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エピローグ


「――遊びは終わりだ!! 貴様らなど消し炭にしてくれるッッ!!!!――」



 ドラゴンの怒りの咆哮が、ナターシャの意識を闇から引き上げた。



 いたぶっていたはずの小さな生き物にしっぺ返しを食らい、怒りが吹き上げたドラゴンは手の届かない空に飛び上がると、終わりの一撃を放とうとエネルギーを集めていく。

 ナターシャは立ち上がろうとして立ち上がり切れず、膝立ちの状態になる。

 深呼吸をして、体の奥からビリビリとした魔力を全身に巡らせ、活性化させる。

 これまでは体の補助として使っていた魔力を、攻撃に使う。

 今持っている以上の魔力を練り上げようと試みる。

 自分は今、この魔法を完全に使いこなす必要がある。

 魔力を全て攻撃に使えば、あのドラゴンだって倒せるとナターシャは確信していた。

 ……そうでなくては、ママを助けられない。


 ドラゴンの怒りを表したような暴れ狂うエネルギーの奔流を感じる。

 そしてドラゴンが衝撃波を放ったその時、自分も魔力の全てを撃ち出した。

 矢のように小さく凝縮された魔力がドラゴンの衝撃波を切り裂く。

 そして、光の矢はドラゴンの心臓に突き刺さった神器の剣を押し出してその胸を穿った。

 ドラゴンが地に沈むと、ナターシャに気付いたママが走り寄ってきてナターシャを抱き締めた。

 数日ぶりのママの硬い毛の感触を感じると、ナターシャはほっとした。

 ずっとこうしていたかったが、ナターシャはゆっくり立ち上がると、放心したように横たわる王女の横を通って、大地に身を伏せたドラゴンの顔の前に立つ。

 ドラゴンはナターシャが来ると目をうっすらと開けた。



「……よもや……よもや子供などに……」



 ドラゴンは恨めし気にうなった。

 ナターシャは懐から木の実を一つ取り出すと、尖った歯の並ぶ口の中に放り投げた。



「あげる。お腹空いてるでしょ」



 ドラゴンは口元を歪ませ、



「――――足らん。」



 そう言うと、永遠にまぶたを閉じた。







 朝になって、ドラゴンとの戦いから回復した三人が話をする。

 王女から人間の国の事情を聞いたナターシャはある提案をした。



 人間の国の王様は、王女を追いかけて軍隊を引き連れて行進していた。

 すると、馬に乗った王女が向こうから王の元へやってきた。

 見た目はボロボロながら、成長を感じさせる表情の王女が王に呼び掛ける。


「お父様に会っていただきたい方がいます!」


「だれだ?」


「彼女です!」


 王女が示した方角からドラゴンが現れた。

 その途端、王様たちが慌てだす。


「ド、ドラゴンだ!!」


「落ち着いてください! あれはもう死んでいます! 彼女が倒したのです!」


 兵士が上げた叫び声に王女が答える。

 王女がドラゴンの下辺りを指し示す。

 目を凝らすとそこに、ドラゴンを両腕で持ち上げる小さな少女がいた。

 王様たちが目を白黒させていると、少女が声を上げた。


「こんにちは王様、魔族の国の王様から、人間の国がドラゴンに苦しめられていると聞きまして、ドラゴンを退治してきました」


「魔族の国からだと?」


「はい。そしてこのドラゴンの首を魔族の国から友好の証として、人間の国の王様に献上させていただきたいと思います」


「お、おまえたちは何者だ? 魔族の国の将軍か、それとも勇者なのか?」


 巨大なドラゴンを持ち上げる少女と、横に立つ小さなオークが顔を見合わせると、そろって笑顔を見せた。


「ただのシングルマザーと」


「その娘です」


 王様は口をあんぐり開けて、もう何も言えないようだった。




 ママとナターシャは王様や王女様たちと別れると、世界の果てのドラゴンの角ひとつを持って、魔族の国の王様に会いに行く。

 王様たちは最初、ママとナターシャがドラゴンを倒したことを疑った。

 なので、ナターシャは脳筋の呼び声高いオークたちのやり方に従うことにした。


 城の広場で、敗れた城の精鋭たちがナターシャによって山のように積み上げられると、王様はうつろな目でそれを認めた。




 その後、人間の国と魔族の国で友好条約が結ばれると、元気のなくなった両方の王様はそれぞれ自分の子供を新しい王様にして引退した。

 王様になった元王女様は、人間の国の立て直しに忙しくしている。


 ママとナターシャはというと、将軍に取り立てようとする魔族の王様の誘いを断ってオークの村に帰っていた。

 二人はいつもの平和な暮らしに戻ったのだった。




 それでも変わったことといえば――


 キラキラ輝く魔法の斧を持って森の大きな木を切る小さなオークの姿と、村の畑の見上げるほど大きなカブを収穫できたと喜ぶダークエルフの子供の姿が、見られるようになったことだろうか。


めでたしめでたし

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