12話 渚のバイト
「川原さん、混んできたからカウンターお願い」
ボクの貴重な休憩時間は2分ほどを残して終了した。
ボク、川原渚は今、学校近くの牛丼屋さんでバイトをしている。別にお金に困っているわけでも、労働したいわけでもない。
ちょっとした親友孝行なのだ。
「川原さーん!」
う、ちょっとぼうっとしてたら、ボクの教育係らしい高野君のちょっとイラついた声が聞こえてきた。
学校だとあまり目立たない……いや、逆の意味で目立っていて有名ではあるんだけど、あんまり感情を表に出している所を見たことないんだけどなー。これは美月に伝えておかなければ。
「おまたせー」
休憩室から戻ってホールを見ると、席は全て埋まり、順番待ちの列も出来ているようだ。
これはきつくなりそう。
このお店はこの辺では結構な人気店で、夕食時の忙しさはまさに地獄。
「川原さん、Aカウンターに入って」
「はい!」
ボクは精一杯の作り笑顔の下で、顔を平手で叩いて気合を入れる。もちろん想像の中でだけどね。
「いらっしゃいませ、ご注文はお決まりでしょうか?」
◇
「あー、バテたー」
今日のシフトが終了し、休憩室の椅子に座ると、思わず声が出た。
「おつかれー」
高野君も引継ぎを終えて休憩室に戻ってきた。
「今日で4回目だっけ?もうそろそろ慣れただろ」
「いやいや、あの忙しさに慣れるってありえないよー。試合よりきつい」
「体力あるし、もうちょっとすれば慣れるだろ。 今は考えて動いてるから、頭と体、両方消耗するけど、その内考えなくても動けるようになる」
高野君は同級生なのに先輩面だ。
ちょっとむかつく。
「まあ、慣れた頃に新しい仕事を追加するから結局疲れるんだけどな」
そう言って、憎たらしい笑いを浮かべる。
高野君はこういうちょっと意地悪な所がある。美月に伝えておこう。
高野君の好みや性格を調べるために、バイト先に乗り込んでみたのはいいけれど、飲食店のバイトがこんなにきついとは……
美月のためとはいえ、早まったかなあ。まあ、一度バイトをやってみたかったっていうのもあるんだけど。
「ほい」と言って高野君はボクの前に缶ジュースを置く。
「……ありがと」
「ここでは俺、先輩だし。まあ、頑張れ」
ちょっとは優しい所もあるかもしれない。
これは美月に……伝えなくてもいいかな。




