11話 バイト始めました
俺の家から街の方へ自転車で30分、学校から10分の距離にある牛丼屋。
見た目も牛丼も某オレンジの牛丼チェーン店にそっくりだが個人経営の店である。食事時にはサラリーマンと部活帰りの学生で結構な賑わいを見せる。
「高野君、着替え終わったらちょっといいかな」
更衣室でバイトの制服に着替えていると、オーナー兼店長から声がかかった。
「分かりました」と返事をして着替えを再開する。
なんの用だろう。
店長とは特に親しいわけでもないので、多分仕事のことだろうけど。
親しくないといっても2年以上同じ店で働いているので、空いた時間に世間話をする程度には交流がある。ちなみに店長は四十過ぎのおっさんなので、フラグとかそういうのが立つことは無い。
着替えを終えると、店長がいつもいる事務室に向う。
「店長入りますよー」
声をかけ、横開きの扉を開けると、そこには見知った顔が2つあった。
ひとつは店長。もうひとつは、
「こちら今日から入った川原渚さん。時間的に君と一緒になるから面倒見てあげてね」
店長が人の良さそうな笑顔で紹介してくるが、俺は予想外の展開に言葉が出ない。
「……」
なんだろう、偶然なのか。いや、そんな偶然あるものなのか。どっちにしても、あんまり嬉しい状況じゃないような。
「あ、高野君。奇遇だねえ、よろしく!」
すごくわざとらしい笑顔! 絶対偶然じゃないだろ!
「あ、知り合いなんだ。それなら安心だねえ」
なにが安心なのか分からない店長の言葉に、俺は曖昧に頷いておいた。
何か企みがあるのかもしれないが、ここのバイトを甘く見てるんじゃないだろうか。遊び半分で勤まるほどお気楽な職場ではないのだが。




