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男女六人殺人事件  作者: 落川翔太
1/12

今回は本格ミステリーです。

ぜひ最後まで楽しんでいただけたら、幸いです。

 1


 西村貴紀(にしむらたかのり)はレンタカーを運転していた。高校時代の仲間である島田亜衣(しまだあい)森瞬太郎(もりしゅんたろう)の二人を乗せていた。

 八月八日。大学の夏休みであった。その日、貴紀は高校時代の仲間である五人のメンバーたちと旅行へ行くことになり、三泊四日で軽井沢の貸別荘に泊まることになった。ちょうど貴紀の運転する車の後ろに、グレーのレンタカーが付いてきている。その車に、今野壮介(こんのそうすけ)松本(まつもと)みゆき、東野香奈(ひがしのかな)が乗っている。

貴紀たちの乗る車のカーラジオから音楽が流れている。四人組の男性グループが夏の曲を軽やかに歌っていた。

「この歌なんだっけ?」

 ふと、茶髪パーマでサングラスを掛けた瞬太郎が二人にそう訊いた。

「え? うち、知らなーい」と、黒髪のツインテールに白のワンピースを着た亜衣が答えた。

「そうか。貴紀、知ってる?」

 それから今度、瞬太郎が貴紀に訊いた。

 貴紀はその曲を聴いたことがあった。なんて曲だったか。貴紀は考えた。それから、少しして思い出す。

「ええっと、男女六人夏物語だね」

「あー、そうだ! 歌ってるのって誰だっけ?」

「ケツメイシだよ」

「そうだそうだ」

 瞬太郎が思い出したように言った。

「そう言えば、私達も六人だね」

それから、亜衣がそう言った。

「しかも夏だし、偶然だな!」と、瞬太郎は言って笑う。

 確かに偶然だなと、貴紀も思った。

「ホントだね! まさに今のうちらって感じね」

 亜衣がそう言うと、三人は大笑いした。

 東京から二時間程、車を走らせて、ようやく貴紀たちは軽井沢に着いた。それから十分ほど車を走らせ、別荘の管理施設へと向かった。

「いらっしゃいませ」

 中へ入ると、アロハシャツを着て、紺色の短パンをはいた男性が出迎えてくれた。白髪交じりの髪型で、髭面の優しそうなおじさんであった。

「本日、六名で予約しています西村と申します」

 貴紀がそう言うと、「西村様ですね。お待ちしておりました」と、その男性が言った。

「私、管理人の前田(まえだ)と申します。こちらが皆様に泊まっていただく青木様の別荘になります」

 管理人の前田は地図を見せながら、そう言った。

「場所はここから車で十分ほどの場所になります」

「分かりました」

「それと、これが別荘の鍵になります」

 前田はそう言って、貴紀に鍵を渡した。

「ありがとうございます」

「ああ、それと、一つ忠告を」

「何ですか?」

「近頃、この別荘の辺りに不審者が出ているという情報がございまして、泊まったお客様の中には、携帯やお財布などの貴重品が盗まれたという報告を受けております」

「そうですか」

 なんて物騒なのだろうと貴紀は思った。

「はい。ですから、盗難防止のため私たちが管理する別荘の全てに『金庫』を設置させておりますので、宜しければ貴重品はそちらで管理なさってください。万が一取られたとしても、弊社では責任を取れませんので、ご協力の方よろしくお願い致します」

「分かりました」と、貴紀は返事した。

 チェックインを済ませた後、貴紀たちはそこから車で十分ほどの所にある自分たちが泊まるその別荘へ向かった。地図を頼りに、貴紀と亜衣、瞬太郎の三人の乗る車が先頭に車を走らせて、壮介とみゆき、香奈の三人の車が後に続いた。十分ほどして、貴紀たちはその別荘へ着いた。

 別荘に着いて、貴紀は早速、鍵を開けた。

 一同はその別荘に入るなり、すぐに部屋の中を見て回った。

 玄関を入ると、広い部屋が見えた。目の前にキッチンが見え、すぐ左側がダイニングとリビングが繋がっていることに気付いた。玄関の右側にトイレと洗面所、お風呂場があった。

 そして、リビングの左側に窓があり、窓を開けるとそこはウッドデッキになっていた。そのウッドデッキは、外のすぐそばにもあった。

 玄関を開けた左側に階段があり、二階に上がれるようになっていた。二階は寝室であった。階段を上がると、目の前にトイレがある。それと、寝室が六部屋、個別になっていた。

 一同が部屋を見た後、一度、リビングへ集合した。

「すごい素敵な別荘ね」と、黒髪でロングヘアの香奈が言った。

「ホントにそうだな」と、キャップを被り、髭を生やした壮介が頷くように言った。

「ねえ、皆、何か飲まない?」

 それから、亜衣が全員にそう訊いた。

「いいね。暑いから、冷たい物でも飲みたいな」と、瞬太郎が言った。

「キッチンに紅茶とコーヒーがあるから、アイスティーかアイスコーヒーなら作れるよ」

 亜衣がそう言うと、「じゃあ、俺はアイスコーヒーで」と、瞬太郎が言った。

「分かった。他のみんなは?」

亜衣がそう訊くと、「私はアイスティーで」と香奈が言った。その後、「私も」と、みゆきが言った。

 壮介が「俺はコーヒーで」と言ったので、貴紀もアイスコーヒーにすることにした。

「オッケー。今作るね」

亜衣がそう言って、キッチンへと向かう。

「ありがとう」と瞬太郎が応えると、「あ、瞬君も手伝って!」と、亜衣が言って手招きをした。亜衣に名指しされた瞬太郎は「はいはい」と言って、亜衣のいるキッチンへ向かった。

「さすが、カップルは違うなぁ……。」

 その後、香奈が呟くように言った。

 亜衣と瞬太郎の二人は、高校時代から付き合っていた。今も付き合っている仲良しカップルであった。貴紀は彼らを見ていて、微笑ましいなと思っていた。

「ホントだね」

 それから、壮介が彼らを見て言った。

「ホントだねって、あんたたちだってそうでしょ?」

 それからすぐに、香奈が壮介の言葉に突っ込むように言った。

「ああ」

 壮介はみゆきの方をちらりと見た。彼女は黒髪のミディアムヘアで眼鏡を掛けている。壮介と目が合ったみゆきはにこにこと笑っている。壮介とみゆきも付き合っているのだ。

 このメンバーの中で恋人がいないのは、香奈と貴紀の二人だった。

「お待たせ!」

 そうこう話しているうちに、亜衣と瞬太郎が人数分のアイスコーヒーとアイスティーを作り終わり、リビングへと運んでくれた。二人はリビングのソファに座っている四人の目の前にそれぞれの飲み物を置いた。その後、亜衣と瞬太郎は空いていた貴紀の隣に自分たちの飲み物を置き、二人はそこへ座った。

 一同はそれぞれの飲み物で喉を潤した。

「ねえ、みんな」

 その後、香奈が口を開いた。

「二階の寝室が六部屋あったよね?」

「そうだね」と、瞬太郎が言った。

「部屋割り決めとかない?」

香奈がそう言うと、「ああ、そうだな」と、壮介が頷く。「そうだね」と、貴紀も言った。

「じゃあさ、どうする?」

 貴紀がそう訊いた後、「あ、ちょっと待って」と亜衣が何かを思い出したように言って、ソファから立ち上がった。貴紀たち五人は亜衣を目で追った。亜衣が近くに置いてある自分のカバンからノートと筆箱を取り出して、こちらに戻ってきた。

 それから、亜衣が白紙のページに二階の寝室の絵を描いた。

「たしか二階ってこんな感じだったよね?」

 二階には寝室が六部屋あり、真ん中の廊下を挟んで上に四部屋、下に二部屋とトイレが一つという造りになっていた。亜衣が書いた絵はまさにそれと同じである。

「うん、そうだね」

 貴紀がそう頷くと、「じゃあ、この絵の左上の部屋から時計回りに部屋の番号を一、二、三、四、五、六とするね」と、亜衣が言った。「それで、どの部屋で寝るかだけど、どこがいい?」

 亜衣がそう訊いた後、瞬太郎が口を開いた。

「オレは亜衣と隣同士の部屋がいい」

「うん、うちも」と、亜衣が言った。

「俺もみゆきと隣同士の方がいいな」

 それから、壮介がそう言った。「なあ、みゆき?」

「うん」と、みゆきは小さく頷いた。

「じゃあ、一と二。三と四。五と六をまとまりとして、それぞれ二組がどこの部屋にするか決めようか?」

 貴紀がそう言うと、香奈が口を開いた。

「あたし、トイレの前とかいやよ。だから、一番と二番以外がいいわ」

 一番の部屋の前にちょうどトイレがあった。

「うちも」

 それから、亜衣がそう言った。

「私も……。」

 その後、みゆきも呟くように言った。

「じゃあ、香奈は四番の部屋はどう?」

 貴紀がそう訊くと、「ええ、いいわ」と納得したように言った。

「それで、僕が一番の部屋で寝る」

 貴紀はそう言い、「後は、二番と三番、五番と六番の部屋を瞬太郎と壮介たちで決めて」と言って、後は彼らの話し合いに任せることにした。

 そして、瞬太郎と壮介たち四人は話し合い、二番に亜衣が、三番に瞬太郎が、五番にみゆきが、そして六番に壮介が寝ることになった。

 部屋決めが終わった後も、貴紀たちはリビングで飲み物を嗜みながら、ゆっくりとしていた。

 それからしばらくして、壮介がシャツの胸ポケットから煙草の箱を取り出した。

「ちょっと一服」と彼は言って煙草を咥え、ズボンのポケットをまさぐりライターを取り出した。

「壮介君、タバコ」

 その後、みゆきが壮介を見て言った。「吸うなら外で吸って来て。みんながいるから」

 みゆきがそう言うと、壮介は咥えていた煙草を一度外し、チッと舌打ちをした後で、「分かったよ」と言ってリビングの窓を開け、ウッドデッキへと出ていった。

 そこで壮介は再び煙草を咥えて火をつけた。それから、壮介は気持ちよさそうに煙草の煙を吐いていた。

「みゆきちゃんは壮介に厳しいね」

 その後、瞬太郎がそう言って笑った。

「だって……。」

「だって?」

「私、タバコ嫌いだもん。だって、タバコ吸うのって、健康に悪影響でしょ?」

「まあ、確かにそうだな」

「でも、それでよく付き合っていられているわね?」

 その後、香奈が茶化すように言った。

「ええっと、それは……。」と、みゆきは恥ずかしそうに言った。

 それから、「分かってるわよ。壮介のことが好きなんでしょ?」と、香奈はそう言って笑った。

 うんとみゆきは頷いて、照れ臭そうに笑った。

「ねえ、見て。ピアノ!」

 その後、亜衣がそれを指さし、口を開いた。

 確かにこのリビングのソファの後ろ側にピアノがあった。

「本当だ!」と、瞬太郎が気づいて言った。貴紀や他の四人のメンバーがそれに気付いた。

「こんな別荘にピアノがあるなんて珍しいな」と、瞬太郎が言った。

「だよね?」と、亜衣が嬉しそうに言った。

「もしかしたら、ここのオーナーかオーナーの家族がピアノ好きなのかもしれないね」

 それから、みゆきがそう言った。

「あ、確かに」と、貴紀は納得した。

 それから、「さすが、警察の娘だけあるな」と、瞬太郎が言った。

 みゆきの父親は警察官だった。

「そうだけど……。」と、みゆきが言う。

「本当、名推理ね」

 それから、香奈がそう言って笑った。

「別に……。そんな推理と言うほどでもないわ。ただの推察よ」

 その後、みゆきはそう断言した。

「そっか。まあ、確かにそう言われてみればそうか」瞬太郎はそう言った後、「悪い悪い」と言って、みゆきに謝った。

 それから、タバコを吸い終えた壮介が戻ってきた。

「なんの話をしているんだい? ああ、ピアノ?」と、壮介が訊いた。

「そう」と、みゆきが頷く。

「ところで、誰かピアノ弾ける奴はいるかい?」

 話を変えようと、瞬太郎がみんなに訊いた。

「うちは弾けないよ」と、亜衣が言った。

「貴紀は?」

「僕も弾けないよ」と、貴紀も答える。

「みゆきちゃんは?」

「私も弾けない」

「壮介は?」

「え? ピアノ? 弾けない弾けない」

「私は弾けるよ」

 香奈がさらりと言った。

「うそ!? マジで?」と瞬太郎が言い、「香奈、弾いてよー」と、亜衣が言った。

「いいよ」

 香奈はすぐにソファから立ち上がり、ピアノの前まで行ってその鍵盤を開けた。それから、香奈はその椅子に座り、鍵盤に指を置いて一度、深呼吸をした。

 香奈はピアノを弾き始めた。その曲は「猫ふんじゃった」であった。

 香奈がピアノを弾き終えると、貴紀たちは「おー」と言って、拍手をした。

「もう一曲」

 その後、香奈がそう言って、再び鍵盤に指をやる。そして、次の曲を弾き始めた。それは、クラシックの曲であった。貴紀はその曲を聴いたことがあったが、何と言う曲だったかすぐに出てこなかった。

 香奈がその曲を弾き終えると、「すげー」と、瞬太郎が言って他のみんなも驚くような顔をした。そして、すぐに香奈のその演奏に皆が拍手をした。

「なんて曲だっけ?」

 貴紀がそう訊くと、香奈が「トルコ行進曲だよ」と答えた。

 それから、「モーツァルトだよね」と、みゆきが言った。

「そう」

「へー。みゆきちゃん、良く知ってるね」

 貴紀がそう言うと、えへへとみゆきが笑った。


「よし! 今夜はバーベキューだ!」

 それから、瞬太郎が意気込むように言った。

 もうすぐ四時になろうとしていた。

「あ、そろそろ準備しようか」と、壮介が言った。

「そうね」と、香奈が言った。

「近くにスーパーあったよな?」

「うん。まずは買い出しに行かないとな」

「買い出しに行く人―?」と、瞬太郎がみんなに訊いた。

「俺は行くよ」と、壮介が言った。

「うちも行くー!」と、亜衣が言った。

「オッケー。みゆきちゃんは?」

「私はここで待ってる」

「分かった。香奈はどうする?」

「あたしも待ってる」

「了解。じゃあ、貴紀は来い!」

 瞬太郎にそう言われて、貴紀は買い物に付き合うことになった。

「分かった」

 それから、みゆきと香奈の二人を残して、貴紀たち四人でその近くのスーパーまで車で向かった。そこでバーベキュー用のお肉とピーマンやナスなどの野菜に、パックのご飯を人数分。それと六本入りの缶ビールを二つと、二リットルのペットボトルのお茶と水を一本ずつ買った。

 それからスーパーからの帰り、車のカーラジオからaikoの「花火」が流れた。

 それを聴いた瞬太郎が「あ、夜、花火やりたくない?」と言った。その後、亜衣が「いいね」と言ったので皆で花火をやることになり、先ほどの別荘の管理所へ寄って、そこで手持ち花火と蝋燭を買った。

 別荘に戻ると、午後五時を過ぎた頃であった。

 帰宅するなり、皆ですぐに手分けしてバーベキューの準備を始めた。瞬太郎と壮介はウッドデッキで炭に火を起こし始めた。貴紀と亜衣が冷蔵庫にお肉やビールなどの食料を入れていると、みゆきと香奈もやって来て、ピーマンやナスなどの野菜を切るなどを手伝ってくれた。

 そして、二十分くらいして炭に火が付き、肉を焼く準備ができた。それを終えた瞬太郎と壮介は疲れたのか、ウッドデッキのキャスターに座っていた。貴紀が食器をウッドデッキに運ぶ。亜衣は缶ビールを二つ持って来て、二人に渡した。

「お疲れ様」

「サンキュー」と言って瞬太郎は嬉しそうにそれを受け取ると、すぐにその缶ビールを開けた。「ありがとう」と壮介も受け取り、その缶を開ける。瞬太郎と壮介は缶を軽く鳴らし、ビールを飲んだ。

「ぷはーーっ。うめーー」

 ビールを一気に飲んだ瞬太郎がそう言って、息を吐く。

「はー、最高!」と壮介も言って、息をついた。

「貴紀たちも飲んだら?」

 それから、瞬太郎が笑って言った。

「うん、そうしよっか」と亜衣が言い、再びリビングの方へ戻った。

「亜衣ちゃんって、気が利くよね」と、壮介が笑って言った。

「だろ?」と、瞬太郎がのろけたように言った。

 貴紀も、亜衣は気が利くなと思った。

「貴紀、もう肉焼けるから肉持って来い。後、みんなも呼んでくれ」

 それから、瞬太郎がそう言った。

「分かった」

 貴紀は返事をしてリビングへ戻り、お肉と他の女子メンバーたちを呼んだ。


 六人がウッドデッキに集まり、テーブルを囲むように全員が座った。亜衣と香奈が肉や野菜を焼く。

「じゃあ、乾杯しますか」という瞬太郎の音頭で全員が缶ビールを開け、ビールを手に持った。

「じゃあ、大学お疲れ様! 夏休みに乾杯!」

 瞬太郎がそう言うと、「乾杯―!」と貴紀たちは言って缶を鳴らし、皆でビールを飲んだ。

「はー、うめー」

「うん、おいしい!」

「最高!」

と口々に言って、笑い合う。

「焦げちゃう焦げちゃう!」と亜衣が言い、焼いているお肉と野菜をひっくり返した。お肉や野菜はちょうどいい焼き加減で、ふーと亜衣は息を吐いた。

 それからすぐにお肉が焼けると、「もう食べられるよ」と亜衣は言って、皆にお肉を勧めた。「野菜ももう平気だよ」と香奈が言って、焼けたピーマンやナスを皆に勧めた。

「いただきます」

 瞬太郎は早速、焼けたお肉の一枚を取り、それを口へ頬張った。

「うん、うまい!」

 そう言ってから、ビールを流し込んだ。壮介やみゆきもお肉を食べ、「おいしい、おいしい」と言って嬉しそうに笑った。

 貴紀もお肉を一枚取り、それを口へ運んだ。噛むとその肉はジューシーで普通に美味しかった。白いご飯が食べたくなったが、とりあえずビールでそれを流し込んだ。

 その後も、たくさん肉や野菜を焼き、皆でそれらを食べた。

「白いご飯が欲しい」と、壮介が言った。

「他に食べたい人いる?」と、亜衣が訊いた。貴紀は食べたかったので、手を挙げた。その後、「オレも」と、瞬太郎が言った。

「香奈は?」と、亜衣が訊いた。

「あたしも少し食べたい」と香奈が言った。それから、「みゆきは?」と、彼女が訊いた。

「私もちょっとだけ」

「うちもちょっと食べたいな。女子三人で分けっこにする?」

 亜衣がそう言うと、「そうだね」と香奈が言った。うんとみゆきも頷いた。

「男子は一人一個でいい感じ?」

 その後、亜衣がそう訊いた。

「ああ、それでいいよ」と瞬太郎が言い、「な?」と、貴紀たちに訊いた。

「うん、いいよ」と、壮介が言った。貴紀も「うん」と頷いた。

「りょーかーい」

 亜衣はそう言って、リビングの窓からキッチンへと向かった。

「あ、亜衣、ついでにビール一本も!」

 それから、瞬太郎が亜衣にそう言った。

「はいはーい」

「あ、他に飲む奴いる?」

 それから、瞬太郎がそう皆に訊くと、「俺も欲しい」と壮介が言ったので、瞬太郎は「亜衣、やっぱビール、二本ちょうだい!」と、大声で言った。「はーい」と奥から亜衣の声が聞こえた。

 それからすぐに亜衣は缶ビールを二本持ってきた。その後、再びキッチンへ戻り、四人分のご飯を温めてくれた。

「お待たせ」

 しばらくして、亜衣がご飯を盛った茶碗を六つお盆に乗せてやって来た。亜衣は普通に盛られたご飯を三人の男子メンバーの前に置き、少なく盛られたご飯を他の女子メンバーと自分の前に置いた。彼女はまるで食堂のおばちゃんのようだなと貴紀は思った。

「亜衣、ありがとう」と、香奈が言った。

「いいえー」と、亜衣は言った。

「亜衣ちゃん、ありがとう」と、壮介も言った。

「ありがとう」と、貴紀とみゆきも言った。

 それから、「亜衣、サンキュー」と瞬太郎が言って、ビールを飲んだ。

 その後も、貴紀たちはお肉や野菜を食べながらビールを飲み、雑談をしていた。

 ふと、ひぐらしの鳴く声がした。


 気が付けば、外は暗くなっていた。午後七時である。

 貴紀たちはお肉やビールをたくさん食べて飲んでいたこともあり、満足していた。

 壮介は夕食後の一服を始めた。

「みんな、部屋でゆっくりしない?」

 香奈がそう言った。

「そうだね」と、瞬太郎が言った。

「その前に、これ片づけちゃわないと」

 それから、亜衣がそう言った。

「じゃあ、皆で片づけだ!」

 壮介がそう言い、貴紀たちはバーベキューの片づけを始めた。

 それを終えた後、瞬太郎がリビングのソファに腰を下ろし、テレビを付けた。テレビの画面はニュースが映し出されたが、瞬太郎はリモコンでチャンネルをバラエティー番組に変えた。その後、貴紀と壮介もソファに座り、亜衣たち三人もソファに腰を下ろした。六人でその番組を観て大笑いした。

「ねえ、あれって金庫だよね?」

 その番組がシーエムになった時、ふとみゆきがテレビの左隣にあるものを指さして言った。

「ああ、そうだな」と、瞬太郎が言った。

「みんな、まだ貴重品入れてないよね?」

 それから、みゆきが皆に訊いた。

「入れてないや」と、壮介が言った。

「うちも」と、亜衣が言った。

「あたしもまだ入れてなかったな」と香奈が言い、「オレも」と瞬太郎も言った。

 貴紀もまだその金庫に貴重品を入れていなかった。

「入れておこうよ」

 それから、みゆきが言った。

「しかし、あの話って本当なのかな?」

 その後、壮介がそう言った。

「この近くに貴重品を狙う窃盗犯がいるって話?」と、香奈が訊いた。

「そう。本当に盗まれるのか?」

「さあ?」 

「盗むっていったって、だいたいそいつはどうやって盗むんだ? そいつがこの別荘に入ってくるのか? 人がいるのに、そいつは勝手に入って来るのかよ? そうだったとしたら、その窃盗犯アホ過ぎないか?」

 壮介が捲し立てるように言った。

「確かにな」と、瞬太郎は言って笑った。壮介のその話に、亜衣や香奈も笑った。

「入って来るかどうかは分からないけど、管理人が言っているんだから、本当じゃないかな?」

 その後、貴紀がそう言った。

「そうだよ」と、みゆきも言った。

「そうかなぁ?」と、壮介はやや疑っているようだった。

 それから、みゆきが口を開いた。

「窃盗犯がそう入って来るかは分からないし、どう盗むかもわからないわ。けど、例えばバーベキュー中に、携帯や財布を置きっぱなしのまま席を外したら、盗まれるなんてこともあるのよ」

「なるほど」と、貴紀は言った。

「それに、私たちが寝ている間に、その人物が勝手に別荘に入って来ることだってあるわ。その時に盗られる可能性だってあるんだから」

 みゆきが珍しく大きな声でそう言った。みゆきは父親が警察官であるからか正義感が強いのかもしれない。本当はとても気の強い女の子のなのかもしれないと貴紀は思った。

「僕もみゆきちゃんの言うことは考えられると思うんだ」

 それから、貴紀がそう言った。彼女の言っていることは、間違っていないと思ったからだ。

「まあ、用心したほうがいいってことだな」

 その後すぐに、瞬太郎がそう言った。

「ええ、そうよね」と、香奈も納得して言った。

「分かった」と、亜衣が言った。「みんな、貴重品を金庫にしまおう!」

 そうして、みゆきと瞬太郎、香奈、亜衣はカバンから貴重品を持ってきて、その金庫の中に入れた。貴紀も携帯と財布をそこへ入れた。

「壮介君も、入れて」

 それから、みゆきがそう言うと、「俺は自分の貴重品くらい、自分で管理するよ」と、壮介は言った。

「盗まれても知らないよ?」と、亜衣が言った。

「ああ、窃盗犯なんていないだろうから、大丈夫さ」と、彼は言った。

「ならいいんだな?」と瞬太郎が訊いて、「ああ」と、彼は答えた。

「分かった」と貴紀は言って、金庫の鍵を閉めた。

「ところで、その鍵は誰が持っておくんだ?」

 その後、壮介がそう訊いた。

「僕が持つことにするけど、いいかな?」

 貴紀がそう言って、皆に訊いた。

「ああ、いいぜ」と瞬太郎が言い、「いいよん」と、亜衣も言った。香奈とみゆきも頷いた。

 貴紀はその鍵をポケットのズボンにいれた。

「あ、そうだ」

 ふと亜衣が口を開いた。「お風呂まだやってなかった」

「あたし洗って、入れてこようか?」

 それから、香奈が言った。

「香奈、いい?」

「うん、いいよ」

 香奈はそう言うと、お風呂場へ行って浴槽を洗い、お湯を貯めた。

「香奈、ありがとう」

 お風呂場から戻った香奈に亜衣が言った。

「どういたしまして」

「あ、そうだ! みんなで花火やろうよ!」

 その後、瞬太郎が思い出して言った。

「いいね!」と亜衣が嬉しそうに言い、「やろうやろう!」と香奈が言った。貴紀やみゆき、壮介も頷き、全員で花火をすることにした。

 それから、貴紀たちは玄関を周って、ウッドデッキに出た。

 瞬太郎が管理所で買った手持ち花火と蝋燭を持って外へ出てくる。蝋燭を地面に立てた。

「あ、チャッカマン買うの忘れてた」

 瞬太郎は思い出すようにそう言うと、「仕方ないな……」と壮介が言ってポケットからライターを取り出し、蝋燭に火をつけた。

「壮介、サンキュー」

 瞬太郎が安心したように言った。

 それから、瞬太郎が手持ち花火の袋を開けて、皆に一本ずつ花火を手渡した。

「あれ? バケツは?」

 その後、壮介がそう言った。

「バケツ?」

 瞬太郎は不思議に思って、訊いた。

「花火の燃えカス、水の入ったバケツに入れるだろ?」

 それから、壮介がそう言った。

「ああ、そっか」

 確かに貴紀も小さい頃、庭で花火をやったことがあった。その時、庭にあったバケツに水を入れて、そこに燃えカスを入れていたのを思い出した。

「バケツどっかにあったかな?」

 貴紀がそう訊くと、「バーベキューの機材には無かったよな」と、瞬太郎が思い出すように言った。

「そうだね」

「あ!」

 それから、壮介が何かを閃いたようで口を開いた。

「さっき飲んだお茶のペットボトルって、もう空だったよな?」

「うん、そうだけど」

 亜衣がそう言うと、「じゃあ、それに水半分くらい入れて、そこに燃えカスを入れようか」と、壮介が言った。

 なるほど、と貴紀は思った。

「オー、ナイスアイディア!」

 それから、瞬太郎がそう言った。「ちょっとそれに水入れてくるわ」と彼は言って、一度別荘の中へと戻った。それからすぐに瞬太郎は、空だった緑茶のペットボトルに水を半分くらい入れて、やって来た。

「お待たせ。じゃあ、始めるか」

 瞬太郎がそう言うと、それぞれが持っている手持ち花火に火をつけた。

 亜衣が持っている花火に火が付き、火花が吹き始めた。

「うわー、きれー」

 亜衣はキラキラと光る花火を見て、嬉しそうにそう言った。

 その後に、香奈が持っている花火にも火が付いた。壮介が持っている花火にも火が付き、みゆきのにも付いた。どれも綺麗に吹き出していた。

 貴紀も自分の持っている花火に火をつける。しばらくして、貴紀のそれにも火花が出た。ぴかぴかと光るその花火はとても綺麗だった。

 その後も、皆が次々と花火を一本取り、火をつけていた。その花火は持ち手の柄や色によって赤や青、緑や白の火花が色鮮やかに吹き出していて、それはとても美しかった。

 貴紀はその花火を楽しんでいた。他の皆もめいめいに楽しんでいた。

「さあ、次がラストだよ」

 それから、瞬太郎が言った。

 気が付けば、全ての花火を楽しんでいた。そして、最後に残ったのが、

「線香花火ね」

 瞬太郎が再び全員に一本ずつ線香花火を手渡した。

 そして、「誰が一番落とさずに長く火を保てるか」と、彼が言った。

「勝負ね」と、香奈が言った。

「負けないよ」と、壮介が言った。

「じゃあ、行くよ。せーの」

 瞬太郎の掛け声で、皆が一斉に自分の線香花火に火をつけた。火が付くと、それぞれが自分たちの線香花火を大事に扱う。皆がじっと我慢をして、自分の線香花火を見ていた。

「あ……。」

 一番手に落ちてしまったのは、みゆきの線香花火だった。みゆきはがっかりした。

「おう……。」

 次いで、瞬太郎の花火が落ちた。瞬太郎は少し残念に思った。

 その後、最悪なことに風が少し吹いた。そのせいでか、香奈の花火が落ちてしまった。

「うそ……。」

 香奈は残念そうに言った。

 香奈の後、ややあって、亜衣の花火が落ちた。

「あーあ」

 亜衣は悔しそうに言った。

「お、残るは二人」と、瞬太郎が実況をする。

「「あ!」」 

 その後、貴紀と壮介が同時に声を出した。

 貴紀と壮介の花火が同時に落ちたのだった。

「ということは……。優勝は、貴紀と壮介の二人だな」

 それから、瞬太郎がそう言って、笑った。

「おめでとう!」

 その後、亜衣が貴紀と壮介に言って、笑顔を見せた。

 おめでとう、とみゆきや香奈も言って笑った。

「さあ、花火はおしまい。で、お風呂誰から入る?」

 その後、瞬太郎が皆に訊いた。

「勝った人からってのはどう?」

 それから、亜衣がそう提案するように言った。

「ああ、そうしよう!」と、香奈も言った。「みゆきもいいよね?」

「うん」と、みゆきが頷いた。

「オッケー」と瞬太郎が言った。「じゃあ、優勝した二人でどっちが先に入るか決めてくれ」と、彼が後は任せたと言わんばかりにそう言った。

「分かった」と貴紀は返事をして、「壮介どうする?」と、壮介に訊いた。

「俺は後でもいいよ」

 壮介がそう言うので、「じゃあ、お先に入らせてもらいます」と、貴紀は言って一番目に入ることになった。

 それから貴紀はすぐにお風呂に入った。その後、壮介が入り、他のメンバーたちも順番に入っていった。

 お風呂から出た後、貴紀はリビングのソファでテレビを観ながらくつろいでいた。しばらくして、壮介がお風呂から出て、リビングへやって来た。彼はキッチンへ行き、冷蔵庫を開けて缶ビールを出し、それを飲み始めた。

 それを見た貴紀はビールを飲みたくなった。

「貴紀も飲む?」

 その後、彼がそう訊いた。

「うん」と貴紀が頷くと、「はいよー」と言って、冷蔵庫からもう一本缶ビールを取り出して、貴紀に手渡した。

「サンキュー」

 貴紀は彼にそう言って、缶ビールを開けた。そして、それをくいっと飲んだ。

「はあ、うまい」

 貴紀は思わずそう言って、息を吐いた。

「最高だよな。風呂上りにビールって」

 それから、壮介がそう言った。

「うん」

「てか、旅行も手伝ってなのか、余計にうまく感じるよね」

「そうだね」

 亜衣の後、香奈がお風呂に入り、その後、瞬太郎が入った。そして、最後にみゆきが入った。

 みゆきがお風呂から出て、リビングへとやって来た。リビングには全員が集まった。

 それから、しばらくの間、皆でビールを飲みながら、雑談をしたり、テレビを観たりしていた。

「ふわー。眠くなってきた」

 亜衣があくびをしながら、そう言った。

「あたしも」

 その後、香奈がそう言った。

「そろそろ寝る?」

 それから、瞬太郎が亜衣に訊いた。

「うん、うちは寝ようかな」と、亜衣が言った。それから、「あたしも」と、香奈が言った。

「ねえ、瞬太郎」

 その後、亜衣が瞬太郎に声を掛ける。「うちの部屋に来て」

「分かった」と、瞬太郎が返事をする。

 それからすぐに亜衣は、二階へと上がった。

「じゃあ、みんな、おやすみ!」

 瞬太郎は四人のメンバーにそう言って、亜衣の後を追った。

「おやすみ」

「じゃあ、あたしも」と香奈が立ち上がり、「おやすみ」と言って二階の自分の部屋へ行った。

「壮介、私たちも上行かない?」

 その後、みゆきが壮介に言った。

「ああ、いいよ」

 壮介がそう言うと、みゆきも立ち上がり、「貴紀君、おやすみ」と言って二階に行った。

「貴紀、おやすみ」と壮介もそう言って、みゆきの後を追った。

「おやすみ」

 貴紀はそう言い、しばらくテレビを観ながらビールの残りを飲み干した。

 貴紀は、一度、時計に目をやった。午後十時を過ぎた頃だった。貴紀は一度、立ち上がり、リビングの窓を開け、ウッドデッキに出た。そこへ出ると、涼しい風が吹いた。それが貴紀にとって心地よく感じた。それから、貴紀はその辺りを見回した。

 貴紀がいるその別荘の正面から見て斜め左にも同じような建物があり、斜め右にも同じような別荘があった。その左側の別荘には明かりが点いていて、外には赤色の軽自動車が停められていた。夏休みということもあり、貴紀たちと同じように家族連れや学生たちなどがその別荘に泊まりに来ているのだろうなと貴紀は思った。その右側の別荘も明かりが点いていて、白の軽自動車が停まっているのが見えた。

 ふと、貴紀がそちらを見ると、その別荘のウッドデッキに金髪の男が煙草を吸いながら外の景色を眺めていた。貴紀は彼を見る。彼は貴紀の姿に気づくと、煙草を吸うのを止め、部屋に戻って行った。

 貴紀は先ほどまでバーベキューをしていたウッドデッキに目をやった。すると、そのテーブルに何かが置いてあるのが見えたのでそのテーブルの方まで行くと、そこに誰かのスマホが置いてあった。

「誰のだ?」

 そのスマホは貴紀のものではなかった。メンバーの誰かのものだろう。一体誰のものだろうかと思い、貴紀は考えた。すぐに誰のものかが分かった。これは壮介のものではないか。彼だけ貴重品を金庫にしまっていなかったのだ。

 無用心だなと、貴紀は思った。これでは本当に窃盗犯に貴重品を盗まれてしまうだろう。貴紀はそう思った後で、そのスマホを金庫の中に入れておくことにした。

 それからしばらく夜風に少し当たっていると、貴紀は眠くなってきたのが分かった。きっとビールを飲んだからであろう。貴紀もそろそろ寝ようと思い、リビングに戻った。それからすぐにテレビを消し、壮介のスマホを金庫にしまうと、貴紀は階段を上がった。

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