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神様と使徒の異世界白書  作者: 麿独活
第一章 【魔物という存在】
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第一章17 『神様と砂漠』

 二体目の特異個体(ユニーク)を倒して、八日が経過した。海洋エリアは、予定通り五日目に三体目の特異個体(再びシーサーペントだった)を討伐し、最後に探索や海を満喫した後、次のエリアへと移動した。

 エリアを出る前、シオンがもっと海で遊びたかったとぼやいていたのが印象的だった。相当気に入った様で、今度自分の領域に海を作ると宣言していた。

 そして、俺達は次の攻略エリアである、砂漠エリアに来ている。

 砂漠地帯は初めて訪れたが、視界一面に広がる砂丘の光景には圧倒された。

 シオンも砂漠は初めての様で、最初ははしゃいでいたのだが、行けども行けども砂しかないので、速攻で飽きた! と愚痴っていた。

 おまけに砂に足を取られて移動に苦労するし、砂嵐に遭遇すると身動き取れなくなる等、海と違って移動における困難さが際立つエリアとなっていた。

 それなりに苦労も多かったのだが、俺は結構楽しんでいた。やはり自分にとって未知の場所を探索するのは楽しい。

 砂漠であっても、生態系は存在しており、それらを見つけるのもまた楽しかった。

 そんなこんなで、砂漠エリアを攻略して行った俺達は、苦労しながらも目標の特異個体を討伐していった。

 そして、いよいよ砂漠エリア最後の特異個体(ユニーク)討伐に挑んでいた。



「トウマ、来たよ!」


 シオンが指し示す先に、砂煙を立てながら砂中を疾走する何かがいる。


「分かった! 鼻先に撃ち込むから、飛び上がったら仕留めろ!」


「了解!」


 俺は弓を引き絞り、狙いすます。そして、宣言通りその魔物の鼻先付近に、矢尻に性質付与を施した爆裂矢を撃ち込む。

 狙い通りの箇所に見事着弾した瞬間、爆音と共に砂埃が高く舞い上がる。

 すると、砂煙の中から胴が異様に長い、巨大なミミズのような魔物が叫び声を上げながら地中から出て来た。

 サンドワームだ。体長はおよそ十五メートルにも及ぶ巨大ミミズ。頭部には目がなく、丸く空いている口の周りには、びっしりと牙が生えている。

 目が見えない代わりに聴覚に優れ、砂中から地上の音を敏感に感じとり、獲物に喰らい付いてくる。

 だが、その優れた聴覚が仇となり、直近で大き過ぎる音を聴くと、驚いて飛び出してくる。

 そして、飛び出して来たところを狙い、待ち構えていたシオンがサンドワームを追うように高く飛び上がり、斧槍(ハルバード)を振りかぶって、巨大な胴へと振り下ろす。

 ズバッ! という音を立て、サンドワームの胴が見事に輪切りとなる。すると、傷口から体液と思われるオレンジ色の液体が吹き出る。

 その勢いは激しく、斬り付けた体勢で固まっていたシオンは、もろにその体液を浴びてしまう。


「ワプッ!?」


「ウワッ!?」


 俺は、咄嗟に飛び退いて浴びるのを避ける。だが、それだけでは終わらず、辺りに凄まじい異臭が広がる。


「グワッ!? なんだ、この臭い……」


 生ゴミを大量に圧縮して腐らせたような臭いに、思わず鼻を摘まむ。

 そして、そんな異臭を放つ体液を諸に浴びてしまったシオンはというと――


「ウゥ~、トウマ~……臭いよ~……」


 と、全身をオレンジ色に染め、幽鬼のようにこちらに両手を伸ばして、涙目で訴えてくる。


「あちゃ~……とにかく臭気だけでも遮断して、直ぐに拠点のオアシスに戻ろう」


「ウゥ~……気持ち悪い~……。トウマ~、抱っこして連れてって~……」


「いや、それはごめん被る」


 キッパリと断る。臭気は防御結界で防げるが、流石にベットリと魔物の体液で汚れたシオンを抱っこするのは抵抗があり、可哀想だが受け入れかねる。


「ウゥ~!」


 だが、シオンはお構いなしにこっちに駆け寄ってくる。


「ウオッ!? ちょっと待てシオン!?」


 俺は慌ててシオンから逃げるが、シオンは諦めずに追い掛けてくる。


「トウマァ~~~!」


「だぁーーーー、来るな~!」


 その後、暫くシオンとの追いかけっこが続いたが、結局逃げきれずに抱き付かれてしまい、俺も魔物の体液まみれになってしまった。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 バシャッ! という水音を立てながら、潜っていたオアシスの泉の底から浮上して水面から顔を出す。


「フゥ~……クンクン……なんとか臭いは落ちたな。ハァ~……酷い目に遭った……」


「それはこっちの台詞だよ!」


 俺が浮き上がったところから、少し離れた水面にプカプカ浮いていたシオンが文句を言う。


「だからって、俺まで巻き込まなくてもいいだろう?」


「だって~……」


「だってじゃない。大体、シオンの創造の力なら消すことも出来ただろ?」


「臭くてそれどころじゃなかったんだもん」


「まったく……頼りない神様だな……」


 俺がそうぼやくと、シオンはプク~ッと頬を膨らませて顔を赤くし、プイッと顔を背ける。


「もう砂漠エリアはイヤ! 早く次のエリアに行こう、トウマ!」


 ヘソを曲げてしまった……。ちょっと言い過ぎたかも知れない。まあ、シオンの気持ちも分からないでもない。

 砂漠は退屈で面倒な上、最後の最後であんな目に遭えば、誰だって嫌にもなる。


「……お昼ご飯は好きな物を作ってやるから、機嫌直せ」


 シオンは少し考え込んだ後、ポツリと呟くように言う。


「……カレーが食べたい」


「はいはい、余りの魚介類を使ってシーフードカレーにしよう」


「わ~い♪」


 好物で簡単に機嫌を直すシオン。現金なものである。


「じゃあ、用意するから手伝ってくれ」


「は~い!」


 先程のテンションとは打って変わり、上機嫌で返事をするシオン。

 その様子に内心苦笑しながらも、うちの神様のご機嫌を損なわないよう、気合いを入れて調理しようと心に決め、オアシスの泉から出る。

 二人共、着ていた水着から綺麗にした服に着替え、調理の準備を行う。


「じゃあ、シオンは魚介類の下拵えをしてくれ。 ムール貝が残ってたろ? あれを白ワインで二分ぐらい蒸し焼きにするんだ。終わったら、教えてくれ。その後はオリーブオイル、ニンニクを弱火で炒めて、匂いがうつったらバターを加える。それで、イカとエビを軽く炒めてくれ」


「分かった♪」


 シオンに指示を伝え、俺はまずご飯を炊く準備を行う。それが終わったらルーを用意する為、鍋にバターをしき、切ったタマネギを飴色になるまで弱火で炒め始める。


「トウマ、ムール貝の蒸し焼き出来たよ」


「サンキュー。じゃあ、蒸した時の白ワインを別の容器にとっておいてくれ。後でこっちに使うから」


「了解!」


 シオンは、俺の指示通りにテキパキと作業を進めていく。大分、手際が良くなってきた。

 俺はシオンの手際を横目で見て、少し感心しながらもタマネギを炒め続ける。色付いたら、鍋に水と先程のムール貝を蒸し、出汁が滲み出た白ワイン、乱切りしたニンジンを入れ、ニンジンに火が通るまで中火で煮込む。


「トウマ~、イカとエビも炒め終わったよ。これぐらいで良い?」


 そう言って炒め終わったイカとエビを見せてくる。


「ああ、上出来。お皿に取り出しておいてくれ。後は、ご飯だな。準備は済ませてあるから、炊いてくれるか?」


「了解、任せといて!」


 シオンは嬉々として準備を始める。好物を作る為か、いつもより気合いが入っている様子に、自然と顔が綻ぶ。

 砂漠エリアでは、あまり良い思い出がなかった分、このシーフードカレー作りが良い思い出になるよう、美味しい物を作らないとな、と気合いを入れて調理を進める。

 ニンジンに火が通ったら、火から一旦下ろし、ルーを割り入れて溶かす。溶けたら再び火に戻し、少し燃料を減らして火力を弱め、トロミがつくまで煮込み続ける。それが終わったら、一旦馴染ませる為に、火から下ろして寝かせて置く。

 後は、ご飯が炊けるまで手が空いたので、後片付けを行った。


「トウマ~、ご飯が炊けたよ」


「分かった」


 シオンからの報告を受け、寝かせておいたカレーを火に戻し、温め直す。その後、炒め終わったイカとエビを加える。


「シオン、ご飯を器に盛ってくれるか?」


「は~い」


 シオンはご飯を器に盛り、持って来てくれる。


「はい、トウマ!」


「おう」


 俺は、シオンが持ってきたご飯にカレーを掛ける。


「ワァ~、良い匂い♪」


「良い感じだな。じゃあ、その上に蒸したムール貝をのせて完成だ!」


「トウマ、早く食べよう!」


「はいはい」


 急かすシオンに苦笑しながら、もう一人分を用意する。そして、二人で席に付き、出来上がったシーフードカレーを頂くことにする。


「じゃあ、いただきます!」


「いただきます♪」


 一口食べて咀嚼する。コクのあるカレーの風味が鼻に抜け、舌の上に魚介の旨味が広がる……美味い、出来映えは上々だ。ふとシオンを見ると――


「ンゥ~~~~~♪」


 と、カレーの味に悶えていた。どうやらお気に召したようだ。これで、あの酷い体験で沈んだ気持ちも盛り返しただろう。

 いつかこの日を思い出した時、あの酷い思い出も笑い話にすることが出来ればいいが……そんなことを思いながら、二人で食べ進め、シーフードカレーに舌鼓を打った。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 シーフードカレーを食べ終わり、後片付けを済ませた後、俺達は今後の予定を決める為に、話し合っていた。


「砂漠エリアの特異個体はこれで全部倒した訳だが、さっき言ってた通り、もう次のエリアに向かうのか?」


「ボクはそうしたい。このオアシスは心地良いけど、他に見るべき場所もなさそうだしさ。トウマはどう?」


「シオンがそうしたいなら、反対する理由はないよ。そうなると出発は明日か。今からだと、森林エリアに着く頃には日が落ちてしまうしな」


「そうだね~、今日はのんびりオアシスでくつろご~♪」


 そう言って、持ち込んだ背もたれ付きの折り畳み椅子に身を沈める。

 本来は任務中の身なんだが、このオアシスが憩いの雰囲気を助長させているようで、バカンス染みた態度を取るシオン。

 好物のカレーに満足したのは良かったが、緊張感は完全に抜けてしまったらしい。

 余り良い傾向とは言えないが、大変な目にもあったし、今日一日ぐらいは良いかと思い直す。


「じゃあ、晩御飯まで自由時間か……。なら、俺は二重術式(デュアル・スペル)の練習でもするか……」


「トウマは、本当に真面目さんだね~」


「ほっとけ。最近、ようやくコツが掴めて来たからな。早くものにしたいんだよ」


 二重術式は、あれから練習を重ねていて徐々に形になり始めている。

 とにかく術式を編む時のイメージが肝であり、そこがしっかりしていると、術式を編みやすいことが分かってきた。

 後は、ひたすら反復してイメージを定着させていけば、よりスムーズに使えるようになる筈だ。

 その為に暇を見つけては、練習していた。


「じゃあ、ボクはお昼寝するね。晩御飯の準備する時に起こして」


「ああ、分かった」


「お休み~」


「お休み」


 そう言って目を閉じて寝てしまう。そんなシオンに持ち込んだタオルケットを掛けてやり、俺の方は二重術式の練習の為に目を閉じて、集中するのだった。


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