10話 巨乳嫌いはロリコンに非ず
「なあ」
放課後の教室。
帰宅準備をしていると長谷部太一が話しかけてきた。
「お前、安達さんと付き合ってんの?」
「いや、付き合ってない」
「でもデートもして昼飯も一緒に食べてんだろ?」
太一は川原と知り合いなのでその辺から聞いたのだろう。
「まあそうだな」
「でも付き合ってないと……」
「うん」
「安達さんとのきっかけ作ったの俺だし、川原から経緯も聞いてるんだけどさ、やっぱなんか卑怯な感じがするぞ」
うーん、ずばっと言ってくるなあ。全く遠慮が無い。
ま、太一になら話してもいいだろう。
「分かった。 説明するから今から家これるか?」
◇
「あ、いたのか」
木造2階建てのボロアパートに帰宅すると、妹の高野ほのかと玄関で鉢合わせになった。
「何? 何か文句あるの?」
ぽろっと漏れた俺の言葉に刺々しくつっこんでくる。
「いや、文句はない」
「お、お邪魔しまーす」
俺とほのかの微妙な空気を緩和させようと太一が割り込んでくる。
太一に気付くと、多少気まずく感じたのか、ほのかは「ふん」と言い放って俺の脇を抜けて玄関から出て行く。
「あ、どこか出かけるのか」
「バイト。どうぞごゆっくり」
「ほのかちゃん大きくなったなあ。特に胸が」
扉が閉まり、足音が離れるのを確認して太一がほのかの感想を述べた。
そうなんだよなあ、あの胸がなあ……
「なんか態度もでかくなって困ってるんだよ」
高野ほのか。
15歳。高校1年。
容姿はかなり目立つ。最近はおしゃれに目覚めたのか、眉やら髪やらを整え、うっすら化粧をしているのもあるが、人目を引くのは何よりもその主張しすぎな胸である。小学5年、第二次性徴を迎えた辺りから急激に発達し始めたバストは高校1年の現在、目立たないよう、ゆったりした服を選んでもなお一目で分かるほどに存在感がある。
ちなみに高校は近所の割と偏差値の高い女子高に通っている。
「適当に座ってくれ」
そう言って俺は椅子に腰掛け、本題に入る。
「実は俺、巨乳が嫌いなんだ」
直球。
「ふーん」
特に驚くことも無く、うなずく太一。
「言っておくが俺は別にロリコンじゃないぞ」
「あ、そうなんだ」
太一が意外そうな顔をする。やっぱ、そう認識するか……
「ああ、子供を見て可愛いとは思っても、性欲に結びついたりはしないから、絶対違う。そもそも俺が巨乳嫌いを他人におおっぴらに出来ないのは、巨乳嫌い=ロリコンとか言うふざけたレッテルを張りたがる風潮のせいだ」
「風潮って……たぶんほのかちゃんの影響だろ」
するどいな。ほのかの胸が大きくなるに連れ距離を置くようになったため、ほのかは俺の巨乳嫌いを知っている。そして、ふざけたことに、ことあるごとに俺をロリコン呼ばわりするようになった。
「ただ単に不自然に大きい乳房に嫌悪感を覚えるだけ。小さい胸が特に好きなわけでもないから」
「なるほど。それじゃ女の胸にあまり興味ないのか?」
「いや、おっぱいは好きだ」
太一が眉をしかめて難しそうな顔をする。
「そういえばおっぱいって母親の象徴っていうだろ? 巨乳好きとかすげえマザコンみたいじゃねえか! 生物的にはマザコンよりロリコンの方が正常だと思うね」
「お前、全国の巨乳好きから殺されるぞ。それに倫理的にはロリコンの方が駄目っぽいぞ、最近は特に」
「いや、だから俺は別にロリコンじゃないんだって。巨乳好きとロリコンしか男の性嗜好がないと思うんじゃない!」
「誰に向って言ってるんだ。それにだれもお前がロリコンとは言ってねえから」
「はあ」と太一が短く嘆息する。
「つまり巨乳嫌いのお前は巨乳である安達さんと付き合えず、でも諦め切れない安達さんと友達として仲良くしている。でも巨乳嫌いは伝えていない。こんな感じか?」
太一が話をまとめてくれた。
「それじゃ川原渚。 あの子ぐらいの胸はどうなんだ?」
俺の頭には、ボクっ娘の、手のひらにすっぽり納まるであろう控えめな胸が浮かんでいた。むやみやたらに存在を主張せず、それでいて女性らしさを十分に感じさせる。
「悪くない。 ちょうどいい感じだな」
正直、川原の容姿はかなり俺の好みだ。川原に告白されていたら断っていないだろうけど、人生そう上手くいくはずはない。
「なかなか上手いこといかないもんだな」
まったくだ。
それまで横を向いて話していた太一が俺の目を見て言った。
「それで、お前は彼女をどうしたいんだ?」
かなり脱線したがようやく本筋に入ったな。
「どうって……正直、恋愛の対象としては厳しい。あの胸がある限りエロイことに及ぶ気にならないから付き合えない。でも悪い奴じゃなさそうだし、ずっと友達のままでいられたらって思う」
「都合の良い話だなあ」
本当に、心底そう思うよ。
「そうだな、どこかで伝えなきゃいけないだろうな」
安達はまた泣くんだろうか。今度の涙は告白の時と同じように悲しみの色だろう。




