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神様と使徒の異世界白書  作者: 麿独活
第一章 【魔物という存在】
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第一章20 『神様と不穏の影』

 森林エリアの最初の特異個体討伐を順調に終え、俺たちはいつも通り、エリアの散策や冒険を楽しんでいた。

 森林エリアだけあって色々発見も多く、シオンは様々な虫や動植物を見つけては、図鑑にはない生の感触や動き、匂い等にも一喜一憂している。

 シオンは、様々な知識を図鑑で学んでいたようで、その証拠に自室の本棚は多くの図鑑で埋め尽くされている。それほどの図鑑マニアなので、実物の生態を観察することが楽しくて仕方ないらしい。

 砂漠エリアとは違って、命に満ち溢れている環境には俺自身も楽しく散策していたが、シオンがここまではしゃぐとは思わなかった。まるで好奇心旺盛な小学生が夏休みに初めて田舎に行って、森で遊ぶノリである。


 他にも、生態系が豊かな為か魔物の生息数も多く、小さな群れ等にも幾つか遭遇した。

 もちろん、特異個体(ユニーク)がいる群れ以外は基本干渉してはならないので、見つからないように遠方から観察する程度だったが、色々生態を観察するだけでも、今後の対策を練る上で役に立つので、魔物観察にも精を出した。

 その他にやったのは、やはり食料調達だ。森だけあって、食べられるものは多い。特にキノコ類は色々見つけた。

 シオンの目があれば、毒キノコかそうじゃないかは分かるし、流石図鑑マニアだけあって、色々と詳しい。

 俺に色々と教えることが嬉しいのか、得意満面でキノコの種類や説明をしてくるのが微笑ましかった。

 そんなこんなで森林エリアを楽しんでいた俺達だったが、その翌日、次の特異個体のいる場所へ向かう準備をしていた時に、シオンが異変に気付いた。


「トウマ、山岳エリアの特異個体の反応がまた消えてる……」


「なに?」


 そう言ってシオンの手元のマップを見ると、確かに特異個体の反応を示す光点がまた一つ消えていた。


「どういうことだ? まさか、また別の群れとぶつかったのか?」


「分からない……おまけに、今度は群れ自体の反応も全て消えてる」


「つまり、全滅したってことか……」


「うん……それに最後の特異個体の反応がある場所が、最初に見た位置からあまり変わってないから、特異個体の群れ同士がぶつかった可能性は低いと思う」


 確かにシオンの言う通り、残っている特異個体の反応がある場所は、山岳エリアのほぼ右端付近だ。二体目の特異個体の反応は、前に見た時は中心より左側に寄った場所だった。二体目が移動したとしても、ぶつかるには離れ過ぎている。


「それに……おかしいんだ……」


 そう言って眉を顰めながら、マップを操作するシオン。


「どうした?」


「最初に消えた特異個体の群れの反応が消えてる……確かにマーキングしてた筈なのに……」


「なに?」


 マップを覗き込むと、確かに最初に消えた特異個体の群れの反応も消えている。


「なにが起こってるんだろう、トウマ……」


 原因が掴めない状況にシオンが不安な表情する。

 確かに不気味な現象だ……まさか、新たな特異個体が生まれた? いや、それならその反応が無いのはおかしい。とはいえ、山岳エリアでなにかが起こっていることは間違いない。

 もしかして、ガーディウスの奴がなにかを仕掛けて来た? 脳裏に、異界に出発する前に見た、あの嫌らしく笑った顔を思い出す。


「……とにかく原因が掴めない状態で近づくのは危険だろう。もう少し情報を得る為に様子を見よう」


「……そうだね」


 シオンは俺の考えに賛同する。


「とりあえず、最後の特異個体の反応には注視しよう。もし次に異変が起こるとしたらソイツにだろうしな」


「うん、分かった!」


 そうして、不穏な現象を感知するも、俺たちは次の特異個体を討伐することを優先し、次の特異個体がいる場所へと移動する準備を進めた。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「シオン、仕留めろ!」


「任せて!」


 そう言ってシオンは目標の頭上に向けて高く跳び、目前にいる目標――特異個体『エルダートレント』の頭上に飛び出す。

 エルダートレントは、巨大な古木の魔物で、その大きさは十メートル近い。しかし、シオンはその高さをものともしない位置まで飛び上がり、脳天に目掛けて愛用の斧槍(ハルバード)を振り下ろす。

 バキンッ! という音と共に斧槍は見事にエルダートレントの脳天に喰い込んだ。


「ギイィ!!?」


「ハアァァァーーーーー!!」


 シオンはそのまま斧槍に体重を掛けて、エルダートレントを脳天から斬り割って行く。

 バキバキバキバキッ!! という、音を周囲に響かせながら斬り下ろしていき、やがて地面にまで到達する。

 結果、エルダートレントは脳天から見事に真っ二つにされ、別れた身体は左右へと重々しい音を立てながら倒れて、息絶えた。


「フゥ~……やったね、トウマ!」


「ああ、これで森林エリアの特異個体も後一体だな」


「だね」


 森林エリアの任務は、おおむね順調に進んでいた。だが、俺の頭の片隅には、山岳エリアでの異常事態に関する懸念が消えずに残っていた。


「……シオン、山岳エリアの様子は今どうなってる?」


「そうだね、確認してみる」


 シオンも気になっていたのか、すぐに確認してくれる。そして、マップを開いて確認したシオンから出た言葉は、驚愕の一言だった。


「な、なにこれ……」


「どうした?」


「最後の特異個体の群れの反応がどんどん消えて行ってる!?」


「なに?」


 シオンの手元に表示されているマップを見ると、魔物を示す光点が一つまた一つと消えて行っていた。


「これは……なにかに襲われているのか?」


「でも、なんの反応もないよ?」


「だが、これはどう見ても……」


 明らかになにかに襲われて反応が消えて行っているようにしか見えない。だが、マップにはその襲っているモノの姿は映っていなかった。

 そして、とうとう最後の特異個体の光点も突如消失したように消えてしまう。俺もシオンも、それを黙って見ていることしか出来なかった。


「これで、山岳エリアの特異個体は一体もいなくなっちゃったね……」


「そうだな……そして、その代わりに異界天球儀でも捉えられない、なにかがいる……」


「でも、異界天球儀に反応が映らないなんて……! まさか……」


 シオンがなにかに気付いたような反応をする。


「なにか心当たりがあるのか?」


「うん……前にフェルビナから聞いたことがある。感知から逃れる特殊能力を持つ魔物がいるって……」


「感知って、第六感の感知か?」


「うん、もともとこの異界天球儀も、その感知を応用して魔物の反応を捉えているから、もしかしたらその特殊能力を持っている魔物なら、異界天球儀に映らない可能性があるかも……でも……」


 シオンが、なにやら続きを言いあぐねているように、口ごもる。


「でも、なんだ?」


 俺が続きを促すように聞く。


「……フェルビナの話だと、その特殊能力を持つ魔物は、レベルA乃至(ないし)Sに相当する特異個体だって言ってた……」


「なっ!? つまり、山岳エリアに現れたのは、レベルA以上の特異個体の可能性があるってことか?」


「うん……」


 シオンが深刻な表情をして頷く。レベルA以上となると、俺やシオンに匹敵する――下手をしたらそれ以上の魔物が現れた可能性があるってことになる。


「そんなことが有り得るのか? ここはレベルEの異界なんだろ?」


「うん……レベルC以上の個体が生まれる可能性は低い筈だよ。レベルBが生まれないよう、ボクらがこうやってレベルCを討伐しているんだし、異界天球儀のログにもレベルBが生まれた記録は無かった。それにレベルA以上は、極端なマナやオドの特別な極致汚染でも起きて、それにレベルBの特異個体が晒されない限りは生まれない種なんだ。それは今までの研究からもハッキリしているってフェルビナが言ってた。そして、この異界ではそんな極致汚染が起こるほどの歪みが発生する規模じゃないって話だよ」


「……その歪みを人為的に起こすことは出来ないのか? 例えばガーディウスの奴がなにか細工をしたとか……」


 アイツなら、そのぐらいしてもおかしくないと思う。しかし、シオンは首を振って否定する。


「それも難しいと思う。そんなことが出来ないよう権限を奪っていた筈だし、それにそんな歪みがあったら、フェルビナやボクが調べた時に見つけてるよ。それにさっき晒されるって言ったけど、それは一瞬って訳じゃない……それこそ何年、何十年単位で晒された場合なんだ。時間的にもあり得ないよ」


 確かにシオンの言う通りだ。俺たちがこの異界に来て、まだ二週間ちょっとしか経っていない。そんな短時間で生まれる可能性は低いだろう。


繁殖暴走(ブリードスタンピード)はどうだ? あれだったらレベルAが生まれる可能性も……」


「トウマ、忘れたの? 繁殖暴走では、レベルB同士が子を成しても、レベルA以上は生まれないって、習ったでしょ?」


「あ~……そうだったっけか?」


「そうだよ! もう、しっかりしてよトウマ!」


「すまん、度忘れしてた」


 あの時の講義は、フェルビナさんのスパルタ訓練のせいで、結構放心状態だった時もあったからな~……そのせいで聞き逃していたのかも知れない。戻ったら復習しておこうと心の中で呟く。


「しかし、そうなってくると益々なにか分からなくなるな……。とは言え、もしシオンの言う通りだとしたら、このまま山岳エリアに向かうのも不味いしな……」


「うん、今のボク達で対処出来るか分からない相手になるよ……」


 俺もシオンも、それなりの実力を身に付けた自負はあるが、正直、同等かそれ以上の相手とは相対したことはほとんどない。あるとすれば、フェルビナさんぐらいだ。

 圧倒的に経験が足りなさ過ぎる。ましてや、相手は未知の相手だ。なんの情報もなくぶつかれば、返り討ちに合う可能性も否定出来ない。


「これは一旦戻って、アースディア様達に報告した方がいいな」


 ガーディウスが浮かべたあの笑みも気になる……そう思ってシオンに提案するが――


「そうだけど……まだ、そんな魔物が現れたとは限らないよ?」


 と、まだ確証がないという理由で躊躇するシオン。


「いや、一度異界を出た方がいい。もし俺達の予想が外れていたとしても、外から調べたら新しいことが見えてくる可能性もある。指輪の端末だと詳細な分析も出来ないだろう?」


 そう言って、少し強引だが一度出る方向でシオンを説得する。


「……それもそうだね。じゃあ、拠点に戻って帰還の準備をしよう」


 シオンは、納得したのか俺の提案を受け入れてくれる。そうして、俺達は一度拠点に戻り、帰り支度を整える。

 そして、シオンが指輪の端末を操作して帰還の術式を展開しようとするが――


「……あれ? うそ……なんで!?」


「どうした、シオン?」


「……どうしよう、トウマ……帰還の術式が展開出来ない……」


「なに!?」


 いざ帰ろうとした段階で、指輪の帰還術式が機能しないことが判明する。

 こうして俺達は、未知の魔物が存在するかも知れない異界に、閉じ込められることとなった。



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