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神様と使徒の異世界白書  作者: 麿独活
第一章 【魔物という存在】
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第一章24 『神様と迎撃作戦』

 レベルSの魔物『ヴリトラ』を確認したボク達は、迎え撃つ覚悟を決めて作戦を練り、作戦が固まった後、それぞれ別行動で作戦の準備をしていた。

 ボクは例の如く囮となってヴリトラをおびき寄せる役で、今は森林エリアの少し高い木の上にいる。そしてトウマは近くにある川で、ある仕掛けの準備の為に待機していた。

 トウマと相談した結果、ヴリトラに通じる攻撃はボクの空間断裂という結論となり、止めはボクが刺すことになった。あれなら、どれだけ防御力が高かろうと大ダメージを期待出来る。

 だけど、あのスピードの相手に対して確実に致命傷を与えるには、馬鹿正直に正面から攻撃を仕掛けても避けられる可能性が高いし、反撃も危険……そう判断したボク達は確実に当てる策を考え、その為の仕掛けをトウマが用意している。

 そして、その場所までヴリトラを誘導するのがボクの最初の役割だ。


 正直何処から現れるか分からない相手に対して囮になるのは怖いし、トウマも心配してくれたけど、これでも神だ……これぐらいで怖気づいてはいられない。

 それに、急に襲われないようにちゃんと対策も取ってある。


「(大丈夫……絶対に上手くいく)」


 そう自分に言い聞かせて、時を待つ……けど――


「(……でも、やっぱり怖いな~……)」


 と、弱気の心が浮かび上がる。そう思い、不安を紛らわす為にトウマに念話で呼び掛ける。


『(トウマ……今大丈夫?)』


『(どうした? なにかあったか?)』


 頭の中にトウマの声が響いて、嘘のように不安が収まってくる。


『(ううん、大丈夫。そっちの準備は上手くいってる?)』


『(ああ、なんとかなりそうだ。実物もちゃんと見せたろ?)』


 トウマの考えを聞いた時は、本当にそんなこと出来るの? と思ったけど、実際に試した物を見せられ、驚いた。

 前々から考えていたアイデアだったみたいで、いつの間にと思ったけど、これなら確実にヴリトラを捉えることが出来る筈だとボクも確信した。

 後はボクが上手くそこに誘い込み、ヴリトラを捕えたら確実に空間断裂で仕留めるだけだ。


『(シオンも抜かりはないよな? フェルビナさんの話じゃ、再生能力も持っているんだろ? それを防ぐ為に確実に魔核と指令を出す脳を切り離さないとならない……その為には奴の魔核の位置を正確に見抜けることが大前提だ)』


『(うん、それは大丈夫。アイツの気配を消す能力でも、ボクの目の力を遮る力は無かった。ちゃんと魔核の位置は把握出来るよ)』


 事前に奴を見た時に通じるのは確認したし、例え魔核の位置を変えられても、目で追う自信はある。中にはそういうことが出来る魔物がいることも把握しているから抜かりはない。


『(ならいいが……やっぱり怖いのか?)』


『(こ、怖くないよ!)』


 一瞬ドキリとして声がどもる。その結果――


『(嘘つけ、不安になって念話使って来たんだろ? シオンは分かりやすいからな~)』


 と、指摘されてしまった。


『(ウゥ~……)』


 トウマに心の内を言い当てられてしまった……トウマは意外に鋭くて、すぐに心の内を見透かしてくる。

 まあ、トウマの言う通りボクが分かりやす過ぎるのかも知れないけど……そう思っていると、トウマが突然質問をしてくる。


『(……異界から帰ったら、なにを食べたい?)』


『(え?)』


 突然の質問で言葉に詰まる。


『(シオンの好きな物を腕によりをかけて作るよ。なにが食べたい?)』


 それを聞いて思う……トウマはズルい、と。普段は意地悪な癖にこういう時はすかさず優しくしてくれる。

 ムクムクとトウマのそばに行きたい想いが湧いてくるが、我慢して答える。


『(えっとね~……カレー!)』


『(またカレーか、好きだね~……)』


『(別にいいでしょ!)』


『(はいはい……他には?)』


『(エビフライとハンバーグ! 後ね……)』


 そうやって不安を完全に忘れてトウマに要望を伝えていた瞬間、けたたましい呼子の音が辺りに鳴り響いた。


『(ワワッ!?)』


『(どうした!? シオン!)』


『(周りに張り巡らせてた呼子が鳴った! 来たみたい!!)』


『(すぐそこから離れてこっちに向かうんだ!)』


『(分かった!)』


 そう答えた瞬間だった。ボクが立っていた場所目掛けて、あの大口が森林エリアの木々の中からいきなり飛び出して来た。

 ボクは辛うじてそれを躱し、即座にその場所を離れる。だけど、それをまるで予期していたように、巨大な尻尾が唸りを上げて猛スピードで襲ってきた。


「(躱せない!?)」


 ボクは咄嗟に空間転移を使って地面に向かって転移して躱す。尻尾は空を切り、辺りに暴風を巻き起こした。

 これで完全にヴリトラの視界からは外れたはず……だけど、奴はキッチリとボクの行方を目で追っていた。


「(やっぱりマナを追われてる……もう空間転移じゃ撒けない!)」


 ボクは、すぐさま身体を反転させて、相手に背を向けて走り出す。それを見てすぐさまヴリトラも追って来た。

 あの時はトウマがいたからスピードを出せなかったけど、ボク一人ならもっと速度を出せる。

 今出せる最高速を出しながら、ボクはトウマがいる川へとヴリトラに追われながら向かった。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 シオンの念話が突然途切れた……ヴリトラと接触して念話をする余裕がなくなったんだろう。

 シオンの身が心配になるが、俺より遥かに強いシオンならやり遂げると信じ、自身の作業を開始する。

 奴に追われているとしたら、ここに来るまでそんなに時間は掛からない。急いで準備を整える為、そばに流れている川の真ん中に作った土台の上に立つ。

 この川はそれなりに大きく、真ん中に行くと俺の腰ぐらいの深さはある。横幅もそれなりにあり、ヴリトラが入れば下腹部は完全に浸かる。ここがアイツを拘束する場所となる。

 俺はシオンが来る方向に向かって立ち、術式を編み始める。使うのは『性質付与』。

 そして付与する効果は一つじゃなく二つ――ここで今まで練習してきた二重術式(デュアル・スペル)が役に立つ。丁度この前ものにしたばかりだったので、つくづく練習しておいて良かったと思う。


 頭の中で作り出す性質を明確にイメージし、それに紐づける形で二つの術式を編み始める。そして、二つの術式と最終形の性質とを連結するように術式を編み合わせて組み上げる。

 そして、術式が形になって展開する段階になった瞬間、凄まじい木々をなぎ倒す音が前方で鳴り響き、目を開く。

 すると、前方の森林からシオンとヴリトラが飛び出して来たところだった。


「トウマ!」


 こちらに呼びかけながらシオンは川の上に空間固定で立ち、そのまま川を遡るようにこちらに向かってくる。

 それを追うようにヴリトラも川へと入り、凄まじい水飛沫が上がる。


「展開!」


 それを見た俺は、両手に組み上げた術式を展開し、発動する準備を整える。そして、こちらに向かうシオンに叫んだ。


「飛べ! シオン!!」


 その掛け声をかけた瞬間、俺は両手を川の中にバシャッ! と浸ける。シオンはそれに合わせるように高く跳び上がった。

 その瞬間に俺は両手に展開していた術式を発動する。川の水に付与するのは『硬化』。

 だが、単純に川の水を硬化させるのではなく、二液が混合されて(・・・・・・・・)初めて硬化する性質だ。

 右手と左手で別々の性質を川の水に付与し、その二つの性質が混ざる事によって初めて硬化する。

 何故そんな回りくどい方法を取るかというと、単純に川の水を硬化させるだけでは威力が弱く、効果範囲も狭くて巨大なヴリトラを捕らえるには強度的にも無理があったからだ。

 だから、二重術式を用いることよって効果や範囲を倍増させた。おまけに嬉しいことに二重術式の相乗効果による副次的効果ですぐに固まる速効性も+αで発動していた。

 エポキシ樹脂の性質を思い出して、応用出来ないかと考えていた方法だったが、ここまでイメージ通りの効果になってくれたのは嬉しい誤算だった。


 性質を付与された二種の水は、川の流れでヴリトラの所にまで至り、混ざった所から一気に硬化していく。そして、水に浸かった胴体から尻尾までをドンドン固めて行った。

 だが、バキバキバキッ! と硬化した水を砕き、そこから逃れようとヴリトラが身体を(よじ)る。


「(不味い!)シオン、そう長くは拘束出来ない! 速攻で仕留めろ!!」


 そう上空に向けて叫ぶ。シオンは空高くに飛び上がった状態で、眼下のヴリトラを睨み据え、そして魔核の位置を捉えたのか手を振りかぶって、一気に振り下ろす。

 その瞬間、手を振った方向の空間が破断して景色がズレたように歪む。そして、ヴリトラの胴体が真っ二つに切り裂かれ、傷口から真っ赤な血飛沫が飛び散る。


「カッ……!?」


 胴体を寸断されて、苦悶するヴリトラ。


「もう一発!」


 空中で身体を捻って回転させ、もう一発空間断裂の刃を叩き込む。それによって、ヴリトラの胴体の一部は見事に輪切りにされ、魔核がある部分が分断された。


「これで終わり!!」


 シオンはそう言って分断された胴体に着地し、その胴体を丸ごと空間操作で異空間に隔離する。

 これで、魔核部分を完全に身体から分断し、修復も不可能となるはず。

 その証拠にヴリトラの瞳からは光が消え、伸び上がっていた首が力を失って地面へと落ち、ズシンッ! という重い音を立てて、力なく横たわった。


「……やったのか?」


 そう呟くと――


「……多分」


 と、シオンが遅れて答える。


「フゥ~……」


 俺は息を大きく吐き出して、緊張していた身体から力を抜く。


「やった~! トウマーーーー!!」


 そう言って駆け寄り、抱き着いてくるシオンを受け止める。


「ああ、やったな! 見事な手際だった!」


「トウマの作戦があったからこそだよ!」


 そう言ってお互い笑顔で相手を労う。一時はどうなるかと思ったが、見事に作戦が嵌って、一気に仕留めることが出来た。

 まだ、帰還出来ない問題があるが、ひとまずの脅威は退けた。そう思い、喜びを抱きながらチラリとヴリトラの死体を見ると、奴の目と俺の目が一瞬ピタリと合う。

 そして、その瞳がギラリと光を取り戻した。

 その瞬間、ゾワリと背筋が凍り付くような寒気が襲い、俺はほぼ反射的に抱き着いていたシオンを突き飛ばした。


「シオン!!」


「え?」


 その瞬間は、まるでスローモーションのようだった。

 突き飛ばされたシオンは、自分が何故突き飛ばされたのか分からないキョトンとした表情をしており、そのシオンの脇を通り過ぎて高速で飛び出してくる物体が、俺の右の肩口付近の腕に喰らい付いた。

 そして、飛び出した勢いに引っ張られるように俺は背後へと吹き飛び、背後にあった崖にそのまま叩き突けられた。

 勢いは止まらず、飛び出してきた物体は突き進んで、そのまま喰らい付いた右手を引きちぎり、岸壁に大穴を穿った。


 そして、その瞬間に俺の意識はプツリと完全に途絶えた……。



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