこまでも広がって

いた。だが、室内の空気はガラス一枚

隔てた外気よりもさらに冷たく、緊張

感で張り詰めていた。


「おい、隆平。本当にこのまま白金台

やしきへ乗り込むのか?」

康介は、リビングのソファの背もた

れに手を掛け、目の前で最終的な

データの暗号化チェックを行って

いる相棒に声を荒げた。

「当たり前だ。逃げ回るフェーズは

終わった。これだけの爆弾を抱えた

まま隠れ続ける方がリスクが高い」

隆平は目をモニターにえたまま、

黒いハードケースをカチリと音を

立てて専用の耐衝撃バッグに収めた。

「だが、相手は香港系マフィアの

ドンだぞ。直接のり込んでいって、

その場でハチの巣にされる可能性

だって……」

「だからこそ、俺たちだけでノコノコ

出向くわけじゃない」


隆平は背後を振り返り、リビングの

隅のソファで膝を抱えて座っている

一人の女性に視線を向けた。

「……里奈、準備はいいか?」

「ええ……」

樫野里奈は青白い顔を上げながらも、

その瞳には不思議と強い決意の色が

宿っていた。数日前までの、北関東

の寂れたアパートでおびえていた姿とは

まるで違う。彼女もまた、この決戦が

自分の運命を分かつ岐路であることを

理解していた。

「私が持っていたデータが本物で、

あの老人の急所を正確に突けるなら

……私も一緒にいくわ。あの人の顔に、

初めて焦りの色が浮かぶところを間近

で拝んでやりたいの」

「上等だ。お前のその度胸、嫌いじゃ

ないぜ」

隆平は微笑み、立ち上がった。


数時間後。

港区白金台の豪壮なやしき

前回訪れた時と同じ、ガラス張りの

向こうに広い庭を望む豪華な応接室。

しかし、漂う空気は前回を遥かに

凌駕りょうがするほどの殺気と重圧に満ちて

いた。

部屋の中央には、恰幅のいい体を

特製のソファに預けた洪腹ごうはら劉一郎

――りゅう洪貴ごうきが、静かに

座っていた。その背後には、黒い

スーツに身を包んだ屈強なボディ

ガードたちが、まるで彫像のように

微動だにせず立ち並んでいる。


「……ほう」

劉はゆっくりと目を細め、康介たちの

姿、そして康介たちの後ろに控える

樫野里奈の顔を捉えた。その老練な

顔に、わずかばかりの驚きと、それ

をすぐにねじ伏せるような底知れぬ

冷笑が浮かぶ。

「康介君、それに隆平君。さらに、

行方知れずになっていた我が愛しの

秘書、里奈君まで揃って……これは

一体どういう趣向かな?」

劉の声は穏やかだったが、その一言

一言にはこおりつくような威圧感が

含まれていた。


康介はごくりと生唾を飲み込み、

一歩前に出ようとしたが、それを

制するように隆平がスッと康介の前に

立った。

「挨拶は省かせてもらうよ、劉会長。

あんたの部下には茨城で派手な歓迎を

受けたんでね。もう、手荒な真似は

御免こうむりたい」

隆平はひるむことなく、劉の正面の

ソファにどっかりと腰を下ろした。

康介と里奈も、その両脇に静かに座る。

「ふむ……。茨城の件か。私の部下

たちが君たちの足取りをつかんだのは

事実だが、まさか逆に、私の最も探し

ていた獲物をその手で連れてくる

とは予想外だったね。私の一億円の

前金でいい気になって動き回っていた

小僧どもが、いい度胸をしている」


劉は手元のチャイナティーのカップを

静かに持ち上げ、一口含んでから

テーブルに置いた。

「勘違いするなよ、じいさん」

隆平は冷静なトーンで言う。

「俺たちは、あんたの部下に追われて

逃げ回っていたわけじゃない。あんた

が喉から手が出るほど欲しがっている

『忘れ物』を、確実に回収してここに

持ってきたのさ」

「忘れ物、だと?」

「とぼけるな。樫野里奈が持ち出した、

セイント・ドラゴンの裏金ルート、

そして日本の政財界と海外の反社組織

つなぐマネーロンダリングの全貌が

記録された暗号化データさ」


その瞬間、部屋の空気がガラリと

変わった。

劉の背後に立つボディガードたちの

手が、三人のカラダを押せえようと

動き、背後に寄る。

室内の温度が数度、下がったかのよ

うな強烈なプレッシャーが康介の肌

を刺した。

しかし、劉自身は微動だにせず、ただ

鋭い眼光を隆平から里奈へと移した。

「……里奈君。君、自分が何をして

いるのか分かっているのかね。私を

裏切り、組織の機密を持ち出したその

愚行の代償がどれほど重いか、身を

もって教えてやろうか」

劉の低くうような声に、里奈の体が

わずかに震えた。だが、彼女は歯を

食いしばり、まっすぐ劉を見据え返した。

「今さら脅したって無駄よ、会長。

私を殺したところで、そのデータの

バックアップはすでに私の信頼できる

外部のシステムと、彼らのネットワーク

に完全に同期されているわ。私に何か

があれば、その瞬間にアジア中の

裏社会と日本の主要メディア、そして

警察の特捜部にすべての真実がばら

かれる仕組みよ」


見事なハッタリ、いや、事実に基づ

いた完璧な牽制だった。康介は内心

で息を呑みながら、二人のやり取り

をじっと見守る。

劉はしばらくの間、じっと里奈の目

を覗き込み、やがてフッと鼻で笑った。

「なるほど……。可愛い小鳥だと思っ

ていたが、いつの間にか鋭い爪を

生やしていたらしい。私を脅すとはね」

「脅しじゃないわ。生存のための

『交渉』よ」

里奈はおびえを完全に消し去り、毅然きぜん

言い放った。

「私をこれ以上追わないこと。そして、

私に新しい戸籍と、海外への安全な

移動ルートを用意すること。それが

できれば、私たちが持っているデータ

の主権は永久に封印される。……どう?

会長にとっても、帝国を崩壊させない

ための最も安い買い物のはずよ」


ペントハウスの静寂が、再び重く場を

支配する。

りゅうはゆっくりとソファの背もたれから

体を起こし、両手を組んであごを乗せた。

その老練な瞳の奥で、膨大な損得勘定

と殺意、そして理性が激しくせめぎ

合っているのが手に取るように分かった。

ここで強硬手段に出れば、組織の

崩壊はまぬかれない。かといって、ただ

若造どもと裏切りの女の言いなりに

なるなど、マフィアの顔役としての

プライドが許すはずもない。


「……ふう」

やがて、りゅうは深く息を吐き出し、

これまでの冷酷な表情から、どこか

あきらめを含んだ乾いた笑みに変えた。

「参ったな。長年、このアジアの裏

社会で数々の修羅場をくぐってきたが、

まさか日本の若い探偵崩れと、かつての

愛人にここまで見事に足元をすくわれる

とはねえ」

りゅうの言葉に、部屋の緊張がわずかに

ゆるんだ。ボディガードたちの手が、

少しだけふところから離れる。

「どうだ、劉会長。俺たちの提案、

飲んでもらえるか?」

隆平が冷徹な笑みを浮かべたままで

問いかける。

「飲まざるを得まいよ、隆平君。

君たちの言う通り、私のビジネスと

この平穏な老後を守るためには、

ここで下手に血を流すより、君たち

と手を結ぶ方がはるかに合理的だ」


りゅうはデスクの引き出しを開け、一枚の

分厚い封筒を取り出した。それを

テーブルの上に滑らせるように置く。

「その中には、里奈君のための新しい

戸籍に関する書類と、スイス銀行の

匿名口座にアクセスするための暗号

キー、そして海外の安全なリゾート

地への航空券の予約データが入って

いる。もちろん、約束した一億円の

残金も、すでに君たちの口座へと全額

送金手続きを済ませた」

「……話が早いな、さすがは話の分かる

実業家だ」

隆平は封筒をスッと手元に引き寄せ、

中身を軽く確認してからジャケットの

内ポケットにしまい込んだ。

「データはどうする?」と劉がたずねる。

「安心しろ。すべてのデータが格納

されたハードケースは、この場で譲渡

する。これでもう、俺たちはお互いに

首を絞め合う必要のない、最高のビジ

ネスパートナーだ」


隆平は持参していた黒いハードケース

を劉の前に差し出した。劉はそれを

部下に受け取らせ、

「こんなものは、受け取っても意味が

ない。お前らが担保にしているデータ

が流出しないという保証は?」

「確かにね。だがね、劉腹ごうはらさん」

「……」

「俺たちは、今後はビジネスパート

ナーだ。これは、そのカタだよ」

「ふむ。……」

「お互いウインウインじゃないです

か? あなたがたの窮地きゅうちは、俺らに

とっても窮地を招く」

「この三人の身の安全を保証しても

らえれば、俺と康介は、劉腹ごうはらさんを

もうけさせますよ」

りゅう洪貴ごうきは、満

足げに深くうなずいた。

「よろしい。……だがね、君たち。

忘れないでくれたまえ。今回限りの

特例だ。これ以外の、私の領域に無

作法に踏み込んできた時は、たとえ

世界中のネットワークがどう動こう

と、私はあらゆる手段を使って君達

を地獄の果てまで追い詰める」

おどしは結構。信用してもらうしか

ない。俺らも好き好んで、危険を

おかすつもりはない」


隆平はスッと立ち上がり、康介と

里奈に目配せをした。

「行くぞ、康介、里奈」

康介たちは立ち上がり、一言も発す

ることなく、その豪壮な応接室の出

口へと歩き出した。背後で劉が

静かに紅茶のカップを傾ける音が、

遠ざかる足音に混ざって小さく響い

ていた。


豪邸の門をくぐり、白金台の冷たい

外気に触れた瞬間、康介は全身から

ドッと大量の汗が噴き出すのを覚えた。

足の力が抜けそうになり、思わず道路

の脇の壁に手をつく。

「……はぁ、死ぬかと思った……!

あんなモンスターの目の前で、よく

あんな大口たたけたな、お前ら二人

とも!」

康介が荒い息をつきながら言うと、

隣に立った隆平はいつもの表情に戻り、

タバコに火をつけた。

「ビビってる暇なんてなかったろ。

だが、これで一応の手打ちはできた」

後ろを振り返ると、樫野里奈が晴れ

やかな、しかしどこか切なさを残した

笑みを浮かべて空を見上げていた。

「……ありがとう、二人とも。私、

やっと本当に自由になれるのね」

「ああ。約束のパスポートと口座は

あのじじいに用意させた。すぐにでも

成田から飛び立てる手はずだ」

隆平は吐き出した煙を青空に逃がし

ながら、遠くを見据みすえた。


一億円の資金、マフィアのボスとの

和平、そして裏社会の機密という最

強のたて

八王子のボロビルの一室から始まった

康介たちの泥臭い戦いは、ついに一つの

大きな区切りを迎えたのだった。

(完)


©2026 [風風風]. All rights reserve.

りゅう洪貴ごうきとの命懸けのハッタリと交渉の末、

かろうじて平穏な生活に戻れた康介。

「いつまでひたってるんだ、康介。

感傷に浸るヒマがあるなら、現実の

仕事の処理をしろ」

部屋の隅のデスクから、隆平の乾い

た声が飛んでくる。


読んでくださりました方々に篤く御礼申し上げます.

ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ