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神様と使徒の異世界白書  作者: 麿独活
第一章 【魔物という存在】
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第一章28 『神様と後日談』

 あれから三日が経った。

 あの後、俺達はアースディア様やフェルビナさんに救助されて事なきを得た。

 シオンも、アースディア様の治療を受けた後、すぐに意識が戻り、俺がいないことに気付いて再び一悶着あったようだが、概ね元気だ。

 ただ、俺が倒れた後のことはなにも覚えていないらしく、気が付いたら俺が消えかけていたそうだ。

 よって、事が事だっただけに念入りに身体を検査するということで、今フェルビナさんに連れられて検診に行っている。

 神が病気になるなんてことは無いらしいが、現身自体の不具合や、精神的な疲れで調子を崩すことは起こり得るらしく、現身専門の治療神(治療といってもカウンセラーに近いらしいが……)はいるらしい。

 シオンは平気だと強がってはいたが、精神的な疲労はかなりの物だったらしく、帰ってからというもの食欲不振で少し元気がなく、俺やフェルビナさんの強い勧めもあって嫌々ながらも通院している。


 因みに俺はと言うと、失った右腕は見事に元に戻り、五体満足の状態に復活していた。

 ヴリトラの体内から取り出した、体液まみれで一部溶けた右腕を見た時は正直引いたが、フェルビナさんの治療を経てくっつき、依然と同様に不都合なく動いている。

 あんな重症の状態が見る見る内に回復する様には驚いた。かなりの高等技法の特殊能力らしいが、使徒でも覚えることが出来るようで、今度練習の約束をした。

 再び、今回のようなことが起こらないとも限らないし、治療技術は必須だと思っていたので真剣に学ぼうと思う。

 俺もシオンももっと強くならなければならない。俺達の冒険は、まだ始まったばかりなのだから……。


 そんな風に気持ちを改めていた筈の俺が、今なにをしているかというと……アースディア様の書斎で、テレビゲームに興じていた。



「くっ!? この!」


「フォッフォッフォッ……甘いのう~」


 そう言って、こちらのキャラの攻撃をガードし、すかさず投げ技を決められる。


「クソッ!? 吸い込みすぎでしょう!」


「それがこのキャラの持ち味じゃ!」


 そう言って、投げ技からすかさずコンボに持ち込まれ、ぴよったタイミングでフィニッシュブローをきめられる。そして、健闘虚しくKOの文字が画面にデカデカと表示されて、敗北した。


「くっ……また負けた。強すぎでしょう、アースディア様……」


「フォッフォッフォッ……ワシはこのシリーズを初期の頃からやり込んでおるのだ。まだまだにわかには負けんよ」


「にわかって……まあ、アースディア様から言わせれば、にわかでしょうけど……」


 軽く溜め息を付いて、傍に置いてあった炭酸飲料が入ったコップを手に取り、一息入れる為に一口飲む。そして、いい加減負通しなんで、リベンジしたいが本題を切り出す。


「それで、いい加減お話を始めてくれませんか? 俺とゲームをする為に呼んだ訳ではないでしょう?」


 本当は、シオンの検診には俺も付き添いで行っていたのだが(シオンが一緒じゃなきゃ行かないと駄々をこねるので)、検診の間、外で待っているとアースディア様に呼び掛けられ、シオンの検診が終わるまでの間に話があると書斎に招かれた。

 だが、かれこれ十五分、何故かずっと二人でゲームに興じていた。


「うむ……まあ、なんじゃ……少々話し難い内容だったもんでの……少々場を和ませてからと思っての」


 そう言って、自身もコントローラーを置いて用意していた珈琲に手を伸ばして飲む。


「話し難い……シオンと俺を囮に使ったからですか?」


 そうズバリ言う。それを聞いて、アースディア様は珈琲の苦さだけではない、渋い顔をする。


「やはり気付かれておったか……囮というと少々語弊があるのじゃが……」


「ならなんて言うべきです? 揺さぶり、ですか?」


「手厳しいのう……まあ、概ねその通りじゃ」


 やはりあの異界にシオンと俺をやったのは、別の意図があったらしい。

 狙いは明確には分かっていなかったが、ガーディウスになにか揺さぶりを仕掛ける為に俺達を行かせたのではないかとは考えていた。

 でないと、あのタイミングでの救助は出来なかった筈だ。来るにしては余りにもタイミングが良すぎた。


「それで収穫はあったんですか? 肝心のガーディウスには逃げられたみたいですけど……」


 流石にちょっと頭に来ていたんで、痛いところを突く。それに少し苦笑しながら、アースディア様は詳細を説明してくれる。


「うむ……奴が逃走手段を用意していることは想定しておったから、逃げた時に糸を付けて足取りを追って拠点を突き止めた……じゃが、辿り着いた時にはもぬけの殻じゃったよ」


「骨折り損のくたびれ儲け、ですか?」


「いや……奴ら(・・)の拠点の一つは潰すことが出来たのでな。なんの収穫も無かったわけではない」


「そうですか……」


 奴らということは、ガーディウス以外にも別の存在がいるのだろうか? なにか色々と因縁がありそうな雰囲気だ。

 そう神妙に考えていると、俺の表情を見てアースディア様が申し訳なさそうな表情で聞いてくる。


「怒っておるかの?」


「……怒るというよりは、何故? という疑問の方が強いです。俺はともかく、シオンは貴方にとって大切な存在ではないんですか?」


 アースディア様のシオンに向ける愛情は、本物だと感じていた。なのに、今回の件でのシオンに対する扱いは、余りにも危険だった。

 一つ間違えば、シオンを失う可能性だってあった筈だ。それを想定していなかったとは思えない。


「もちろん大切じゃよ。じゃが、任務が本格化すれば、これから先はワシも手を出し辛くなるでの。出来る限り、早めに奴らを牽制しておきたかったのじゃよ」


「奴らとはなんです?」


「うむ……ワシはこの太陽系宙域を統べる神じゃが、この秩序形態を構築するまでには、色々揉め事もあっての。ワシの作った秩序に沿わない神たちの派閥も存在するんじゃ。その一つが、旧神連合(オールド・デウス)の連中じゃ」


「オールド・デウス……」


 神様の世界でも派閥争いなんて物があったのか……どこの世に行っても、意志ある者が集えば争いは起こるということなのかね、と思う。

 まあ、争いというものと縁遠かった世界に生きていた俺には、いまいちピンとこない話ではあるが……。

 そう考えながら、アースディア様の説明に耳を傾ける。


「旧き神を信奉する一派での。今の神々は堕落したと嘆いて、旧体制を取り戻し、新しい秩序の崩壊を望んでいる者たちじゃ。そのトップに立っておるのがロキウスという神じゃ」


「……ロキウスって、確か魔物が生まれた経緯の元凶を作った神ですか?」


 聞いたことがある名前に記憶を探り、思い当たった答えを告げる。


「そうじゃ。奴とは昔からそりが合わんでの。なにかとぶつかっていたのじゃが、ある事件がきっかけで完全に敵対関係となってしまった。そして、そやつが先頭に立って作られた派閥が旧神連合じゃ。そして、ガーディウスは前々から奴と繋がっている噂があった神での……これ以上懐に抱えていることは危険でもあったから、揺さぶりをかけたのじゃ」


「それが今回の一手だったという訳ですか……でも、何故シオンを?」


 そう聞くと、少し重苦しい雰囲気でアースディア様が言う。


「……そなたも見たであろう? シオンの力を……」


 シオンの力……あの得体の知れない力のことか……そう思い、コクンと頷いて言う。


「奴らは、あの力を狙っていると?」


「そうじゃ……あの力は特別での。詳しくはまだ言えんが、奴らがずっと探していた力なのじゃ。それを持つシオンを見せれば、必ず尻尾を出すと踏んでいた。……まさか、あのような強引な手段を取るとは思ってもいなかったがの」


 それを目の前にぶら下げるなんて、大胆なことをした人が言う台詞じゃない気もするが……。


「随分と無茶をしますね……」


「そなたもおったからの」


 そういけしゃあしゃあと言って珈琲を啜るアースディア様。む、無責任な……信頼してくれるのは悪い気はしないが、いくらなんでも期待し過ぎだ。


「余り俺を買い被らないで下さいよ。今回だってギリギリだったんですから……」


「でも、生き残った……そして、あの子を守り通してくれた……礼を言う」


 そう言って、真剣な表情で頭を下げられる。ズルいな~……この爺さんは。一番偉い癖に、簡単に頭を下げる。

 それも真剣にやっているんだから質が悪い……そんな下手に出られると、こっちも対応に困る。だから――


「……それも、アナタが俺の核になにかを施していたお陰でしょう?」


 と、あの時、目を覚ました際の違和感を追究する為にカマを掛けてみる。


「フォッフォッフォッ、そういう聡いところも評価しておる。それに、それを知らずにあの子の為に我が身を顧みず、自らの存在を賭してくれた。あの子の使徒としての資格は十分過ぎる程に示してくれたと思っておる」


 俺の指摘をあっさりと認め、俺を評価するアースディア様。


「(全く……今回の件は、俺を試す為の試練でもあった訳か……敵わないな)それで? 俺の核にどんな保険を仕込んだんです?」


 食えない爺さんだと考えながら、確認する。

 あの時、確かに俺は自身の核の火が完全に消えたのを感じた。だが、目を覚ました時は再び火が灯っていた。

 シオンがどれだけオドを送り込んだところで、種火でも灯っていなければ意味はない。だから、助かったことにずっと違和感があった。

 そこで思い至ったのが、アースディア様に核を預けた出来事だ。俺の核になにかを仕込むなら、あのタイミングしかない。

 シオンやフェルビナさんがやったのなら俺に事前に説明をする筈だし、それ以外には思い浮かばなかった。

 俺に対して妙に期待しているのも感じていたし、この方のことだ……シオンの使徒に選んだからには、なにかしらの保険を用意していてもおかしくないとは思っていた。


「そなたの核には、一度オドが尽きても、瞬時に最低限のオドをよみがえらせるよう仕込んでおる。いわば予備バッテリーじゃな。じゃが、一度使用した後は二十四時間経たぬと効果はよみがえらぬから注意してくれ」


「それはまた、微妙な仕掛けですね。というか、まるで俺の特殊能力に合わせたような能力……まさか、それも仕込んだんじゃないでしょうね?」


「さての……ワシは心当たりはないが?」


 飄々とすっとぼけるアースディア様……明らかに怪しい態度である。


「(この爺……最初から全て想定してやがったな……)」


 ハァ~……と深く溜息を付く。なにかしら手を打っているとは思っていたが、俺自身がシオンを守る為の保険だったという訳だ。

 俺の性格すら見越して全てを仕込んでいたのだとしたら、大したものだと思う。


「(怒るのも馬鹿らしくなってきた……流石神様だ、全て手のひらの上ってことか……)」


 おそらく他にも二手三手考えていたんだろうが、追及しても疲れるだけになりそうだ……そう思い、話題を変える。


「もういいです……話は変わりますが、ヴリトラの一件はどうなりました? なにか分かりましたか?」


 突如異界に現れたレベルSの魔物……シオンと俺で異界の調査報告は上げたが、あれだけが異質だった。

 アースディア様にとっても想定外だったようだし、どうやってあんな魔物を持ち込んだのかも気になる。


「それに関しては現在調査中じゃが、いくつか分かったことがある。まず一つ目は、アレは厳密に言えばヴリトラではないということじゃ」


「ヴリトラじゃない? どういうことです?」


「見た目はヴリトラと瓜二つじゃが、体皮の色が違う。本物のヴリトラの体皮は漆黒での、あのような赤黒い色はしておらんのじゃ」


 そう言えば、フェルビナさんが死体を見た時にそんなことを呟いていたような気がする。


「じゃあ、アレは全く別の魔物なんですか?」


「それも少し違う……言ってみれば変種というべきか……もしくは無理やりヴリトラの形を成した別のなにかじゃ。詳しくは死体と、シオンが別空間に身体の一部ごと取り込んだ魔核を調査中じゃから、ハッキリとはまだ言えん状態じゃがな」


 アースディア様達でもまだハッキリとは正体が掴めない魔物ということか……。


「他に分かったこととはなんです?」


「そなたが吹き飛ばした頭部の肉片から、気になる物質が見つかった」


「気になる物質?」


「うむ……魔核に似た物質じゃが、遥かに高純度の結晶体の破片が見つかった。……ここからは推測となるが、あの魔物は二つの魔核を備えていた可能性がある。それによって、一度倒した後も再び動き出した……そして、その謎の結晶体こそが、ガーディウスが仕掛けたものであり、レベルSの魔物をあの異界に出現させた元凶だと考えておるが……詳細はまだ分からん」


 そんなものが頭部にあったのか……もし頭部以外にあったと思うとゾッとする。あれで倒せて本当に良かった。


「謎の結晶体、ですか……奴の言っていた超異個体(ハイ・ユニーク)とも関連があるんでしょうか?」


「恐らくはの……ワシらも超異個体なんぞ初めて聞く。陰でコソコソと研究していた産物なのではないかというのが、ワシらの推測じゃ……」


 陰でコソコソ、か……そんなことがガーディウスだけで可能だったんだろうか? 力も制限され、監視も付けられていた中で? ……もしかして――


「ガーディウスはちゃんと監視されていたんですよね?」


 と、ある懸念を抱いて確認するように聞くが――


「そなたの言いたいことは分かるが、それ以上は追及せんでくれるか? ワシもその可能性を考えて動いておるので、な」


 と、鋭い目つきでそう釘を刺されてしまう。

 余計なお世話だったか……アースディア様は既に俺の抱いた懸念を察して動いているらしい。

 むしろ、それを探る為に今回の一件を仕掛けた可能性すらある……もしそうだとしたら、末恐ろしい方だと改めて思う。

 そんなシリアスムード満点な話をしている最中、突如それをぶち壊す声が書斎へと鳴り響いた。


<クソジジイーーーーー!! トウマを返せーーーーー!!!>


 頭上に響いた声は、もちろんシオンの声だった。かつてのシオンの怒鳴り込み事件が頭に思い浮かぶ。


「ハハハ……」


 乾いた笑いを発しながら、アースディア様を見ると、あの時と同じように呆れた表情で頭を抱えていた。

 シリアスな話はここまでらしい……そう思いながら、数秒後に飛び込んでくるであろう俺の神様に対して、どう機嫌を取ったものかと頭を悩ませる俺だった。



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