エピローグ 河原之煙
学侶曼済は、盛大に執行されている圓曼大僧正の葬列を密かに抜け出した。曼済が向かった先は、寺域より少し離れて流れる河原であった。大僧正生害の大罪を犯した与三郎は俗人の手によって即日斬刑に処され、埋葬さえ許されず、遺体は河原に捨て置かれることとなった。与三郎の取調べに当たった曼済は、せめてもの供養として、香大寺関係者の目を盗んで掘った簡素な墓穴に与三郎を埋葬した。
数珠につながれたしゃれこうべは、与三郎とともに埋葬することとした。
与三郎は、しゃれこうべを狛若のものだと言った。そうであれば、生前狛若に格別の寵愛を与えた圓曼大僧正とともに葬るのが適当であろうとの声も上がったが、それに強硬に反対したのは他ならぬ曼済であった。
「このしゃれこうべが狛若のものかどうか、本当のところは誰にも分からない。嫉妬に狂った与三郎がいずこにてか手に入れ、狛若のものだなどと騙っただけの、何者か他人の首でないとも言い切れぬ」
曼済の意見により、しゃれこうべを圓曼大僧正ととも葬るの儀は見送られた。曼済は、持ち出したしゃれこうべを、迷うことなく与三郎とともに葬った。
曼済は河原で香を焚き、合掌した。横風に煽られた煙が途切れそうになった。しかし煙は消えずに空へと昇っていった。しばらく煙を見上げていた曼済だったが、やがて背を向け、香大寺へと帰っていった。
曼済は振り返らなかった。
完




