から揚げ
「から揚げは、あんちゃんが揚げた方が美味いな」
誰に言ってんだよ、と孔明はむすっとした顔でから揚げを口に放り込み、咀嚼する。
「孔ちゃんは、そろそろいい子ができたんじゃないの」
そこに冗談とも本気ともつかない顔で言われ、孔明の顔が引きつった。
いい子って、何だよ。
「……まだまだ諦めてませんから」
「ははは、相変わらず言うねぇ君は」
久々にお気に入りの孔明に会え、小日向は嬉しそうだ。
「あんちゃんに、今度孔明と仕事することになったって伝えたらえらく喜んでさ。あ、これはマジで」
「そーですか」
孔明は握ったフォークを怒りに任せ、残りのから揚げにぶっ刺した。
「このから揚げも、十分美味しいですよ!」
あんちゃん、あんちゃんと先生の事、気安く呼びやがって、と思うが悔しいかな口には出せない。
だって相手は、その先生の夫だ。どう呼ぼうと彼の勝手なんだよね。
どんなに悔しかろうと、どうしようもない。
「そうだ。炒飯ありましたよ、お好きでしたよね。取ってきましょうか」
「ああ、お願いしようかな。そうそう君が考案した炒飯オムライス。娘が好物でね……」
仲良く食べているのかと思っていたが、微妙な空気感に怜子と和真が気付いた。
こっちを向いてる小日向はニコニコと楽しそうなのに、どう見ても孔明の背中はイラついて見える。
そこへ雑用を終えた市村が入ってきて、取り分けた料理を持って孔明の方へ行こうとした。
「あ、ばか」
と和真。
「うわぁ、流れ弾食らっちゃう~」
と楽しそうな怜子に対し隣の都は、思わず目をぎゅっとつぶってしまった。
運が悪い事に、丁度立ち上がった孔明と向き合う形になり、市村が鬼の形相の孔明に睨みつけられる。
え~~~っ?
声にならない、市村の悲鳴が和真には聞こえた気がした。
べそをかきそうな顔で右を見たら、にっこにっこのプロジェクトマネージャーが手を振っている。
「君も一緒に食べる? から揚げ美味しいよ」
「たった今市村が、被弾しました」
と和真が言い、
「回収してきま~す」
と席を立つ。
硬直した市村を和真が無事回収し、自分の隣に座らせた。
「怖かったです……」
「大丈夫、気にしなくて良いんだよ。君は通りすがりの、ただの被害者だから」
と和真。
「さ、好きなもんいっぱい食べて」
怜子もすかさず慰める。
「私、何か飲み物取ってきます。市村さんに後片づけ全部お願いする形になっちゃったお詫びです」
と都はすまなそうに声をかけ席を立った。
「樋浦GMの顔怖かったっス。あのプロジェクトマネージャー、何ですか。あの状況でにっこにっこ笑ってましたよ」
僕、あのメンタルが怖いですと市村が半べそをかいていた。
「鋼のメンタルですから、ウチの課長は。あ、そうそう」
開発チーフの中村が意外な事を言ってきた。
「樋浦GMは、課長の奥さんの元教え子さんだそうで。課長が会うのをとても楽しみにしてたんですよ」
やっぱりだ。怜子は改めて小日向の方を向いた。孔明の長年の恋敵ってあの人だったんだ、と。
「どうやら嫌われてるみたいで、俺は樋浦君に片思いなんだよって言ってました」
顔合わせ前にお互いのレジュメを交換しているため、バックグラウンドは知られている。
が、だ。
何だと? 片思いだって。
「樋浦GMの事、ものすごく褒めてました。課長も努力の人だから、同じ匂いがするGMの事が気になるんでしょうね」
――先生の家に半分居候になっていた
あの夜、居酒屋でそう言った孔明の言葉を思い出す。
あいつ、夫婦で可愛がられてたんだ。なんだ、そういうことか。
怜子は独り、したり顔で頷いた。
さて、こちらは小日向と孔明のテーブルだが、料理を取りに行った孔明がどうぞと小日向に勧めていた。
「ありがとう、孔ちゃん。たまには顔出してよ、ね。あんちゃんが喜ぶから」
孔明はポケットからハンカチを取り出し顔を覆う。
「くそう。和哉さん、ボクをからかって面白いですか」
「里帰りみたいなもんだろ。遠慮すんなよ」
と小日向が孔明の左肩を掴む。
その肩を揺らし振りほどこうとするが、小日向はがっちりつかんで離しそうにない。
「頑張ったな、孔明。待ってたんだぞ」
孔明は顔にかけたハンカチの上から目を押さえる。
「あー、疲れた。目が痛てぇよ、まったく」
とうそぶいた。




