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急がば回れじゃ遅すぎるっ  ——ただし、笑いの裏には、それぞれの過去がある  作者: 井氷鹿
第1章 DEAD STOCK

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上位互換

 昼食はブッフェスタイルで、オフィス西側の会議室に準備されていた。

 入口壁に沿って設置されたテーブルに、所狭しと美味しそうな料理が並べられている。

 和洋中の折衷料理といった感じだ。

 サラダバーも用意されていて、カットフルーツまで付いていた。

 やはり目を引くのはメインの肉料理、ローストビーフと野菜たっぷりのミートローフ。

 付け合わせにポテトフライと人参、コーン、ブロッコリーが添えてある。

 都のリサーチによると、ハンバーグじゃないところがミソらしい。

 味は前回のランチミーティングで、確認済みだから間違いないのだ。

 こちらはデミではなく、オリジナルのソースが用意されていた。

 テーブルの角には煮小豆と白玉、珈琲とフルーツのゼリーのデザート付き。

 アイシングのかかったミニカップケーキまで用意されている。

 これじゃ、見るだけでお腹が膨れそうだ。

 そして少し離して窓際に、テーブルが三つ準備されていた。

 

 各自お好みの料理をとりわけ、席に着くのだがなぜか小日向が孔明の横から離れない。

「プレゼン以来だよね。挨拶しようと手を振ったのに、孔ちゃんってばつれないんだから。元気にしてた? 一緒に仕事が出来るなんてびっくりだよ」

 楽しげに話しかけられ、孔明の顔が引きつる。

「それは、失礼」

 不愛想に答え適当に目の前の料理を取り、離れようと背を向ける。

 しかし小日向は意に介せず、

「ほら、から揚げもあるよ。孔ちゃん昔から大好物だったじゃん。ウチのが作ったやつよく食べてたよね。専門店より美味いって」

 と、どんどん話しかけてくる。

「ねーねー、一緒に食べようよ、昔みたいに、孔ちゃんってば」

 それを耳聡く聞いた怜子が立ち止まり、何食わぬ顔で聞き耳を立てる。

「和哉さん、あっち行きます?」

 諦めたのか、孔明がMTT社員とは逆サイドのテーブルに顔を向け顎をしゃくる。

「やった。久々に一緒に食事だ! から揚げは、孔ちゃんの分もっと」

 小日向は余分にから揚げを別皿に取り、両手に皿を持って楽しげにテーブルに運んでいく。

 それを見て、慌てて和真が追いかけようとした。

「あ、御園生君!」

 和真に気が付いた怜子が声をかける。

 お前どこ行くんだよこっち来い! とド迫力の顔とジェスチャーで呼び戻した。

 その圧の強さに和真が走って怜子の傍へ来る。

「あれ、たぶん例の庵野先生のご主人だと、思う」

 と怜子が小声でささやくと、都と和真が同時に小日向の方を振り返った。

 窓を背に座った小日向が丁度こちらを振り返る。

「皆さん、お先にいただきまーす」

 自分を見ている怜子と都と加藤と和真に向かい、子供のように手に持ったフォークを左右に揺らしてご機嫌だ。

「とっても美味しそうで、もう我慢できないです。OUTECH日本の女性社員は美人なうえに料理のセンスも抜群だなんて、羨ましいなぁ、()()()()が」

 超ご機嫌の笑顔で、都たちに愛嬌を振りまく姿は、まるで……

 こちらに背を向けている孔明の背中が上下に震えているように見えるのは錯覚か?

 

「あの人、醤油系だけど、めっちゃめっちゃオトコマエじゃないですか。ヒュウマネの上位互換?」

 年が上ってことで、と都が言う。

「ヒュウマネの上位互換……」

 和真はなんとか笑うのをこらえているようだ。

 実際ここまでやることが同じなのに、それが自然に見えるからたまらない。

 確かに上位互換だ、こりゃ。

 怜子が、長いため息をついた。

 そこへMTTの女性社員が、お皿を持って遠慮がちに声をかけてきた。

「よかったら、ご一緒しませんか」

「……! はい喜んで」

 願ってもない誘いだ。

 怜子が笑顔で応え、MTTの社員とテーブルを囲むことになった。

 フットワークの軽い和真が、すかさず隣のテーブルを運んでセットする。

 都も椅子を運んでくる。

 期せずして、孔明と小日向以外の社員全員でテーブルを囲むことになった。

「小日向課長、めっちゃノリが軽いでしょう。あの態度と見かけで、ビックリしますよね」

 と申し訳なさそうに、女子社員の一人が口を開いた。

 それを聞いて、怜子以下全員の顔が引きつった。

 どっかで見た様な。

 あ、すぐ後ろに座ってた。

「いえ、ウチの樋浦もかなり軽いですから、慣れてます。ええ」

 いやいや、と別のMTTの男性社員が割って入ってくる。

「プレゼン拝見しましたが、そちらのGMは洗練されてて、ステキじゃないですか。お恥ずかしい話、ウチの課長は仕事はピカ一なんですが……」

 と言いよどむ。

「難アリなんですよ。社内じゃツ・ラ・デュークって呼ばれてまして」

 と女性社員が追い打ちをかける。

 とうとう我慢できず、怜子も和真も都も、そして加藤梢までもが噴き出した。

「ウチの……樋浦はツラ王子です……」

 と都が笑いをこらえながらなんとか伝えると。

 MTT社員の顔が一瞬固まり、そして

「えーーーーっ」

 そーなんですかと一斉に孔明を見た。

 やや(しゃ)に構えて座る孔明と、向こう正面に笑顔で食事をとっている小日向。

 孔明がこちらを向き愛想笑いを浮かべ、親指を立てた。

 気が付いた小日向が、これ美味しいよと言うように都に向かって親指を立てウインクをしてきた。

「うわっ」

 やることまで同じだ。

「もう放っといて、こっちはコッチで頂きましょう」

 そうしましょう、と全員が即答した。

最後まで読んで頂きありがとうございます。

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